3 麻薬特例法による共助 「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」(麻薬特例法)は,我が国が,「麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約」等を国内的に実施するために制定され,平成4年7月1日に施行された。この法律は,国際的な協力の下に,薬物犯罪から生ずる不法収益の循環を断ち切り,同時にこれをはく奪することによって,薬物犯罪組織を壊滅させ,世界的に深刻の度を深めている薬物濫用問題の解決を図る目的で制定されたものであり,麻薬取締法,大麻取締法,あへん法,覚せい剤取締法のいわゆる薬物四法と,刑事訴訟法等の関係法律の特例を定めている。 国際司法共助の分野に関しては,麻薬特例法は,その第6章(56条ないし70条)において,「没収及び追徴の裁判の執行及び保全についての国際共助手続」について規定している。同章の規定による共助は,同法にいう薬物犯罪等に当たる行為に係る外国の刑事事件に関し,当該外国から,条約に基づき,没収若しくは追徴の確定裁判の執行又は没収若しくは追徴のための財産の保全の共助の要請があったとき,一定の制限事由に該当する場合を除き,その要請に係る共助を行うものである。 同法が定めているのは,外国からの要請に対し我が国が行う共助についてである。一方,薬物犯罪等の裁判において,外国にある資産についても,我が国の裁判所が没収の裁判を言い渡すことは可能であり,また,外国に資産を有する被告人に対し,我が国の裁判所が追徴の裁判を言い渡すことも可能であるので,この場合,我が国が,外国に対し,没収又は追徴の確定裁判の執行の共助を要請することもあり得るが,この手続については,麻薬特例法の定めるところではない。 法務省刑事局の資料によれば,平成6年3月31日現在,外国からの我が国に対するこの種の共助要請の例はいまだなく,我が国からの外国に対するこの種の共助要請の例もいまだない。
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