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 平成17年版 犯罪白書 第4編/第3章/第3節/1 

1 人の痛みに対する共感性を育てる処遇

 日々,非行少年と行動を共にし,その改善・更生に取り組んでいる少年院教官の60%以上が,最近,非行少年の抱える問題の中身が変化し,70%以上の少年院教官が,その変化によって非行少年の処遇が困難になっていると感じていた。そして,多くの少年院教官が処遇において最も困難になったと感じていたのは,「人に対する思いやりや人の痛みに対する理解力・想像力に欠ける」,「自分の感情をうまくコントロールできない」といった非行少年の感情・情緒に関連する資質面の問題であった。
 近時,家族や友人との間で葛藤が生じるなどの混乱や不安に見舞われると,これに対応して問題を解決することができない少年が増えていると指摘されている。最近の少年は,ささいなきっかけで凶悪,冷酷ともいえる非行に走ることが多く,動機が不可解で,少年自身もなぜそのような事件を引き起こしたのか十分に説明できない場合があるなどと指摘されるが,その背景には,こうした感情・情緒面の問題があると考えることもできる。
 他方,近年,被害者やその親族の心情等について一層の配慮を行うことが求められており,加害者である少年が自らの犯罪と向き合い,犯した罪の大きさや被害者の心情等を認識し,被害者に誠意をもって対応していくことについての指導を一層充実させることが要請されている。
 こうした最近の非行少年の資質面での問題や社会からの要請を考慮すると,加害者である少年が事件を悔い,反省し,償うためには,人の痛みに対する共感性を育てる処遇を強化する必要がある。そのためには,これまでの乱れていた生活習慣を改めさせ,規則正しい食事,睡眠等によって生活のリズムを取り戻させることがまず必要である。また,きちんと自分を振り返り,自分のしてきたことを反省するための力を養うこと,考えて行動する習慣を身に付けさせることも大切である。こうした基本的な生活の安定や考える力を養う訓練を積み重ねた上で,人に対する信頼感や思いやり等の暖かい心を回復させるために,自分たちの非行やこれに関連する自らの体験,感情等を見つめ直させ,加害者として人に与えてきた痛みについて考えさせること等に重点を置いた系統的な処遇プログラムを展開していく必要がある。それによって,誠意をもって被害者と向き合い,謝罪等の適切な対応を行うことが可能となろう。
 矯正・更生保護の処遇の現場では,被害者の視点を取り入れた教育等の充実強化が従来にも増して強調され,非行の反省をさせるだけではなく,社会の中で様々な人たちと対話でき,共に生きていけるように,豊かな共感性や自らを振り返る力を育てることを重視し,その上で,被害者の痛みに共感させるために,ロールレタリング等の教育・処遇を展開している。
 このように,自らの非行を反省し,被害者への償いができるようになるまでに,まず人としての素地作りの作業をじっくりと行う必要がある非行少年が増えてきていることから,非行少年処遇の困難度が増してきているものとも考えられる。