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 平成 6年版 犯罪白書 第3編/第3章/第1節/10 

10 非行防止

 非行の一般化が進み,資質面でも,環境面でも,比較的問題の少ない少年による非行が広がりつつあるといわれている。最近の検挙補導少年を見ると,量的に減少傾向にあるとはいえ,交通関係業過を除く刑法犯検挙人員の半数近くを少年が占め,道交違反等交通関係法令違反を除く特別法犯送致人員の2割弱は少年によるものとなっている。検挙補導少年は,心身発達途上の少年であり,その7割強は中学・高校の生徒である。非行の内容を見ると,全般に軽微な窃盗及び横領が目立っている反面,家庭や学校等の保護領域の中での暴力事件やシンナー等薬物濫用の多発が目立っている。窃盗少年の犯行動機を見ると,かつては,貧困ゆえの窃盗が主流を占めていたが,いまや「生活苦・困窮」を理由とする者はわずか0.5%にすぎず,代わって「遊び」を動機どする者が25.9%を占め,また,薬物濫用少年は,好奇心や現実逃避等から,いつの間にか薬のとりことなってしまった者が多い。このような非行,の実態を見ると,最近の非行少年は,全般に生活感が乏しく,社会倫理の基礎としての規範意識が低く,非行が「遊び」感覚で行われ,幼児的な,けじめのない日常としての広がりをもち,「いつでも,どこでも,だれによってでも起こされ得る」ような非行が多くなっているように思われる。これらの少年をつくり出している背景には,家庭における親の養育態度が放任的,あるいは甘やかし・過保護になっていることのほか,いじめ,非行の防止について学校等関係者の真しな取組は認められるものの,なお,対応には困難な点があること,大人社会の規範意識や遵法精神が低下していることなどが考えられる。
 少年非行の背景には,このように社会的,教育的,心理的諸要因が複雑に絡んでおり,これらの諸要因を除去することは容易ではない。少年非行の未然防止のためには,成人への人格形成期にあって,可塑性に富む少年に対して強い影響力をもつ家庭,学校,地域社会と関係諸機関が,それぞれの立場で,少年に十分関心を払い,これら非行少年の健全育成に協力し合うことが大切である。