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 平成 7年版 犯罪白書 第2編/第3章/第2節/2 

2 少年院における処遇

(1) 概  説
ア 少年院運営の基本
 家庭裁判所の審判の結果,保護処分の一つである少年院送致の決定を受けた者を収容する少年院は,平成6年12月31日現在,全国で54庁が設置されている。
 少年院に勤務する職員は,法務教官,法務技官,法務事務官等であり,このうち,在院者の教育に直接携わる法務教官は,そのほとんどが教員免許又は職業訓練関係の指導員免許資格の取得者である。
 昭和52年6月から,少年非行の多様化,複雑化の傾向に対処するため,現行法制の下で,個々の少年の特質や問題性を考慮し,処遇の個別化の一層の推進を図るとともに,保護観察所等の関係諸機関との緊密な連絡協調の下に,各少年院ごとに,それぞれ特色ある処遇の推進に努めている。
 少年院の種別及びその種別ごとの収容対象者
初等少年院 心身に著しい故障のない,14歳以上おおむね16歳未満の者
中等少年院 心身に著しい故障のない,おおむね16歳以上20歳未満の者
特別少年院 心身に著しい故障はないが,犯罪的傾向の進んだおおむね16歳以上23歳未満の者
医療少年院 心身に著しい故障のある,14歳以上26歳未満の者
 なお,少年院は,医療少年院を除き,収容少年の男女の別に従って設けられている。
 法律上,少年院に収容することができる期間は,原則として20歳に達するまでとなっており,少年院送致決定から20歳に達するまでの期間が1年に満たない場合には,少年院長は,送致から1年間に限り収容を継続できることとなっている。また,少年院長は,矯正の目的を達した場合には退院の申請を,少年が処遇の最高段階に向上し仮に退院を許すのを相当と認める場合には仮退院の申請を,それぞれの地方更生保護委員会に対し,行わなければならないこととなっている。
 運用上,できるかぎり短期間に効果的処遇を実施するように努め,処遇の個別化と収容期間の弾力化を図るために,早期改善の可能性の大小により,短期処遇を行う少年院と長期処遇を行う少年院とに区分されている。
 短期処遇の少年院は,非行の傾向はある程度進んでいるが,少年のもつ問題性が単純であるか,又は比較的軽く,早期改善の可能性が大きいため,短期間の継続的・集中的な指導と訓練により,その矯正と社会復帰が期待できる者を収容し,開放的な雰囲気の中で処遇を行っている。短期処遇の少年院は,さらに,運用上,収容期間を6か月以内とする一般短期処遇の少年院と,非行の傾向が一般短期処遇の対象者より進んでいんい者を収容する,収容期間を4か月以内とする特修短期処遇の少年院の二つに区分されている。
 長期処遇の少年院は,短期処遇になじまない者を収容し,運用上,収容期間は2年以内とされている。
 少年院の種別は,家庭裁判所の審判において決定され,初等少年院送致決定又は中等少年院送致決定の際,短期処遇(一般短期処遇又は特修短期処遇)が適当である旨の処遇勧告がなされる場合がある。審判により少年院送致決定がなされた後,少年鑑別所においては,決定された種別及び処遇勧告に従い,少年の特性及び教育の必要性に応じ,各少年院で実施されている処遇課程を考慮して,収容すべき少年院を指定することとなっている。
 これらの関係を示したものがII-32図である。
イ 少年院における収容状況等
 平成6年における収容状況は,新収容者4,000人,出院者4,092人,一日平均収容人員3,030人であった。新収容人員の推移は,II-33図のとおり,昭和60年以降,漸減傾向にある。また,平成6年の新収容者の特性は,主として第3編第1章第2節において,保護観察処分少年と対比して述べるが,その他の特性は次のとおりである。
 [1] 入院時の年齢 年齢別構成比を総数で見ると,18歳が最も高く(24.8%),次いで17歳(24.7%),19歳(24.0%)の順となっている。
 [2] 共犯関係 単独で非行に及んだ者(単独非行者)の比率は34.8%(男子46.5%,女子33.3%)で,II-34図のとおり,男子に比べ,女子の比率は低い。
 [3] 家族関係 非行時に家族と同居していた者の比率及び在院中に面会があった者の比率は,II-35図のとおり,年々高くなっている。

II-32図 少年院分類処遇制度

II-33図 少年院新収容者の男女別人員の推移(昭和24年〜平成6年)

II-34図 共犯関係のない者の比率の推移(昭和60年〜平成6年)

II-35図 新収容者の家族関係の推移(昭和60年〜平成6年)

