第1節 刑事司法における国際的な取組の動向
1 国際連合 国際連合(以下「国連」という。)では,犯罪による人的及び物的な損失とその社会・経済発展への影響を減らすこと,並びに刑事司法の国連基準・規則の履行を促進することを目的とした諸活動が展開されている。 1950年の国連総会で承認された犯罪防止及び犯罪者の処遇に関する国際連合会議は,刑事司法の各領域にわたる政策の提案,意見交換のための国際会議で,1955年の第1回会議以来,5年ごとに開催され,2000年4月にウィーンで第10回会議が開催された。この会議において採択された被拘禁者処遇最低基準規則(第1回1955年),非拘禁措置に関する国連最低基準規則(第8回1990年)など多数の基準・準則や決議は,後に,国連総会や国連の経済社会理事会で採択あるいは承認を受け,各国にその活用が促されている。 また,経済社会理事会の下の機能委員会として,犯罪防止刑事司法委員会が1992年に設置され,2003年に第12会期がウィーンで開催された。この委員会は,国連における刑事司法分野の政策決定に携わるものであり,我が国は設立当初からこの委員会の構成国に選出され,関与している。 麻薬等の薬物犯罪対策については,1988年の麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約等の多数国間条約が国連において採択され,我が国もこれらの条約を批准し,国内法を整備した。 国際組織犯罪対策については,1994年の国際組織犯罪に関する世界閣僚級会議以降の議論の成果として,2000年,国連総会において,重大犯罪の共謀や犯罪組織集団への参加,マネー・ローンダリング及び腐敗行為等の犯罪化,犯罪収益の没収及び没収のための国際協力,組織犯罪に関わる犯罪人の引渡し,証人の保護等について規定した国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約が採択され,我が国も同年,同条約に署名した。同条約を補足する「人,特に女性及び児童の取引を防止し,抑止し及び処罰するための議定書」,「陸路,海路及び空路により移民を密入国させることの防止に関する議定書」,「銃器並びにその部品及び構成部分並びに弾薬の不正な製造及び取引の防止に関する議定書」の各議定書も2001年までに国連総会で採択され,我が国も2002年12月,同補足議定書に署名した。 児童・女性等に対する犯罪対策としては,1989年に国連総会において児童の権利に関する条約が採択され,我が国も1994年に国会承認を経て同条約を批准しているところ,2000年に国連総会において「児童の権利条約の選択議定書(1)児童売買,児童買春及び児童ポルノに関する児童の権利に関する条約の選択議定書,2)武力紛争における児童の関与に関する児童の権利に関する条約の選択議定書)」が採択され,我が国は2002年5月,同議定書に署名した。 国際的な汚職・腐敗対策についても,現在,国連において,腐敗収益の起源国への返還問題などを議論しつつ,2003年中の採択を目指して国連文書としての腐敗対策条約の作成作業が進められている。 テロ対策については,1960年代からハイジャック事件対策の国際協力に関して国際民間航空機関(ICAO)が中心となって多数国間条約が策定されたが,1970年代には,国連でも「国際的に保護される者(外交官を含む。)に対する犯罪の防止及び処罰に関する条約」及び「人質をとる行為に関する国際条約」が採択され,我が国も1987年,両条約の締結国となった。1990年代に入ってから,凶悪テロ事件の続発を受け,国連では国際テロリズム廃絶措置に関する宣言等を採択して,アド・ホック委員会(臨時委員会)により爆弾テロ防止に関する条約及び核テロ防止に関する条約の検討が開始され,1997年,国連総会においてテロリストによる爆弾使用の防止に関する国際条約が採択された。我が国は,1998年に同条約の署名を行っていたが,2001年9月の米国における同時多発テロ事件の発生を受け,同条約の国内担保法である「テロリストによる爆弾使用の防止に関する国際条約の締結に伴う関係法律の整備に関する法律」(平成13年法律第121号)が成立するとともに,条約締結のための国会承認が得られたことから,同年11月に受諾書を寄託して同条約を締結し,同条約は,同年12月から我が国においても効力を生じている。 さらに,1999年,国連総会においてテロリズムに対する資金供与の防止に関する国際条約(テロ資金供与防止条約)が採択された。また,国連安全保障理事会は2001年9月の米国における同時多発テロ事件の後,テロ行為のための資金供与等の犯罪化,テロリストの資産凍結,テロ資金供与防止条約などのテロ関係条約の締結促進などを内容とした決議を採択し,国連加盟国は決議の履行を義務付けられることとなった。我が国は,同年10月にテロ資金供与防止条約に署名し,同条約の国内担保法である「金融機関等による顧客等の本人確認等に関する法律」(平成14年法律第32号)及び「公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金の提供等の処罰に関する法律」(平成14年法律第67号)が成立するとともに,条約締結のための国会承認が得られたことから,2002年6月に受諾書を寄託して同条約を締結し,同条約は,同年7月から我が国においても効力を生じている。
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