刑事訴訟法の改正(平成19年法律第95号)により,平成20年12月1日から,被害者参加制度が実施されている。この制度では,一定の犯罪の被害者等は,裁判所の決定により被害者参加人として刑事裁判に参加し,公判期日に出席できるほか,検察官の訴訟活動に意見を述べること,情状事項に関して証人を尋問すること,自らの意見陳述のために被告人に質問すること,事実・法律適用に関して意見を述べることなどができる。そして,被害者参加人が公判期日等に出席する場合において,裁判所は,被害者参加人と被告人や傍聴人との間を遮へいする措置を採ったり,適当と認める者を被害者参加人に付き添わせることができる。
また,犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律(平成12年法律第75号。以下この項において「犯罪被害者等保護法」という。)及び総合法律支援法により,被害者等は,刑事裁判への参加を弁護士に委託する場合に,資力に応じて国選被害者参加弁護士の選定を請求することもできる。
通常第一審における被害者参加制度の実施状況の推移(最近5年間)は,5-2-1-3表のとおりである。
さらに,平成25年6月,刑事事件の手続への参加に伴う被害者参加人の経済的負担を軽減するため,犯罪被害者等保護法及び総合法律支援法が改正され(平成25年法律第33号。同年12月1日施行),公判期日又は公判準備に出席した被害者参加人に対して被害者参加旅費等を支給する制度(同旅費等に関する事務は日本司法支援センターが行う。)が創設され,また,裁判所に対する国選被害者参加弁護士の選定の請求に係る資力要件が緩和された。
被害者等は,公判期日において,被害に関する心情その他の被告事件に関する意見を陳述し,又は,これに代え意見を記載した書面を提出することができる。
公判廷における証人を保護するための制度としては,証人尋問の際に,証人と被告人や傍聴人との間を遮へいする措置を採る制度,証人を別室に在席させ,映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話する方法(ビデオリンク方式)によって尋問する制度,適当と認める者を証人に付き添わせる制度がある。これらの制度は,被害者等が公判期日において意見を陳述する場合においても適用される。
刑事手続において被害者の氏名等の情報を保護するための制度としては,被害者特定事項秘匿決定,証拠開示の際の被害者特定事項の秘匿要請がある。なお,平成27年6月,裁判員法が改正され(平成27年法律第37号。同年12月12日施行),裁判員等選任手続において,犯罪被害者の氏名等の情報を保護するための規定が整備された。
意見陳述,証人の保護等(遮へい,ビデオリンク,付添い)及び被害者特定事項秘匿決定の実施状況の推移(最近5年間)は,5-2-1-4表のとおりである。
刑事事件の被告人と被害者等は,両者間の当該被告事件に関連する民事上の争いについて合意が成立した場合には,共同して,その合意の内容を当該被告事件の公判調書に記載することを求める申立てができる。これが公判調書に記載された場合には,その記載は裁判上の和解と同一の効力を有し(刑事和解),被告人がその内容を履行しないときは,被害者等はこの公判調書を利用して強制執行の手続を執ることができる。
さらに,平成20年12月から,一定の重大犯罪について,被害者等が刑事事件の係属している裁判所に損害賠償命令の申立てを行い,裁判所が有罪判決の言渡しを行った後に引き続き審理を行い,刑事裁判の訴訟記録を取り調べるなどして申立てに対する決定を行う制度(損害賠償命令制度)が実施されている。
刑事和解及び損害賠償命令制度の実施状況の推移(最近5年間)は,5-2-1-4表のとおりである。
公判記録の閲覧・謄写については,裁判所は,被害者等には原則として認めることとされている(いわゆる同種余罪の被害者等に対しても,損害賠償請求権の行使のために必要があり,相当と認めるときは,閲覧又は謄写が認められる。)。被害者等が公判記録の閲覧・謄写をした事例数の推移(最近5年間)は,5-2-1-4表のとおりである。
不起訴事件の記録については,原則として非公開であるが,被害者等が民事訴訟において損害賠償請求権その他の権利を行使するために実況見分調書等の客観的証拠が必要と認められる場合等には,検察官は,関係者のプライバシーを侵害するなど相当でないと認められる場合を除き,これらの証拠の閲覧又は謄写を許可している。また,被害者参加制度の対象事件については,被害者等が「事件の内容を知ること」等を目的とする場合であっても,不起訴事件の記録中の客観的証拠については,原則として,閲覧が認められている。