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 平成 4年版 犯罪白書 第4編/第3章/第2節/2 

2 女子刑務所での処遇の実情

(1) 女子受刑者収容施設
 我が国において女子受刑者の収容施設として指定されているのは,栃木刑務所,和歌山刑務所,笠松刑務所,岩国刑務所,麓刑務所及び札幌刑務支所の6庁である。女子受刑者は,その収容施設数が少ないこともあって,男子のように施設ごとにA級,B級辱の収容分類級で分類して収容することはできないが,施設内における工場,居室の指定等に当たっては,収容分類級が考慮されている。なお,女子外国入受刑者(WF級)は,すべて栃木刑務所に収容されている。
(2) 処遇重点事項
 女子受刑者について,特に重視すべき処遇重点事項とされているのは,[1]情緒の安定性を養う,[2]家庭生活の知識と技術を習得させる,[3]教養と趣味を身に付けさせる,[4]健康の管理に留意する,[5]保護引受入との関係の維持に努める,の5項目である。
 これらの処遇重点事項に従い,女子刑務所では,開放的な建物が多く,保安上の要注意者や精神障害者を収容する場所以外の一般の居室には,施錠がなされず,トイレや洗面所は居室の外に設けられている場合が多い。また,家庭的な雰囲気で,収容に伴う心理的な圧迫感をできる限り少なくするよう,所内の調度品などについても配慮がなされている。職業訓練の種目には,家庭生活の知識や技術の付与に役立つものとして調理,家事サービス,洋裁,美容などがあり,教養と趣味を身に付けさせるために,通信教育や所内の教養講座の受講が奨励され,短歌,俳句,茶道,生け花,器楽,コーラスなどのクラブ活動が行われている。さらに,覚せい剤事犯で入所する者の増加に対応して,薬害防止のための教育が活発に行われているほか,暴力団と関係のある者に対しては,個別的に暴力団との関係を絶たせるための指導を行い,かつ,父母など親族の者との関係の緊密化について援助に努めている。

IV-22表 新受刑者の入所度数別構成比

 女子受刑者の医療及び母子衛生には,特に配慮が払われており,受刑者が妊産婦である場合は,特別の保護的措置が採られ,出産は外部の病院で行われている。さらに,受刑者が1歳未満の実子を伴う場合には,乳児の発育状況,生母である受刑者の家庭の事情・刑期・経済状態等から判断して必要と認める場合に限り,その乳児を刑務所内の保育室で1歳になるまで育てることも許されている。1歳を超えた乳児は,一般の乳児施設又は保護者のもとに預けられる。
 なお,特に専門的な医療措置を要する女子受刑者は,八王子医療刑務所に移送され,治療を受けている。
(3) 女子出所受刑者の概況
 女子受刑者の処遇状況の一端を知るために,女子の出所受刑者の概況を見ることとする。矯正統計年報により昭和57年から平成3年までの出所受刑者を合計すると,この10年間の出所受刑者の総数は29万8,117人である。これを男女別に見ると,女子1万1,886人,男子28万6,231人である。以下,この最近10年間の合計数に基づいて述べる。
ア 出所時処遇分類級
 出所時処遇分類級のS級(特別な養護的処遇を必要とする者)は,女子4.9%,男子2.8%であり,女子のS級受刑者の構成比は,男子のそれよりも2.1ポイント高い。これは女子受刑者には高齢者が多いことが一因である。
 この特別な養護的処遇を必要とする者の衣食住,作業,医療,帰住調整等については,相応の配慮をしている。特に,保護引受人のない者については,更生保護会,福祉施設,医療施設等との連携の強化に努めている。
イ 刑務作業
(ア) 作業の種類
 賦課された作業の種類を見ると,女子は,[1]「織物製品製造」(41.1%),[2]「経理作業(炊事,洗濯,清掃等の施設の自営に必要な作業)」(14.9%),[3]「紙細工」(11.0%)の順に就業者が多く,男子は,[1]「経理作業」(21.9%),[2]「金属加工機械組立」(20.3%),[3]「織物製品製造」(13.9%)の順である。
(イ) 職業訓練
 IV-23表は,職業訓練修了者の多い順に上位10位までの種目を,男女別に,示したものである。女子では,「調理」の修了者が最も多く,次が「縫製」,3位が「美容」である。

IV-23表 出所受刑者職業訓練修了人員

IV-16図 出所受刑者の出所事由別構成比

 女子の職業訓練は,従来,良い家庭人となるための調理,家事サービスなどに重点が置かれていたが,女子も家庭の外に出て就労する場合が多くなっていることから,自活能力の付与に役立つ職業訓練の拡充が必要であり,そのための指導者の養成,設備備品の整備,関係機関との連携の強化等に努めている。
ウ 懲罰回数
 懲罰回数が「なし」の構成比は,女子72.2%,男子59.4%で,女子の方が高い。なお,懲罰事犯名を見ると,女子は「物品不正授受」の構成比が,男子は「収容者に暴行」が,それぞれ最も高い。
エ 出所事由
 IV-16図は,出所事由を見たものである。仮釈放の構成比は,女子の方が高く,女子は78.0%であるのに対し,男子は54.7%である。
オ 帰住先
 帰住先を見ると,IV-17図に示すとおり,「配偶者のもと」の構成比は,女子の方が低く,「父,母のもと」,「兄弟,姉妹のもと」及び「その他の親族のもと」などは,女子の方が高い。
 昭和57年から平成3年までの女子新受刑者1万1,655人について見ると,配偶者がある者(内縁関係を含む。)は48.9%であるが,帰住先を「配偶者のもと」とする女子出所受刑者は16.3%にすぎない。これは,配偶者が受刑者であったり,暴力団員であったりして,配偶者のもとを帰住先とすることができないか,不適当であるとする者がかなり多いことを示している。

IV-17図 出所受刑者の帰住先別構成比

カ 出所時の保護
 IV-24表のとおり,出所時に「旅費給与」を受けた者の構成比は女子の方が高く,「衣類給与」も同様である。これは,女子受刑者について,いわゆる広域収容がなされており,帰住地が施設から遠い場合が少なくないので,出所時に必要な保護措置が講じられていることによる。

IV-24表 出所受刑者に対する出所時の保護