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平成30年版 犯罪白書 はしがき

はしがき

我が国の犯罪情勢は,平成14年に戦後最多となった刑法犯の認知件数が,その後毎年減少を続け,29年も戦後最少を更新するなど,全体として見ると改善傾向が続いている。しかし,その一方で,暴行,脅迫,特殊詐欺等はなお高止まり又は増加傾向にあり,来日外国人による刑法犯・特別法犯の検挙件数が増加に転じ,再犯者率も上昇を続けるなど,様々な課題を有しており,「世界一安全な日本」創造戦略(平成25年12月閣議決定)の下,「世界一安全な国,日本」を創り上げるためには,これらの課題に的確に対応していく必要がある。

平成20年版犯罪白書が「高齢犯罪者の実態と処遇」を特集してからちょうど10年が経過したが,世界で最も高い高齢化が引き続き進行する中で,刑法犯検挙人員や入所受刑者に占める高齢者(65歳以上の者)の比率も上昇を続け,検挙罪名では窃盗,とりわけ万引きの割合が高齢者,特に女性高齢者において顕著に高く,殺人や傷害・暴行の検挙人員も高止まりないし増加の傾向が見られるとともに,高齢出所受刑者の2年以内再入率が非高齢者より一貫して高いなど,高齢者犯罪・高齢犯罪者の問題が重要性を増している。再犯防止に関しては,「再犯防止に向けた総合対策」(平成24年7月犯罪対策閣僚会議決定)の下,関係諸機関の連携により様々な取組が推進されており,28年12月,再犯の防止等の推進に関する法律が制定され,29年12月には再犯防止推進計画が閣議決定されるなど,制度面でも整備が図られているが,同計画においては,犯罪をした者等が,その特性に応じ,刑事司法手続のあらゆる段階において,切れ目なく,再犯を防止するために必要な指導及び支援を受けられるようにすることが基本方針の一つとして定められており,出所後短い期間で刑務所に再び入所する比率が高い高齢者は,最重要ターゲットの一つとなっている。

そこで,本白書では,「進む高齢化と犯罪」と題して特集を組むこととし(第7編),我が国における高齢化の現状や,高齢者の意識に関する調査結果等を紹介した上,高齢者犯罪の動向や,刑事司法の各段階における高齢犯罪者処遇の現状,高齢犯罪者の再犯の状況や高齢者を被害者とする犯罪の動向等を概観・分析するとともに,窃盗,殺人,傷害・暴行の各犯罪類型につき特別調査を行い,これらの犯罪に及んだ高齢者の実態と背景・要因等を検証・考察した。また,高齢犯罪者等を対象とした近時における各種施策の運用状況を概観し,海外の高齢犯罪者処遇の事例も踏まえて,高齢者犯罪の防止等に向けた提言を行い,今後の議論の参考に資することとした。

平成29年を中心とする最近の犯罪動向と犯罪者処遇の実情を扱った本白書のルーティン部分が犯罪情勢の定点観測を行うための素材として,効果的な刑事政策の立案の基盤となるとともに,本特集が,高齢者による各種犯罪や高齢犯罪者に対する各種施策の現状を知り,高齢者犯罪の抑止・再犯防止,高齢犯罪者の処遇等に関する様々な問題に引き続き取り組む上での基礎資料として広く活用されれば幸いである。

終わりに,本白書の作成に当たり,最高裁判所事務総局,内閣府,警察庁,総務省,外務省,財務省,文部科学省,厚生労働省,国土交通省その他の関係各機関から多大な御協力を頂いたことに対し,改めて謝意を表する次第である。


平成30年12月


法務総合研究所長 佐久間達哉