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 平成14年版 犯罪白書 第2編/第6章/第1節/2 

2 主要国首脳会議

 主要国首脳会議(以下「サミット」という。)においては,麻薬取引,テロ,マネー・ローンダリング,国際犯罪組織等の国際犯罪に関する問題が取り上げられ,これら国際犯罪の防止に関しての国際協力強化の必要性が強調されている。
 1989年に開催されたアルシュ・サミットの経済宣言に基づいて金融活動作業部会(FATF)が召集され,1990年に薬物犯罪に関するマネー・ローンダリングの犯罪化,金融機関等による顧客の身元確認及び疑わしい取引について権限ある当局への報告,不法収益の没収及びその保全,国際協力の強化等のマネー・ローンダリング対策についての勧告を行っている(FATF旧40の勧告)。1996年に,旧40の勧告は改訂され,マネー・ローンダリング罪の前提犯罪を薬物犯罪以外の重大犯罪にも拡大すべきことなどが勧告され(FATF新40の勧告),我が国は,1999年8月12日に,「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律」(平成11年法律第136号)を制定する等して,この勧告の要請に応えている。その後もFATFは活発な活動を継続し,現在,より実効的な規制を図るために勧告の再改訂を検討中である。さらに,2001年,アメリカにおける同時多発テロ事件後のG7財務大臣・中央銀行総裁会合において合意されたところに従い,FATFは「テロ資金供与に関する特別勧告」を採択し,今後はマネー・ローンダリング対策で培われた資金監視手法を活用してテロ資金対策にも取り組むこととなった。
 国際組織犯罪については,1995年のハリファックス・サミットの議長声明を受けて,国際組織犯罪対策に関する上級専門家会合(通称リヨン・グループ)が設置され,1996年のリヨン・サミットにおいて,情報提供者・証人等の保護,コントロールド・デリバリー(監視付き移転)等の技術の重要性と有効性等を含む「国際組織犯罪に関する40の勧告(いわゆるリヨン・グループ40の勧告)」が発表され,1997年のデンヴァー・サミットにおいて,その実施状況について報告が行われ,さらに,1998年のバーミンガム・サミットにおいて,組織犯罪に関する国連条約の交渉に向けた努力を支持することについて意見の一致をみた。
 また,テロ対策についても,サミットの機会に意思統一を図り,これを背景として国連等での条約採択を目指すという取組が推進されている。特に1995年には日本で地下鉄サリン事件,アメリカで連邦ビル爆弾テロ事件が発生したことから,ハリファックス・サミットではテロ対策が議題の1つとなり,議長声明において,テロ専門家グループに対してテロ行為を抑止し,防止し,また捜査するための具体的かつ協力的な措置に関して閣僚級会合に報告するよう求め,翌1996年のリヨン・サミットにおいても,「テロリズムに対する宣言」が発出され,同年7月のパリ閣僚会議において,テロリズム根絶のための措置をまとめた「25の勧告」が採択された。その後もテロ対策に関する国際協力等についてサミット主要各国のテロ対策の専門家は定期的に集まり,協議を続けている(なお,現在,この会合はローマ・グループと呼ばれている。)。
 1999年のケルン・サミットでは,組織犯罪に関する国連条約及びテロに対する資金提供に関する国連条約に係る交渉の一層の促進を図ることについて合意がなされ,2000年の九州・沖縄サミットでは,国際組織犯罪,ハイテク犯罪,薬物犯罪,マネー・ローンダリングを含む金融犯罪,汚職等の腐敗行為,テロ対策など,犯罪に対する積極的取組の必要性が確認され,2001年のジェノバ・サミットにおいても国際組織犯罪及び薬物との闘いは主要議題の一つとされた。さらに,2002年のカナナスキス・サミットでは,同サミットが2001年のアメリカにおける同時多発テロ事件後,初の主要国首脳会議であることから,テロ対策協力を重要議題とし,[1]サミット主要各国は,薬物の密輸,資金洗浄などの犯罪活動とテロ組織との潜在的な結びつきを明らかにすべく情報を共有し,協調して活動すること,[2]「国際犯罪に関するG8の勧告」(サミットに先立って行われた主要8か国司法内務閣僚会議において「リヨン・グループ40の勧告」の改訂として合意された)は,「リヨン・グループ40の勧告」を国際犯罪及びテロの脅威から社会を守るために国際的に策定すべき捜査技術,法令,協力手段に関する最新の分析を反映するように改訂したものであることなどが確認されている。