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 昭和40年版 犯罪白書 第二編/第二章/一/1 

第二章 矯正

一 刑務所における処遇

1 刑務所における収容状況

(一) 概況

 刑務所の収容者には,受刑者のほか,被告人,被疑者などの未決拘禁者,死刑確定者,罰金未納による労役場留置者,観護措置の仮収容者および女子の収容者が保育している満一才までの乳児などがある。このうち,未決拘禁者のみを収容する施設を拘置所と呼んでいるが,現在,独立した拘置所は昭和一二年に創設された東京拘置所を含めて七施設,拘置支所九九施設である。しかし,これらの拘置所には,施設の運営上,受刑者も収容されており,同様にまた,本来,受刑者のみを収容する刑務所も,ほとんど全部の施設が,未決拘禁者を収容する区画を設けている。なお現在,刑務所は五七施設,ほかに少年刑務所九施設,刑務支所一五施設がある。
 これら全施設における昭和三八年の一日平均収容人員は,II-26表(1)のとおり,六五,八一四人(うち一,八〇〇人は女で,二・七%にあたる)で,その内訳は,受刑者五四,八九七人,死刑確定者五六人,被告人九,四七八人,被疑者九〇七人,労役場留置者四三五人およびその他(引致状による留置者または観護措置に付された仮収容中の少年等)四一人である。前年の収容者一日平均人員六七,七六九人に比較すると,一,九五五人(五・九%)減少している。刑務所における収容人員は,II-26表(1)のとおり,逐年減少の傾向をたどっているが,収容定員(構外作業泊込場,病舎等の定員は含まない)六〇,九七一人に対比すると,収容率は一〇八%であり,なお,いぜんとして過剰拘禁状態をつづけている。

II-26表

 次に,これらの施設における入出所の状況をみると,II-26表(2)のとおり,入所,出所あわせて,年間延べ三〇八,七一〇人(前年の三一八,七六七人に比較して五・四%減)におよんでいる。
 現在,これらの施設に配置されている職員は,事務官三三九人,看守長七五一人,副看守長一,一四九人,看守部長二,五六〇人,看守九,六三六人,技官(作業,分類鑑別,医師,薬剤師その他)八六六人,教官一〇五人その他一,二三六人,合計一六,六四二人(うち女子九八一人)であるが,そのうち直接,被収容者の身柄に日夜接している第一線の職員(看守部長および看守)の負担率は,II-27表のとおり,男子職員一人あたり五・四人,女子職員一人あたり四・二人である。しかし,これは,職員がすべて毎日二四時間勤務していると仮定した場合のものであるから,実際には,はるかに大きな負担率となっていることがうかがわれる。

II-27表 刑務官に対する被収容者の比率(昭和34〜38年)

(二) 新受刑者の数

 昭和三八年における新受刑者(年間新たに入所した受刑者をいい,死刑の執行を受けたもの一二人を含む)の数は,三四,六〇三人(うち一,一一九人は女子で,三・二%にあたる)である。最近五年間における新受刑者の数を比較してみると,II-28表のとおりで,年年減少しており,昭和三四年を一〇〇とする指数で示せば,昭和三八年は七六となっている。

II-28表 新受刑者数と指数(昭和34〜38年)

(三) 新受刑者の性別

 新受刑者の性別を比較してみると,昭和三八年には男子は三三,四八四人(男女合計の九六・八%にあたる)女子は一,一一九人(三・二%にあたる)であり,前年に比べ,男子は一,二六五人(対前年比三・六%)の減,女子は一二八人(同じく一〇・三%)の減となっている。なお,最近五年間の傾向を見ると,男子は逐年減少しているのに対し,女子は昭和三七年にひとつのピークを作り,再び減少に転じていることが目だち,II-29表に見られる男子一,〇〇〇人に対する女子の割合にも,その傾向を見ることができる。

II-29表 新受刑者の男女の比率(昭和34〜38年)

(四) 新受刑者の年齢別

 新受刑者の年齢別構成を百分比によってみると,II-30表のとおりで,昭和三八年では二〇-二九才のものが五三・四%と全体の過半数を占め,次いで三〇-三九才が二九・二%,四〇-四九才が九・六%,五〇才以上五・五%,二〇才未満二・三%の順となっている。この比率は,ここ数年ほとんど変っていない。