(2) 少年院における処遇の概要
ア 処遇の基本
 処遇課程は,一般短期処遇にあっては,[1]教科教育,[2]職業指導及び[3]進路指導,長期処遇にあっては,[1]生活訓練,[2]職業能力開発,[3]教科教育,[4]特殊教育及び[5]医療措置が,それぞれ設けられている。
 上記の処遇を担当する少年院は,全国を八つのブロックに分けて設けられた矯正管区ごとに指定されている。
 各少年院では,担当する各処遇課程等の対象者にふさわしい教育課程(在院者の特性及び教育上の必要性に応じた教育内容を総合的に組織化した標準的な教育計画で,[1]生活指導,[2]職業補導,[3]教科教育,[4]保健・体育及び[5]特別活動の五つの領域によって構成されている。)を編成している。
 少年院の処遇は,入院から出院に至る時間経過に沿って見ると,[1]新入時教育期間,[2]中間期教育期間及び[3]出院準備教育期間の三つの教育過程に分けられ,また,各少年の処遇段階で見れば,入院時の2級下から,改善,進歩等に応じて,順次,2級上,1級下,1級上と進級する四つの処遇段階に分けられる。
 教育過程と処遇段階の関係を示したものがII-36図であり,以下,この図に従って説明する。
イ 処遇の流れ
(ア) 新入時教育期間における教育
 新入時教育期間のうち,入院後のおおむね14日間は,少年を他の少年と接触しないように個室に収容し,健康診断や院内生活を理解させる指導,境遇,経歴,教育程度,技能等の身上に関する各種の調査を行い,院長及び関係職員によって構成する「処遇審査会」の議を経て,一人一人の少年ごとに「個別的処遇計画」を作成する。
 なお,長期処遇を行う少年院への送致となった場合でも,特別に処遇内容等について家庭裁判所から処遇勧告が付されることがあるが,少年院は,これを尊重し,処遇に反映させることとしている。

II-36図 少年院処遇の流れ

 「個別的処遇計画」は,固定化したものでなく,以後の教育を展開していく過程において,必要な場合には少年鑑別所に依頼して再鑑別を行うなどしつつ,修正・変更をしており,常に個々の少年の必要性や特性に応じた教育が行われるよう配慮がなされている。
 「個別的処遇計画」の内容
 [1] 当該少年の問題点,それから派生して処遇上の妨げとなり,又は指導上困難を来すことが予想される事項を内容とする「処遇上の留意点」
 [2] 出院までに達成させたい重点的な「個人別教育目標」
 [3] 新入時教育期間,中間期教育期間及び出院準備教育期間という三つの過程ごとの「段階別到達目標」
 [4] 段階別到達目標達成のための具体的な「教育内容と方法」
 約1か月程度の新入時教育期間が経過した後,中間期教育期間の段階に移行する。
(イ) 中間期教育期間における教育
 この期間が,少年院における教育期間の大部分を占める。
A 生活指導
 中間期教育期間における生活指導の主なものは,[1]交通安全教育,薬物濫用防止教育等による,非行にかかわる態度及び行動面の問題性に対する指導,[2]カウンセリング,内省等による,資質上の問題性に対する指導,[3]家族関係・交友関係の調整等による,保護環境上の問題性に対する指導,[4]映画観賞等による,情操に関する指導,[5]言葉の遣い方,あいさつの仕方等の健全な生活習慣や遵法的生活態度の育成等による,基本的生活態度に関する指導,[6]職業選択ガイダンスによる進路指導等があり,これらの指導が,各種の教育方法に基づいてなされている。
 非行にかかわる態度,行動面の問題性等については,II-26表のとおり,「薬物問題」,「交通・暴走族問題」,「親子・家族問題」等のグループに分けた特別講座が実施されている。この特別講座は,集団討議,視聴覚教材を利用した授業,講話,面接,心理療法等種々の方法によって行われている。一少年院当たり平均3.5種類の講座が開設されている。

II-26表 特別講座実施状況

 また,保護環境上の問題を有する者が多いことから,問題性別特別講座による指導のほか,家族関係の調整や問題解決のため,保護者を含めた指導を実施しており,面会や保護者会等を行っている。
B 職業補導
 矯正教育の重要な領域の一つである職業補導には,[1]職業実習,職業情報の提供及び職業相談を中心とする職業指導,[2]職業能力開発促進法等関係法令に基づいて行う職業訓練,[3]院外の事業所等に委嘱して行う院外委嘱職業補導がある。少年院で実施している職業補導の主な種目は,男子にあっては農園芸,木工,溶接等,女子にあっては応接サービス,事務・ワープロ,介護サービス等の22種目である(平成6年12月31日現在)。平成6年の出院者が,在院期間中に受けた職業補導の種目に関連して取得した資格・免許取得人員の総数は1,340人であり,その種類別人員の構成比は,II-37図のとおりである。
 なお,出院者中に占める,在院中の職業補導に関連した資格・免許取得者の比率は上昇傾向にあり,6年では,男子30.7%,女子49.7%となっている。
 最近では,職業的需要に対応して大型特殊自動車運転,小型車両系建設機械運転等のオペレーター養成が積極的に行われているほか,社会情勢に対応してワープロ,パソコン等のOA機器の操作習得も図られている。これらの資格・免許取得に当たっては,職員が自ら指導するほか,外部からの協力者の指導・助言を仰ぐなどの措置を執っており,合格率は,一般社会人と比較して,いずれも高い。また,院外委嘱職業補導の委嘱内容は,老人介護補助,スーパー店員等多岐にわたっており,平成6年中に出院した者のうち,704人(17.2%)が院外委嘱職業補導を受けている。

