平成元年(1989年),サミットの宣言を受けて金融活動作業部会(FATF:Financial Action Task Force)が設立された。FATFは,薬物犯罪に関して,マネー・ローンダリングの犯罪化,金融機関等による顧客の身元確認及び疑わしい取引についての権限のある当局への報告,不法収益の保全及び没収,国際協力の強化等各国の採るべき措置を勧告することをその出発点としていたが,その後,重大犯罪一般についてのマネー・ローンダリング対策やテロ資金供与対策についても取り組むようになった。平成24年(2012年)2月に採択された最新のFATF勧告(第4次改訂勧告)では,従来の40の勧告(平成2年(1990年)採択。平成8年(1996年)及び平成15年(2003年)に改訂)及びテロ資金供与対策に関する9の特別勧告(平成13年(2001年)採択。平成16年(2004年)に改訂)を統合・合理化する一方で,大量破壊兵器の拡散に関与する者の資産凍結の実施や法人・信託に関する透明性の向上等,マネー・ローンダリング,テロ資金供与の温床となるリスクが高い分野における対策の重点化を求める内容となっている。我が国も,FATF加盟国の一員として,犯罪収益移転防止法に基づき,金融機関等の特定事業者による顧客の身元等の確認や疑わしい取引の届出制度等の対策を実施しているほか,国家公安委員会が,疑わしい取引に関する情報を外国関係機関に提供することなどにより,マネー・ローンダリング対策及びテロ資金供与対策における国際的な連携に積極的に参加している。
最近では,平成26年(2014年)11月,いわゆるマネロン・テロ資金対策関連三法が成立し,<1>テロリズムに対する資金その他の利益の供与の防止のための措置を適切に実施するため,公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金等の提供等の処罰に関する法律(平成14年法律第67号。いわゆるテロ資金提供処罰法)の改正により,公衆等脅迫目的の犯罪行為を実行しようとする者に対する資金以外の利益の提供に係る行為についての処罰規定等が整備され(平成26年法律第113号),<2>犯罪収益移転防止法の改正により,疑わしい取引の届出に関する判断の方法,外国所在為替取引業者との契約締結の際の確認義務,犯罪収益移転危険度調査書の作成等に係る国家公安委員会の責務等が定められた(平成26年法律第117号)ほか,<3>国際連合安全保障理事会決議第1267号等を踏まえ我が国が実施する国際テロリストの財産の凍結等に関する特別措置法(平成26年法律第124号。いわゆる国際テロリスト財産凍結法)が制定され,国際テロリストとして公告又は指定された者(以下,この項において「公告国際テロリスト」という。)が金銭の贈与等の一定の行為をする場合に都道府県公安委員会の許可が必要になるほか,公告国際テロリストが所持している規制対象財産の一部について,都道府県公安委員会が提出を命じ,仮領置することができるなど,国際テロリストに係る国内取引が規制されることとなった。