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 平成18年版 犯罪白書 第6編/第3章/第5節/2 

2 提言事項

 有識者会議は,この改革の方向性に沿って,更生保護制度全般の見直しや改善を求めた。そして,官民協働を基調とするこれまでの更生保護制度の長所を損なうことなく,その改善更生・再犯防止機能を抜本的に強化し,国民の期待にこたえる強じんな更生保護の実現を目指して,具体的な提言を行っている。当面の課題とされた事項の主な内容は,次のとおりである。

(1) 保護観察の充実強化

ア 保護観察処遇の内容の充実と実効性の確保

 [1]保護観察対象者が,その問題性に応じた科学的・体系的な処遇プログラムを受講する義務,[2]覚せい剤事犯による保護観察対象者が覚せい剤の簡易尿検査を受ける義務,[3]一定の保護観察対象者が,定められた期間,指定された場所に居住する義務及び保護観察中の事情変更により特別遵守事項の付加・変更ができる旨について法律で規定する。

イ 保護観察対象者との接触の強化

 保護観察対象者が,保護観察官や保護司と接触を保ち,その面接を受けたり,保護観察官に対し,生活状況を明らかにする義務等について法律で規定する。

ウ 保護観察官による直接的関与を強めた特別処遇部門の設置

 重大再犯事件を防止するため,特別処遇部門を設け,重点的に保護観察を行うべき対象者に対し,保護観察官の直接的関与を強め,問題性に応じた処遇プログラムを実施するなど濃密な保護観察を実施する。

エ 仮釈放の取消し等の措置(いわゆる不良措置)の適切な実施

 特別遵守事項を整理し,併せて,遵守事項に違反し,保護観察による改善更生が期待できない者については,適切に仮釈放の取消し等の措置(いわゆる不良措置)を採る。

オ 就労支援及び定住支援の強化

 厚生労働省と連携して総合的就労支援対策を一層充実させるとともに,民間の経済団体等との連携強化によって,現状で約6千事業者にとどまっている協力雇用主を少なくとも3倍程度に増加させる。

カ 関係機関との連携強化及び情報の共有化等

 刑事司法関係機関との連携強化によって,更生保護官署が,捜査・裁判・矯正の各段階で収集された情報を積極的に活用する。また,厚生労働省や地方公共団体との連携強化によって,高齢者,知的障害者等の社会生活に困難を抱える対象者の社会復帰を円滑にする。

(2) 執行猶予者保護観察制度の運用改善等

 保護観察付き執行猶予の判決を受けた者が,一度も保護観察所に出頭することなく,あるいは,出頭しても,住居を設定するようにとの指示に従うことなく,判決確定前に所在不明になる例が少なくないことに対応し,また,保護観察所が執行猶予の取消申出に慎重になりがちな現状を改善するなどのため,法曹三者の更生保護に関する理解を深めるとともに,裁判所,検察庁,弁護士会及び保護観察所の相互理解を図るための取組を行う。

(3) 仮釈放のあり方の見直し

ア 運用改善

 仮釈放の対象者を適切に選択し,社会内処遇に適する者については,仮釈放時期の決定に当たり,その円滑な社会復帰に必要にして十分な保護観察期間を確保することにも可能な限り配意して,早期に仮釈放する一方,改善更生の意欲等が不十分な者については,仮釈放の判断を厳しくするなど,メリハリのついた運用を検討する。

イ 許可基準の改正

 仮釈放許可基準が不明確であるとの批判にこたえるため,許可基準を改正することを検討する。

ウ 地方更生保護委員会委員への民間有識者の登用

 仮釈放審理の公平性,的確性,透明性等を高めるため,地方更生保護委員会の委員に民間出身者等を積極的に登用する。また,精神医学や臨床心理学の専門家,社会福祉関係者,法律家等の多様な専門的知見を仮釈放審理に活用する。

エ 被害者意見の適切な取扱い

 仮釈放審理において犯罪被害者等の意見を聴取する具体的方法・手続を明定する。意見を聴取した場合は,その後の地方更生保護委員会の対応について,理由を付するなどして犯罪被害者等に示す。