II-37図 出院者の資格・免許取得者の構成比(平成6年)

C 教科教育
 義務教育未修了者に対しては,教科教育課程に編入し,中学校学習指導要領に準拠した教科教育を実施しており,出院時に学齢生徒である者が円滑に復学できるように配慮している。また,学業の中断を避け,円滑に学校生活に復帰させることを目的として,短期間の院内教育の後,保護者の元から出身中学校又は高等学校に通学させ,週末だけ帰院させる方法が,主に特修短期処遇において実施されている。平成6年中に出院した者のうち,出院後に中学校又は高等学校に復学した者はそれぞれ66人,57人であり,在院中に中学校の卒業証書又は修了証明書を授与された者は225人である。高等学校教育を必要とする者には,通信制の課程を置く高等学校に編入させるほか,大学等への進学を希望する者に対しては,それに応じた補習教育を実施して,文部省の行う大学入学資格検定を受験させる機会を与えており,6年中に出院した者のうち,科目合格者は12人である。
 なお,学校教育以外の知識を必要とする者に対しては,書道・ペン習字,自動車整備士,電気工事士等の文部省認定の社会通信教育を受講させており,平成6年度(会計年度)における受講者数は,前年度からの継続者を含めて,公費生792人及び私費生81人となっている。
D 保健・体育
 保健・体育においては,睡眠時間,飲酒,喫煙等の保健衛生に関する社会生活上の知識等の習得とバレー ・ボール,バスケット・ボール,水泳等のスポーツによる体力の増強を内容としている。
E 特別活動
 特別活動は,在院者に共通する一般的な教育上の必要性により行われるもので,[1]自治委員会や役割活動等の自主的な活動,[2]工場や公共施設等を訪問して行う社会見学,登山やキャンプ等の野外訓練,老人ホーム慰問や公園の清掃等の社会奉仕活動,[3]美術・絵画,簿記・珠算,柔道・剣道等のクラブ活動,[4]レクリエーション,[5]体育祭,文化祭等の各種行事等がある。
 なお,平成6年の出院者のうち,在院中に院外活動として外出したことのある人員及び外泊したことのある人員は,それぞれ3,819人(93.3%),512人(12.5%)である。
(ウ) 出院準備教育期間における教育
 1級上に進級した少年については,少年院長から地方更生保護委員会に対して,仮退院の申請がなされるとともに,中間期教育期間から出院準備教育期間に移行する。出院準備教育期間においては,出院後の生活設計を立てるために,職業安定所等に出向き,あるいは担当係官の派遣を求めて,求職方法等について指導を受けさせるなどの職業指導等が多くなされている。
 また,この時期の生活指導として,出院後の生活で想定される問題解決場面への対処の仕方をロールプレイングや集団討議等を通じて指導する社会適応訓練を多くの少年院で実施している。
ウ 医療及び食事等
 専門的又は長期の医療を必要とする者は,医療少年院に収容されるが,その他の患者は,各少年院の医師の診療を受ける。しかし,少年院内で適当な医療を施すことができないときには,施設外の病院に通院又は入院をさせるなど適当な場所で医療を受けさせている。平成6年の出院者のうち,在院中に病室等で治療を受けた者は,医療少年院での長期にわたる医療を受けた者を含め1,356人(33.1%)であり,その大半は短期間に治癒している。
 食事については,平成7年4月1日から,一人1日当たりの総給与熱量は男子3,140kcal,女子2,800kcalに改められた。また,主食を構成する米と麦の重量比率はおおむね米80対麦20であり,平成7年度(会計年度)の副食費は一人1日419.07円となっている。衣類,寝具,その他日常生活に必要な物品は,少年院において貸与し,又は給与しているが,規律や衛生に害がないと認められる場合には,自己の物品の使用も許可している。
エ 少年院からの出院
 平成6年においても,出院者のうち3,892人(95.1%)が仮退院者である。
 また,仮退院者の平均在院期間は,長期処遇では370日,一般短期処遇では148日,特修短期処遇では79日であった。