II-30表 新受刑者の年令層別人員の比率(昭和34〜38年)

 さらに,昭和三八年の新受刑者について,男女別年齢構成をみると,II-31表のとおりで,男女とも二五-二九才のものが,もっとも多い。しかし,男子では二〇-二四才のものが,二五-二九才のものと,ほぼ同じくらいの割合で多数を占め,二〇-二九才のものが,全体の過半数を占めているのに対し,女子では,二〇-二四才,三〇-三四才,三五-三九才,四〇-四九才の四つの年齢層が,いずれも一五-一九%という割合を示しており,男子に比し,女子の方が,高年齢の方に幅広く分布している。しかも,この特徴は,II-1図のとおり,昭和三四年に比較してさらに一そう顕著になっていることがうかがわれる。

II-31表 新受刑者の男女別年令層別比較(昭和38年)

II-1図 新受刑者の男女別年令層別比率の変化(昭和34,38年)

(五) 新受刑者の刑名別

 昭和三八年の新受刑者を刑名別にみると,懲役三三,三九二人(全体の九六・五%),禁錮一,〇九八人(三・二%),拘留一〇一人(〇・三%)死刑(執行を受けた者)一二人(〇・〇三%)となっている。これを最近における新受刑者の別名別の割合と比較してみると,II-32表のとおり,懲役刑の割合が年をおって減少している半面,禁錮刑の割合が増大している。この増大は,業務上過失致死傷事件の増加によるものである。

II-32表 新受刑者の刑名別人員および割合(昭和34〜38年)

(六) 新受刑者の刑期別

 II-33表は最近五年間における新受刑者の刑期別人員の比率を示すものであるが,これによると,懲役受刑者において,刑期一年以下のものの占める割合の減少傾向は,いぜんとして続いており,昭和三八年は前年よりも,さらに一%減って,四七・三%となっている。禁錮受刑者においても,刑期三月以下のもの,六月以下のものの占める割合が,しだいに減少し,その反面,一年以下のもの,二年以下のものの割合が漸増している。このように,禁錮受刑者に刑期の長いものが増加したことは,禁錮受刑者全体としての数の増加と相まって,刑務所における禁錮受刑者の処遇上,ひとつの問題を提起することとなった。

II-33表 新受刑者の刑期別人員の比率(昭和34〜38年)

(七) 新受刑者の犯数別

 新受刑者を刑法上の累犯と,そうでないものとに分けて,その比率をみると,昭和三八年の有期懲役新受刑者三三,三一五人のうち,累犯は五六・五%で,前年に比べ一・五%減少しているが,II-34表によって,最近五年間の推移をみると,その割合は,ほぼ一定しているといえる。ただし,女子のみについて累犯の割合をみると,昭和三四年(三八・三%)三五年(四三九%)三六年(四五・八%)三七年(四九・七%)と逐年増加して,三八年には遂に累犯の方が五一・八%と,過半数を占めるにいたっている。

II-34表 新受刑者の犯数別人員の比率(昭和34〜38年)

(八) 新受刑者の入所度数

 新受刑者について,刑の執行を受けるため新たに入所した度数(復所または移送による入所度数等は含まない)別に,その割合をみると,昭和三八年には,全く初めてのもの四二・二%,二度目のもの一八・七%,三度目のもの一二・〇%,四度目のもの八・五%,五度目のもの五・九%,六度目以上のもの一二・七%であり,この割合は,II-35表のとおり最近五年間,あまり大きく変っていない。次に,男女別にみると,女子は男子に比べて,一度目のものの割合が高いが,昭和三四年には六〇・三%と過半数を占めていたものが,三八年には四六・六%と,男子の割合に近づいてきている。

II-35表 新受刑者の入所度数別比較(昭和34,36,38年)

(九) 新受刑者の刑事処分歴および保護処分歴

 新受刑者のうち刑事処分歴のあるものは,昭和三八年には,二五,五二四人(七三・七%)であり,II-36表のとおり,昭和三五年以降,わずかではあるが減少の傾向にある。なお,その内訳は実刑が大部分(二〇,〇八九人)を占め,単純執行猶予がこれに次いで多い。

II-36表 新受刑者刑事処分歴別人員の率(昭和34〜38年)

