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 平成20年版 犯罪白書  

はしがき

 現在,我が国では, 総人口に占める65歳以上の高齢者の割合が急速に上昇し,5人に1人が65歳以上という,他のどの国も経験したことのない「前例のない高齢社会」を迎えているが,このことは我が国の犯罪情勢にも様々な影響を及ぼしている。  最近の刑法犯認知件数は,平成14年に戦後最多を記録した後,依然として相当高い水準にありながらも,5年連続で減少しつつあるのに対し,高齢者による犯罪は増加し続け,検挙人員に占める高齢者の割合が上昇し,受刑者及び保護観察対象者に占める高齢者の割合も,年々上昇傾向にある。しかも,こうした刑事司法の各段階において占める高齢犯罪者の割合の上昇率は,総人口に占める高齢者の割合の上昇率を大きく上回っている。このような状況を踏まえ,本白書では,平成19年を中心に,犯罪の動向,犯罪者の処遇等を概観するとともに,「高齢犯罪者の実態と処遇」を特集した。
 法務総合研究所では,平成19年版犯罪白書において「再犯者の実態と対策」を特集して,再犯者問題に焦点を当て,その一環として高齢犯罪者の特質についても触れたところである。本白書では,高齢犯罪者問題の実態に迫るため,詳細な統計資料の分析と実証的な調査を実施し,より掘り下げた分析を行うこととし,特別調査として,有罪の裁判を受けた高齢犯罪者の実態調査を行い,この調査結果を基に高齢犯罪者の実態と背景・要因等を検証・考察することとした。併せて,今回の特集では,高齢犯罪者に対する施設内及び社会内における処遇の実情を紹介するとともに,海外の高齢犯罪者の動向や高齢犯罪者に係る司法制度等も概観し,今後の議論に資することとしている。
 今後,更に急速に高齢化が進むであろう我が国社会においては,高齢者も豊かな社会の実現のための担い手となるべき存在であり,高齢者による犯罪を防止し,高齢犯罪者の更生を図ることは,我が国の刑事政策上の重要課題の一つである。ただ,高齢犯罪者は,刑事司法の枠内で立ち直りの機会を与えられても,これはあくまで更生への第一歩であり,その後は,家庭や地域社会に戻り,周囲の支援を得ながら自ら努力し続けることで,初めて更生できるのであって,家族,地域社会及び国民からの理解や助力を得,かつ,諸機関が連携して支援することも極めて重要である。
 本白書が,高齢者犯罪に対する理解を深め,その対策を検討・研究する際の資料として広く利用されるとともに,国民一人一人が高齢犯罪者問題への対処のため何が必要かを自らの問題として考え,地域社会の中における高齢者による犯罪の防止や,高齢犯罪者の更生のため,様々な取組を進める過程において,少しでもお役に立てればと願うものである。
 終わりに,本白書作成に当たり,最高裁判所事務総局,内閣府,警察庁,総務省,外務省,文部科学省,厚生労働省,国土交通省その他の関係各機関から多大の御協力をいただいたことに対し,改めて謝意を表する次第である。
平成20年11月

法務総合研究所長  小 貫 芳 信