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 平成11年版 犯罪白書 第5編/第2章/第3節/2 

2 被害者と更生保護

 (1)被害者と仮釈放
 懲役又は禁錮の受刑者に対する仮出獄は,[1]悔悟の情,[2]更生の意欲,[3]再犯のおそれ及び[4]社会の感情の四つの事項を総合的に判断し,保護観察に付することか本人の改善更生のために相当であると認められたときに許可される(第2編第5章第2節1参照)が,被害者に対する被害弁償等の内容やこれに対する努力の有無は,悔悟の情を判断する上で,また,被害者又はその遺族の感情は,社会の感情の一側面として,考慮されている。
 少年院からの仮退院については,在院者が処遇の最高段階に達し,保護観察に付することか本人の改善更生のために相当と認められるときなどに許可される(第3編第2章第6節1参照)が,被害弁償の状況や被害者の感情等も,被害の程度等に応じ,判断要素の一つとして考慮される。
 そのため,仮釈放を審理する地方更生保護委員会が,その準備のために保護観察官に行わせる調査においては,被害弁償の状況が調査事項の一つとされ,また,保護観察所が行う帰住予定地の環境調整(第2編第5章第2節2参照)においても,被害弁償の状況及び被害者の感情が,調査及び必要な調整を行うべき事項の一つとされている。これらの調査は,関係書類の精査,矯正施設に収容中の本人に対する面接調査,本人の家族等に対する面接調査等によって行われるほか,被害者を死亡させた事案,重度の傷害を負わせた事案,多額の財産的損害を負わせた事案等については,保護観察官又は保護司が直接被害者(遺族)のもとを訪ねて,現況及び感情の調査を行うこともある。
 (2)被害者と保護観察
 保護観察は,犯罪者や非行少年に対し,一定の遵守事項を守るよう指導するとともに,必要な補導援護を行うことによって,その改善更生を図ろうとするものである(第2編第5章第3節参照)が,被害弁償や慰謝の措置が講じられていない場合や,被害者を死亡させたり重い傷害を負わせており,継続的な慰謝等の措置が必要な場合などには,個別的な事情等も考慮しながら,被害弁償や慰謝についての指導・助言が行われている。
 特に,殺人,強盗殺人等の生命犯が大半を占める無期刑仮出獄者については,被害者及びその遺族の消息,本人に対する感情等の把握に努めるほか,保護観察開始当初から,被害者及び遺族に対する慰謝等の措置を実行する意欲の強化を図り,その具体的方法等については,本人の心情及び相手方の状況等を考慮しつつ,計画的・段階的に指導・助言することとされている。
 また,業務上過失致死傷の対象者が含まれる交通事件の保護観察においては,集団講習や個別指導の際に,被害弁償の責任について自覚を促すための視聴覚教材やテキストなどが活用されている。
 (3)被害者と恩赦
 中央更生保護審査会が,法務大臣に個別恩赦(第2編第5章第6節参照)の申出をする場合には,あらかじめ,本人の性格,行状,違法の行為をするおそれの有無,本人に対する社会の感情その他関係のある事項について,調査をしなければならないとされており,被害者(遺族)の感情は,社会の感情の一側面として,その調査の対象に含まれている。
 また,同審査会に恩赦の上申をする保護観察所の長等は,犯情に酌量の余地があること,改しゅんの情が顕著で,健全な社会生活を営み,再犯のおそれがないと認められることのほか,被害者(遺族)及び社会の感情が融和していることなどを総合的に判断して上申を行うが,上申に当たっては,犯罪による被害の程度とその影響,本人側からなされた弁償,慰謝等の内容,被害者(遺族)の現在までの生活状況等の調査を実施している。