 次に保護処分歴のあるものは,昭和三八年には,五,九一九人(一七・一%)で,実数においても(二一〇人)比率においても(一・二%)前年より増加した。しかし,その内訳を最近五年間についてみると,II-37表のとおり,少年院送致となったものは,昭和三六年をピークとして漸減しているのに対し,教護院または養護施設に送致されたものと保護観察所の保護観察に付されたものの割合は,かなり急激に増加している。

II-37表 新受刑者の保護処分歴別人員の率(昭和34〜38年)

 次に,新受刑者のうち,刑事処分歴と保護処分歴とを併有するものは,昭和三八年には,四,一〇九人(一二・〇%)であり,前年に比べ,実人員(一八五人),構成比率(一・一%)ともに増加している。II-38表は,最近五年間における刑事処分歴と保護処分歴の関係の推移をみたものであるが,これによると,両処分とも受けたものが構成比率,実人員(昭和三四年は二,六八二人,三五年は三,一七九人,三六年は三,五五八人,三七年は三,九二四人,三八年は四,一〇九人)ともに,年をおって増加していることがわかる。なお,刑事処分のみ受けたものと保護処分のみ受けたものとは,構成比率の上で,漸増と漸減という二つの相反する傾向を示している。

II-38表 新受刑者の受けた刑事処分と保護処分の関係(昭和34〜38年)

 さらに,昭和三八年の新受刑者について,入所度数ごとに保護処分歴の有無をみると,II-39表のとおりであり,入所度数一度目から三度目までのものでは,五人に一人の割で保護処分を受けたものがおり,また九人に一人の割で,少年院送致の経験者のいることがわかる。

II-39表 新受刑者の入所度数別保護処分歴別人員(昭和38年)

(一〇) 新受刑者の罪名別

 昭和三八年における新受刑者の罪名別構成比率は,II-40表の示すとおりであり,刑法犯の占める割合は九二・七%と圧倒的に多く,特別法犯は,わずかに七・三%を占めるにすぎない。ここ数年,人員,構成比率ともに,漸増の傾向にあった特別法犯であるが,昭和三八年には,構成比率において〇・二%,人員において一六三人の減となっている。

II-40表 新受刑者の罪名別人員の比率(昭和34〜38年)

 刑法犯の内訳についてみると,新受刑者の過半数を占めてきた窃盗が,最近五年間引続き減少の一途をたどり,昭和三八年には,一五,七四〇人(四五・五%)となり,三四年に比べ,人員において九,一五〇人,構成比率において九・五%と大幅に減少していることが注目される。これに対して,恐かつ,わいせつ・かんいん,傷害,殺人は,いずれも年ごとに増加している。
 特別法犯では,前年に比べ,暴力行為等処罰に開する法律違反の増加したことと,麻薬取締法違反の減少したことが目だつ。

(一一) 新受刑者の国籍別

 新受刑者の国籍別は,II-41表のとおりで,日本人が大部分を占め,昭和三八年では,新受刑者の九四・九%(三二,八三九人)である。最近五年間,外国人は逐年減少しているが,昭和三八年には,朝鮮人一,六八二人(新受刑者総数の四・九%)のほか,中国人四三人(〇・一%),アメリカ人三〇人(〇・一%)などがいる。

II-41表 新受刑者の国籍別人員の比率(昭和34〜38年)

 外国人のうちで最も多い朝鮮人を日本人と比較してみると,II-42表のとおりであって,朝鮮人においては,特別法犯が比較的多く,朝鮮人新受刑者の一六・九%(日本人では六・七%)を占めていること,次に刑法犯の罪名別構成比率では,傷害が一〇・七%(日本人では九・四%)とわずかに高いこと,特別法犯では,暴力行為等処罰に関する法律違反が一・五%(日本人では一・一%),麻薬取締法違反が六・二%(日本人では二・六%),出入国管理令違反が三・九%(日本人では〇・〇二%)と,その構成比率の高いことが注目される。

II-42表 新受刑者の国籍別,罪名別人員と率(昭和38年)

