平成25年12月,2020年オリンピック・パラリンピック東京大会の開催を見据えた「「世界一安全な日本」創造戦略」が閣議決定され,国民が安全で安心して暮らせる国であることを実感できる,「世界一安全な国,日本」を創り上げることを目指して,官民一体となった様々な犯罪対策が講じられているが,良好な治安を確保するためには,常にその時々の犯罪情勢を的確に把握して対策を講じるとともにその効果を検証していく必要がある。
我が国の犯罪情勢を見ると,刑法犯の認知件数が戦後最多を記録した平成14年をピークとして,その後大きく減少するなど全体としては改善傾向にあるが,凶悪事件の発生が後を絶たない上,近年,特殊詐欺やストーカー犯罪,児童虐待事件が増加するとともに,窃盗や覚せい剤事犯といった身近で起こり,かつ量的にも大きな比重を占める犯罪において再犯の問題が顕著になっている。こうした状況を踏まえ,国民が安全で安心して暮らしていくことができる社会を創り上げていくためには,問題となっている犯罪の発生を抑止するための対策と共に,一たび犯罪や非行といった過ちを犯した者に対して,それを繰り返させないようにするための再犯防止対策を充実させ,これを着実に実践していくことが重要である。
この点,犯罪対策閣僚会議が平成24年7月に決定した「再犯防止に向けた総合対策」においては,対象者の特性に応じた指導及び支援の強化等が重点施策に掲げられ,その後,関係諸機関の連携により様々な施策が推進されているが,未だ道半ばであり,依然刑務所を出所した者の約4割が5年以内に再犯に及んで受刑するに至っており,そのうちの約半数の者は2年以内に再び受刑している状況にある。前記総合対策は策定後おおむね5年後を目途に見直しを行うとされているが,より効果的な見直しを行うためには,多角的な検討を行うための基礎資料が必要不可欠であり,本白書では,平成27年を中心とする最近の犯罪動向と犯罪者処遇の実情を概観するとともに,「再犯の現状と対策のいま」と題して特集を組み,第5編「再犯・再非行」において再犯とその対策を重点的に取り上げることとした。
本特集においては,各種統計資料に基づき,再犯・再非行に関する近年の動向を多角的に分析するとともに,再犯防止に向けた各種の施策や取組の実情を概観したほか,当所がこれまでに実施した研究から得られた知見についても整理して取りまとめ,現時点での再犯防止の到達点と今後の検討課題について考察を試みている。
本白書が,再犯防止に関するデータブックとして広く活用され,今後の再犯防止対策の充実・強化に多少なりとも寄与することができれば幸いである。
終わりに,本白書の作成に当たり,最高裁判所事務総局,内閣府,警察庁,総務省,外務省,財務省,文部科学省,厚生労働省,国土交通省その他の関係各機関から多大の御協力を頂いたことに対し,改めて謝意を表する次第である。
平成28年11月
法務総合研究所長 佐久間達哉