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 平成 6年版 犯罪白書 第4編/第9章/第3節/1 

第3節 捜査・司法に関する国際共助

1 捜査共助等

 (1)我が国からの外国に対する捜査共助等の要請
 我が国の刑事事件の捜査(公判における補充捜査を含む。)に必要な証拠の収集について外国に共助を求める場合,検察庁又は警察等が外交ルートを通じてこれを行っている。
 検察庁の依頼によって共助の要請をする場合は,通常,検察庁→法務省→外務省→在外日本公館→相手国の外務省という経路をたどり,警察の依頼による場合には,通常,都道府県警察本部→警察庁→外務省→在外日本公館→相手国の外務省という経路をたどり,それぞれ,当該外国の司法当局等がこれを実施することとなる。
 また,外国等に対して刑事事件の捜査に必要な情報や資料の提供等の協力を求める方法としては,国際刑事警察機構(ICPO)ルートによる方法もある。この場合は,一般に,各都道府県警察の協力の依頼が,ICP Oの我が国における国家中央事務局である警察庁を通じてICPOに加盟している外国の警察に伝達され,当該警察において処理されることとなる。
 IV-41表は,最近10年間における,検察庁の依頼により我が国から外国に対して,外交ルートによって要請した捜査共助の,要請相手国別の嘱託件数について見たものである。平成5年中に,我が国からは,アメリカ,オーストラリア,ニュー・ジーランド,ドイツ及びイランに対して,証拠物の提供,関係者の供述調書の作成及び証人尋問の実施の依頼等合計16件の捜査共助の要請をし,このうち10件については,回答を受けている。
 警察庁からの回答によれば,このほか,警察の依頼により我が国から外国に対して,外交ルートによって捜査共助を要請し外国から回答を受けた例があるとのことである。

IV-41表 我が国が要請した捜査共助の相手国別嘱託件数

 外交ルートによって行った,検察庁の依頼による我が国からの捜査共助の嘱託件数は,近年増加している。アメリカを相手国とするものが最も多く,この10年間の総数53件中927件と過半数を占めている。もっとも,近年,タイ,韓国,フィリピン,オーストラリア等のアジア・太平洋諸国を相手国とするものが増加している。
 外交ルートによって行った,検察庁の依頼による我が国からの捜査共助の嘱託事件を罪名別に見ると,殺人が最も多く,次いで,麻薬取締法違反,詐欺の順となっている。平成2年以降,薬物関係特別法犯事件についての捜査共助嘱託が毎年行われており,5年には,4か国に対し5件の嘱託が行われている。
 また,検察庁の依頼による我が国からの捜査共助の嘱託事件のうち,外国人被疑者に係る事件についての,この10年間における嘱託件数を見ると,昭和59年1件,61年2件,平成元年2件,2年1件,3年3件,4年2件,5年3件となっている。
 (2)外国からの我が国に対する捜査共助等の要請
 外国の刑事事件の捜査に必要な証拠の提供等について,我が国が外国から協力を求められた場合については,国際捜査共助法(昭和55年法律第69号)に規定があり,外国から証拠の提供の要請を受けた場合とICPOから協力の要請を受けた場合について,それぞれの手続が定められている。
 外国から刑事事件の捜査に必要な証拠の提供の要請があった場合は,同法1条ないし16条にその手続等が定められている。この場合には,法務大臣は,
 [1] 政治犯罪でないこと
 [2] 捜査の対象となっている行為が日本国内で行われたとした場合,我が国の法令上犯罪に当たるものであること
 [3] 相互主義の保証の下で要請されたものであること
 [4] 証人尋問又は証拠物の提供の要請の場合には,この証拠が必要不可欠であること
 等の要件に該当するか否かを判断した上,要請に応ずることが相当であると認めた場合,地方検察庁の検事正,国家公安委員会,海上保安庁長官等に対して,関係書類を送付する。この場合,検察官又は司法警察員は,共助に必要な証拠の収集に関し,関係人の出頭を求めてこれを取り調べ,鑑定を嘱託し,実況検分をし,書類その他の物の所有者,所持者若しくは保管者にその物の提出を求め,又は公務所若しくは公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができるほか,必要があると認めるときは,裁判官の発する令状により,差押え,捜索又は検証をすることができる。
 また,検察官は,裁判官に証人尋問を請求することができる。収集された証拠は,法務大臣に送付される。
 一方,ICPOから,国家公安委員会が外国の刑事事件の捜査について協力の要請を受けた場合については,同法17条に手続等が定められており,国家公安委員会は,相当と認める都道府県警察に必要な調査を指示するなどし,警察官等は,この調査に関し,関係人に質問し,実況検分をし,書類その他の物の所有者,所持者若しくは公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができることとされている。
 IV-42表は,最近10年間における,外交ルートにより,外国から我が国に対し要請のあった捜査共助の,要請国別の受託件数を見たものである。
 要請国がアメリカであるものが最も多く,この10年間における受託件数の総数154件中73件と半数近くを占めている。しかし,近年,韓国,オーストラリア等のアジア・太平洋諸国及び連合王国等のヨーロッパ諸国からの要請が増加している。
 平成5年中には,アメリカ,連合王国,ロシア,韓国,フィリピン,オーストラリアから,証拠物の提供,関係者の供述調書の作成及び証人尋問の実施の依頼等合計22件の捜査共助の要請を受けており,このうち14件については,既に捜査共助を実施し,要請国に回答済みである。
 IV-43表は,我が国で受託した外国からの捜査共助要請について,国際捜査共助法5条による送付先別件数の最近10年間における推移を見たものである。近年,検察庁が送付先とされる例が多くなっている。平成5年においては,送付先を警察庁とするものが11件,検察庁とするものが14件であった。

IV-42表 外交ルートにより要請のあった捜査共助の要請国別の受託件数

IV-43表 外国から受託した捜査共助の送付先別内訳