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 平成16年版 犯罪白書 第5編/第3章/第3節/2 

2 PFI手法を活用した新設刑務所の整備・運営

 法務省では,PFI手法を活用し,山口県美祢市に初犯受刑者男女各500人を収容する1,000人規模の刑務所である「社会復帰促進センター(仮称)」を新設して,平成19年4月からの収容開始を予定している。

(1) PFIの意義とねらい

 PFI(Private Finance Initiative)とは,民間の資金,経営能力及び技術的能力を活用して,公共施設等の建設,維持管理,運営等を行う行政手法であり,民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(平成11年法律第117号)に基づく制度である。
 PFI手法による刑務所の整備・運営は,緊縮財政下において,民間の資金及びノウハウを活用することによって,刑務所という「治安インフラ」を効率的かつ効果的に整備しようとするものであり,「民間にできることは民間に」という構造改革の基本方針に従い,雇用創出や経済効果をもたらすことをもねらいとしている。これは,また,官民協働運営による透明性の向上,誘致自治体に施設を新設することによる地域との共生という観点から,「国民に理解され,支えられる刑務所」という行刑改革の基本理念を実現していくねらいもある。このような基本的構想をまとめたものが,5-3-3-3図である。

5-3-3-3図 PFI手法による新設刑務所の基本的構想

(2) 導入に当たっての基本的考え方

 PFI手法の導入に当たっては,施設の設計・建設,維持管理・修繕業務をすべてPFI事業の対象とするだけでなく,施設の運営面においても積極的に民間事業者のノウハウを活用することとしている。例えば,保安,作業,教育といった分野においては,[1]構内外の巡回警備,収容監視業務,[2]刑務作業(生産作業)の企画・支援,[3]職業訓練,教育プログラムの企画・実施などを含め,大幅に民間委託することが検討されている。
 ただし,武器や戒具の使用,被収容者に対して行われる各種の処分など権力性・専門性が高い業務については,公務員である刑務官が行い,また,刑期計算,受刑者の分類調査,仮出獄の申請に関する業務など,刑罰権の行使に密接にかかわるものについては,国が主体的に実施することが検討されており,米国や英国に見られるような,すべての業務を民間事業者が行う「民営刑務所」ではなく,公務員である刑務官と民間職員が協働して運営する「混合運営施設」方式(ドイツやフランスに見られる。)が構想されている。

(3) 社会復帰促進センターについて

 山口県美祢市に設置予定の「社会復帰促進センター(仮称)」は,近年増加が著しい初犯受刑者1,000人(男女各500人とし,収容場所は区別する。)を収容し,これらの者を対象に,民間事業者のノウハウの活用を含めた多様で柔軟な矯正教育を行うことによって早期の社会復帰と良質な人材の再生を目指す施設として構想されている。施設の名称も,このような機能面に着目し,「社会復帰促進センター」というようなものが検討されている。このように,同センターの整備・運営事業は,1,000人分の収容能力を確保するという物理的な過剰収容対策であるだけでなく,再犯を防止することによって受刑者を減少させるという,刑事政策の本来のプロセスに沿った中長期的な過剰収容緩和策としての意味をも持つといえる。
 具体的な事業の方式としては,PFI事業者が自ら資金を調達して施設を建設・所有し,事業期間(20年間の予定)にわたって施設の維持管理・運営を行った後,事業期間終了時点で施設の所有権を国に移転する方式(BOT方式)が採用されており,PFI事業者は,毎年度,国から委託費の支払を受けることによって収入を上げるという,いわゆるサービス購入型の形態が採用されている。
 今後,入札によるPFI事業者の選定,事業契約の締結等を速やかに進め,平成19年4月から受刑者の収容を開始することを予定しており,これが実現すれば,社会復帰促進センターは,公権力行使部門における我が国最初のPFI事業となる。