オ 受刑者本人の関与

 受刑者本人が地方更生保護委員会に仮釈放の審理開始を求めた場合には,同委員会が職権による審理開始の要否を検討すること,仮釈放申請を棄却した場合に本人にその理由を告知することなど,仮釈放審理への受刑者本人の関与を拡大することにより,仮釈放審理をその後の改善更生に一層資するものとすることについて検討する。

(4) 担い手のあり方の再構築

ア 保護観察官と保護司の役割分担の整理等

 保護司への過度の依存を解消するとともに,保護観察官と保護司がそれぞれの特性を生かして充実した処遇を実施できるようにするため,保護観察官の責任,任務,職務範囲等を明らかにし,保護司との役割分担の明確な整理を行う。また,保護観察官による保護司への保護観察処遇に関する指導助言を充実する。

イ 保護観察官の採用と育成のあり方

 保護観察官の採用に際して専門(職)試験の導入を検討するとともに,保護観察官の研修の体系・内容,人事制度等を見直すなど,その育成のあり方について検討する。

ウ 保護司適任者確保の方策及び保護司活動に対する支援の充実

 公募制の導入等保護司適任者確保のための方策の多様化を図る。保護司に対する実費弁償金のあり方及び保護司の面接場所を自宅以外の場所に確保する方策等,保護司活動に対する支援のあり方について検討する。

エ 更生保護施設への支援の強化等

 地方公共団体が,更生保護事業に積極的な関与,協力を行うように必要な働きかけを行う。施設整備の補助金や委託費制度のあり方等を見直すなどし,社会福祉法人等の参入を促進するなど,その担い手の拡大を図る。また,民間の更生保護施設の入所者に対する保護観察官の直接的な処遇関与を拡充し,更生保護施設の経営基盤の確立等のための予算措置を講ずるなどして,国の支援を強化する。

オ 社会復帰のための強力な支援と強じんな保護観察実現のための自立更生促進センター(仮称)構想の推進

 民間企業の雇用を掘り起こし,協力民間企業に関する情報の一元的集約・管理を通じて,より適合度の高い就労先をあっせんするなど強化された就労支援を行うとともに,現状の民間の更生保護施設では対応が困難な対象者に対する受皿を提供すべく,自立更生促進センター(仮称)構想を推進し,特に強化された処遇を行うことのできるセンター的機能を有する体制を早期に構築する。

カ 更生保護官署における人的・物的体制の大幅な拡充

 更生保護が,これまでに述べた緊急に取り組むべき課題への対応を含め,その役割を適切に果たし,国民の期待にこたえていくためには,現場の第一線において保護観察事件を担当する保護観察官の数(約650名)を少なくとも倍増させる必要がある。

(5) 国民,地域社会の理解の拡大

ア 地方公共団体との連携強化

 国と地方公共団体の連携を強化し,保護司適任者確保への協力,犯罪予防活動の共同実施等のほか,保護司活動の支援,刑務所出所者等に対する就労支援や住宅確保の支援等を行う。

イ 民間ボランティアによる地域社会におけるネットワークの構築と更生保護の考え方の普及

 保護司等の民間ボランティアが,地域社会におけるネットワークを構築し,その活動を通じて更生保護の考え方を普及する役割を果たすことを期待する。

ウ 広報活動の充実等

 様々な機会を利用して,更生保護制度の運用状況を広く国民に伝えると同時に,各種施策の効果について検証し,その結果を公表することにより,国民に対する説明責任を果たす。

エ 第三者機関の設置

 地域住民の代表が参加する第三者機関を設置し,仮釈放や保護観察の運用を説明して理解を得る機会を設け,必要に応じて提言を受ける。

オ 犯罪被害者等への支援

 犯罪被害者等基本計画に基づき,更生保護官署が,保護司との協働態勢の下,刑事司法についての知識と保護観察処遇で得られた経験を活用して,刑事裁判終了後に加害者情報を犯罪被害者等に提供する,犯罪被害者等の心情等を加害者に伝達するなど,犯罪被害者等のための施策を適切に実施する。

(6) 更生保護制度に関する所要の法整備

 更生保護制度の目的を一層明確にし,今後の更生保護制度に必要となる新たな制度を導入する立法措置を行うなど,関係法律の整備を進め,国民に分かりやすい法律とする。