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 平成18年版 犯罪白書  

はしがき

 我が国の犯罪情勢を見ると,一般刑法犯の認知件数は平成14年のピークを過ぎた後,現在は減少の兆しを見せ始めているものの,依然として高水準にあり,予断を許さない状況のまま推移している。また,国民の治安に対する不安にも,根強いものがある。
 政府は,犯罪情勢の悪化とこれに伴う国民の犯罪に対する不安の深刻化等を背景として,平成15年12月,犯罪対策閣僚会議において,「犯罪に強い社会の実現のための行動計画―「世界一安全な国,日本」の復活を目指して―」を策定するなどして,様々な施策を立案・実施している。
 この行動計画のほか,近時,刑事政策に関連する領域において,様々な新たな動きが生じている。この新たな動きは,地域住民による犯罪予防活動等の取組から,刑事に関する新たな立法,裁判における量刑,犯罪者に対する施設の内外における再犯防止のための処遇上の取組等の幅広い分野に及んでいる。
 これらのうち,処遇上の取組に関しては,平成16年11月に奈良県で発生した性犯罪前科を有する者による女児誘拐殺人事件を契機として,再犯防止のための性犯罪者処遇の充実を求める声が高まり,18年度から,矯正及び更生保護を通じて,性犯罪者処遇プログラムが実施されることとなった。また,17年には,所在不明中の仮釈放者等による重大な再犯事件の発生を契機として,更生保護の再犯防止機能に対し,国民の厳しい目が向けられるようになり,「更生保護のあり方を考える有識者会議」が,18年6月に,法務大臣に対して提出した更生保護制度改革に関する提言を踏まえ,改革のための取組が始まっている。
 そして,これらの様々な動きの中で,司法が直面する当面の最重要課題である司法制度改革が引き続き進められている。
 このような状況を踏まえ,本白書では,平成17年を中心に,犯罪の動向,犯罪者の処遇等を概観するとともに,「刑事政策の新たな潮流」と題して,刑事政策に関連する新たな動きを中心に特集を組むこととした。
 今回の特集では,近年の犯罪情勢等を分析した上,治安回復に関連する諸施策を概観するとともに,国民が身近に不安を感じ,社会的関心の高い犯罪の一例として,性犯罪を取り上げる。そして,性犯罪の動向や性犯罪者の実態及び再犯状況等を分析した上,刑事政策に関連する新たな動きの一つとして,性犯罪者の再犯防止のための処遇上の取組について紹介し,併せて諸外国における性犯罪の動向と対策についても概観する。さらに,裁判員制度の導入をはじめとする司法制度改革を取り上げ,改革の進捗状況等を紹介するとともに,裁判員制度実施に向けての問題点と方策等について考察を行う。最後に,これらを踏まえ,今後における刑事政策の在り方等について検討を行い,今後の議論の参考に供することとする。
 本白書が,近時の犯罪情勢の推移や刑事政策に関連する新たな動きについて,広く国民の理解を深めるに当たって有用な資料となり,今後,刑事政策の様々な取組を進める過程において,少しでもお役に立てれば幸いである。
 終わりに,本白書作成に当たり,最高裁判所事務総局,内閣府,警察庁,総務省,外務省,文部科学省,厚生労働省,国土交通省その他の関係機関から多大のご協力をいただいたことに対し,改めて謝意を表する次第である。
平成18年11月
松永  榮治   法務総合研究所長