我が国の犯罪情勢は,平成14年に刑法犯の認知件数が戦後最多を記録したが,国民と政府が一体となって治安の回復に取り組むなどした結果,刑法犯の過半数を占める窃盗を中心に刑法犯認知件数は減少傾向にあり,また,近年,国民の治安意識も好転するなど一定の改善が見られる。しかし,一般刑法犯の認知件数の水準は,戦後を通じて見れば依然高い水準にあるほか,近年の犯罪動向では,初犯者がおおむね減少傾向にある中,検挙人員に占める再犯者や刑務所入所受刑者に占める再入者の比率が上昇傾向にあり,特に覚せい剤事犯者や高齢受刑者等では再犯によるものの比重が大きいなど,対象者の抱える資質・環境上の問題や社会復帰上の課題を踏まえ,引き続き実効性のある再犯防止対策を推進していく必要があると考えられる。
政府の犯罪対策閣僚会議は,本年7月に決定した「再犯防止に向けた総合対策」において,再犯防止対策を「「世界一安全な国,日本」復活の礎ともいうべき重要な政策課題」と位置づけており,<1>対象者の特性に応じた指導・支援の強化,<2>社会における「居場所」と「出番」作り,<3>再犯の実態や対策の効果等の調査・分析及び<4>広く国民に理解され支えられた社会復帰の実現を重点施策の4本の柱に据えた。これを受けて,同閣僚会議の下に設けられた再犯防止対策ワーキングチームにおいては,重点施策実現に向けた具体的取組についての工程表及び成果目標を策定し,実効性のある対策を中長期的視点に立って計画的に実施していくこととしている。
こうした総合的な再犯防止施策が本格的に歩み出したことを踏まえ,本白書では,平成23年を中心とした最近の犯罪動向と犯罪者処遇の実情を概観するのに併せ,「刑務所出所者等の社会復帰支援」と題して特集を組むこととした。この特集では,社会における「居場所」と「出番」作りの課題,すなわち住居の確保や就労支援の取組等,生活基盤の確立に向けた指導・支援を中心に,社会復帰を見守り支えるため処遇の第一線で重点的に実施されている各種施策の現状を幅広く紹介するとともに,保護司及び受刑者・少年院在院者に対する意識調査等により,双方が直面する課題やニーズ等を浮き彫りにすることを試みている。我が国の刑事司法制度の中では,長きにわたり保護司を中心に多様な外部協力者が,その持ち味を生かし,地域に根ざした支援を行い,非行や犯罪からの立ち直りを支える重要な役割を果たしてきた。多様な課題やニーズを複合的に抱える刑務所出所者等の再犯を防止し,責任ある社会の一員としての自立を支援するためには,少子高齢化の進行や家庭・地域社会の変化等を踏まえれば,地域において更生を支える保護司等民間協力者の協力や参加がこれまでにも増して不可欠であることから,これを促進・拡充するための基盤を強化するとともに,官民双方が持ち味を最大限に発揮して,持続的かつ一貫した指導・支援のために連携や協働を一層強化する必要があり,その現状や課題についても検討を試みている。
本白書が,犯罪者や非行少年の処遇の実情など刑事政策に対する国民の理解を深める一助となり,また,今後の施策を検討する際の資料として利用され,刑務所出所者等の再犯防止や円滑な社会復帰を一層推進する上で,多少なりとも寄与することができれば幸いである。
終わりに,本白書作成に当たり,最高裁判所事務総局,内閣府,警察庁,総務省,外務省,財務省,文部科学省,厚生労働省,国土交通省その他の関係各機関から多大の御協力をいただいたことに対し,改めて謝意を表する次第である。
平成24年11月
法務総合研究所長 酒 井 邦 彦