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 平成16年版 犯罪白書  

はしがき

 我が国は,長らく世界一安全な国といわれてきたが,ここ10年ほどの間に犯罪情勢は急速に悪化し,今や,市民が安心して暮らすことのできる社会をいかにして取り戻すかが重要な課題となり,各方面で幅広く検討が進められ,様々な取組が行われている。その中で,犯人を迅速・確実に検挙し,その責任にふさわしい刑を科するにとどまらず,犯罪者の改善更生・社会復帰のための効果的な処遇を行うことによって再犯を減少させ,治安の維持を図ることは,刑事司法に与えられた重要な役割である。
 本白書では,平成15年を中心とした最近の犯罪動向等を概観するとともに,特集として犯罪者の処遇を取り上げ,治安が良好であったかつての平穏な時代と対比させつつ,近年における成人犯罪者処遇の実情を,その背景と共に紹介し,今後の議論に資するための資料を提供することとした。
 すなわち,本白書第5編において,まず,我が国の成人矯正が直面している問題について,深刻化する過剰収容の現状及び受刑者の質的変化を中心に,これをもたらした背景と共に概観し,併せてこれに対応するための取組を紹介し,次いで,施設内処遇から社会内処遇への円滑な移行を図り,受刑者の社会復帰を支援するための様々な制度と運用の推移について,仮出獄を中心に紹介し,さらに,保護観察処遇の実情について,成人の保護観察対象者の動向及び保護司を中心とする社会内処遇の担い手の変化の両面から検討を加え,その課題とこれに対する取組を取り上げた。
 犯罪者の改善更生・社会復帰を目指した処遇を行うことは,重要な治安対策であるが,効果的な処遇を行うためには,国民の支持と理解を得ることが不可欠であり,また,種々の基盤整備も必要であろう。そして,効果的な犯罪者の処遇を他の分野における各種施策及び社会全体による様々な取組と有機的に連動させることができれば,「世界一安全な国,日本」を復活させるための大きな力となるはずである。
 本白書が,有効かつ適切な犯罪者処遇施策を検討するに当たって有用な資料となり,治安対策を講ずる上で多少なりとも寄与することができれば幸いである。
 終わりに,本白書作成に当たり,最高裁判所事務総局,警察庁,総務省,外務省,厚生労働省,国土交通省その他の関係機関から多大の御協力をいただいたことに対し,改めて謝意を表する次第である。
平成16年11月
大塚  清明   法務総合研究所長