(一二) 新受刑者の出生地および犯罪地

 昭和三八年の新受刑者について,その出生地をみると,東京が二,七一〇人(新受刑者総数の七・八%),で最も多く,以下,北海道(二,三三六人),大阪(二,一一七人),福岡(一,九九七人),兵庫(一,六二五人)の順に多く,福井(一九六人)が最も少ない。
 犯罪地についても同様に,東京が五,三五八人(一五・五%)で最も多く,次いで,大阪(三,七三三人),北海道(二,四二四人),兵庫(二,三〇六人),神奈川(一,九七七人)と続き,福井(一二三人)が最も少ない。これを昭和三四年と比較すると,新受刑者の出生地および犯罪地が,大都市をその中に含む都道府県に集中しつつある模様がうかがわれる。すなわち,上記の東京以下,五都道府県を出生地とする新受刑者は,昭和三四年においては,新受刑者総数の三五・四%であったものが,昭和三八年には三七・五%となり,同じく犯罪地については,五二・七%から五六・八%と増加している。

II-43表 新受刑者の出生地,犯罪地府県別人員(昭和34,38年)

(一三) 新受刑者の入所前職業

 新受刑者の入所前(犯時)の職業についてみるとII-44表の示すとおり,有職者の割合は,昭和三八年には上六〇・五%と,前年をやや下回った。最近五年間の推移をみると,男子では,昭和三六年の六三・一%を頂点として漸減しているのに対し,女子では,同じく三六年を最低として漸増していることが注目される。

II-44表 新受刑者のうち有職者の比率の推移(昭和34〜38年)

 次に,昭和三八年における有職者二〇,五〇六人の内訳をみると,II-45表に示すとおり,最も多いのは,技能工,生産工程従事者および他に分類されない単純労働者の一一,四五四人で全体の五五・八%をしめている。ついで,販売従事者二,七一六人(一三・二%),運輸従事者二,一四〇人(一〇・三%),サービス職業従事者一,六三〇人(七・九%)の順に多い。

II-45表 新受刑者の犯行時職業別人員(昭和38年)

 II-46表は最近五年間について,新受刑者のうち無職者の内訳をみたものであるが,昭和三八年には,不正な手段による生活者が,急増していることと,浮浪者,らい怠者のかなり増加していることが注目される。

II-46表 新受刑者のうち無職者の内訳(昭和34〜38年)

(一四) 受刑者の入出所別

 刑務所に入所する受刑者は,II-47表に示すとおり,新入所のほか,仮釈放の取消,刑の執行停止取消,逃走者の逮捕,余罪取調終了などで復所するもの,分類収容などの理由で移送をうけたものなどがある。また,出所については,満期釈放,仮釈放,刑の執行停止,死亡(死刑の執行を含む),移送などがある。昭和三八年における受刑者の出所事由別人員はII-48表のとおりである。

II-47表 受刑者の入所事由別人員(昭和37,38年)

II-48表 受刑者の出所事由別人員(昭和37,38年)

 出所者の大部分を占める釈放者について,仮釈放,満期釈放別にみるとII-49表のとおりで,昭和三五年以降,年年仮釈放の割合が減って,三八年には満期釈放との割合が,六対四に近くなっている。

II-49表 受刑者の満期釈放,仮釈放別人員と率(昭和34〜38年)

 次に在所期間別に仮釈放による出所人員をみるとII-50表のとおりである。

II-50表 釈放受刑者の在所期間別出所事由別人員(昭和34,36,38年)

 まず昭和三八年について,在所期間別に仮釈放の割合をみると,在所期間三月以下では仮釈放で出所する者の割合は出所者の〇・九%であり,在所期間六月以下では仮釈放で出所する者の割合は出所者の二〇・四%,在所期間一年以下では仮訳放で出所する者の割合は出所者の五八・九%である。仮釈放で出所する者の割合は在所期間が長くなるほど増加する傾向がみられ,在所期間二年以下では出所者の六七・一%が,在所期間三年以下では出所者の七一・二%が仮釈放で出所し,一〇年以下の在所期間のものでは出所者の八三・五%が仮釈放で出所している。
 仮釈放で出所する者の割合は,在所期間の長短によってかなりの開きがみられることは昭和三四年,昭和三六年の出所者についてみても全く同様である。しかし,さきにも述べたように仮釈放で出所する者の割合はここ数年間次第に低減しており,とくに在所期間が比較的短期の場合には仮釈放で出所する者の割合の低下が著しい。