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 平成14年版 犯罪白書 第5編/第1章/1 

第5編 特集 暴力的色彩の強い犯罪の現状と動向

第1章 はじめに

1 犯罪情勢と特集のねらい

 近年,我が国の犯罪情勢は悪化の傾向にある。刑法犯の認知件数を見ると,平成8年以降,戦後最高を更新し続け,検挙人員が増加しているにもかかわらず,それをはるかに上回る犯罪が認知され,また,検挙率は低下の一途をたどっている。内容的には,小学校敷地内における無差別殺傷事件や一家殺害事件など,社会を震かんさせる重大・凶悪事件が相次いで発生しているほか,薬物犯罪も依然として高水準にある上,国民の日常生活の平穏を脅かす各種犯罪も後を絶たない状況下にある。
 このような状況の下でいわゆる体感治安が深刻化し,我が国の治安に対する国民の不安の念も強まりつつあるようにうかがわれる。さらに,ピッキング用具と称する特殊工具を用いての侵入強窃盗事犯や大胆な金庫強奪等の事犯の横行をはじめ,常軌を逸した殺人事件の発生など,従来の枠組みや尺度では理解が困難な犯罪が目立ち,犯罪によっては質的にも変容してきているものと推測される。また,犯罪を起こす者が,これまで犯罪経験のなかった一般市民にまで拡散しつつあるのではないかと懸念される上,我が国の治安の動向に大きく関係するようになった来日外国人による犯罪の多発は相変わらず憂慮すべき事態にあると思われる。
 こうした犯罪情勢にかんがみ,昨年の白書では,「増加する犯罪と犯罪者」をテーマに特集を組み,増加する犯罪の中から,窃盗,交通犯罪,薬物犯罪及び外国人犯罪に焦点を当てて統計的な分析を試みたところではあるが,本年も,昨年に引き続き,これら窃盗,交通犯罪及び薬物犯罪のほかに,増加がとみに顕著な,強盗,傷害,暴行,脅迫,恐喝,強姦,強制わいせつ,住居侵入及び器物損壊(凡例記載の「器物損壊等」をいう。以下,本編において同じ。)の9罪種に焦点を当て,身近な生活場面で生起する「暴力的色彩の強い犯罪の現状と動向」を特集として取り上げることとした。これら9罪種は,後述するように,いわゆる暴力的色彩が強く,住民に不安や恐怖を与え,日々の生活を脅かす犯罪でもあり,社会意識や価値観等の変化に伴い,これら犯罪の動向も変容するものではあるが,これら犯罪の現状と動向をつぶさに分析し,その要因等を探ることは内容的に意義あることと思われる。