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 平成11年版 犯罪白書 第5編/第3章/第2節/8 

8 被害感情

(1) 加害者に対する感情等
 V-37表は,現在の加害者に対する気持ちについて尋ねた結果を罪種別に見たものである。「許すことができない」とするものの比率は,全体では,約64%であり,罪種別では,殺人等が約91%で最も高く,次いで強姦の約84%となっている。一方,「許すことができる」とするものの比率は,全体では,約16%にすぎず,罪種別では,殺人等,傷害等,強姦及び強制わいせつで低く,いずれも10%未満である。

V-37表 現在の被害感情

 なお,謝罪の有無,示談の成否又は賠償金支払の有無によって,被害者等の被害感情に相違があるかどうかを見ると,加害者側の謝罪の有無別では,「許すことができない」とするものの比率は,「謝罪した」と回答した者で約51%であり,それ以外の者の約77%と比べて,約26ポイント低くなっている。さらに,示談の成否別では,示談が「成立した」と回答した者で約50%であり,それ以外の者の約74%と比べ,約24ポイント低い。また,賠償金の支払の有無別では,賠償金の「全額支払いがあった」あるいは「一部支払いがあり,残りも今後支払われる予定である」と回答した者で約53%であり,それ以外の者の約72%と比べ,約19ポイント低くなっている。もっとも,このような比率の差は,各罪種で一様に認められるわけではない。例えば,殺人の遺族について,加害者側の謝罪の有無別に見ると,「許すことができない」とするものの比率は,「謝罪した」と回答した者で約81%であり,それ以外の者の約95%と比べ,約14ポイント低くなっているが,示談の成否別及び賠償金の支払の有無別に見た比率では,さほどの差は見られない。また,強姦の被害者で「許すことができない」とするものの比率を,謝罪の有無別及び賠償金の支払の有無別に見ても,さほどの差は見られない上,示談の成否別に見ると,示談が「成立した」と回答した者で約88%と,それ以外の者の約80%と比べ,かえって高くなっている。
 V-38表は,事件の直後と現在の加害者に対する気持ちの変化について尋ねた結果を,罪種別に見たものである。全体では,「ずっと,許すことができないと思っている」とするものの比率が最も高く,約42%である。これに対し,「前よりも,許すことができないという気持ちが強くなった」とするものの比率は約20%,反対に「前よりも,許すことができるという気持ちが強くなった」とするものの比率は約17%である。さらに,罪種別では,「ずっと,許すことができないと思っている」とするものの比率は,強姦及び強制わいせつで最も高く,60%前後となっており,一方,「前よりも,許すことができないという気持ちが強くなった」の比率は,殺人等(約37%),業過致死(約29%),業過傷及び傷害等(各約26%)で比較的高くなっている。

V-38表 被害感情の変化

V-39表 被害感情の変化の契機

 V-39表は,「前よりも,許すことができないという気持ちが強くなった」及び「前よりも,許すことができるという気持ちが強くなった」と回答した被害者等に対し,その契機を尋ねた結果を,罪種別に見たものである。全体では,「前よりも,許すことができないという気持ちが強くなった」きっかけについては,「加害者に反省の態度がみられないことで」とするものの比率が約61%を占めており,「加害者が謝罪しないことで」及び「加害者が賠償金等の支払いをしないことで」の比率も,共に40%を超えている。これに対し,「前よりも,許すことができるという気持ちが強くなった」きっかけについては,「時の経過で」とするものの比率が最も高く,「加害者がつかまったことで」の比率がこれに次いでいる。
(2) 罪の償いに関する認識
 V-40表は,「加害者の「罪の償い」のために一番大切なことは何だと思いますか」と尋ねた結果を,罪種別に見たものである。全体では,「社会で更生すること」(約34%)とするものの比率が最も高く,「判決で決められた刑に服すること」(約22%)の比率がこれに次いでいる。これを罪種ごとに見ると,殺人等,業過致死及び強姦では,「判決で決められた刑に服すること」とするものの比率が,業過傷では,「示談を成立させ,賠償金等の支払いをすること」とするものの比率が,それぞれ最も高く,その他の罪種では,「社会で更生すること」の比率が最も高くなっている。