法務総合研究所では,対象者についての資料を分析し,精神障害のある犯罪者の特色を見ることにした。なお,本項においては,特に傷害致死を傷害から区別して取り扱う。
I-46表 罪名・精神障害名別人員(昭和61年〜平成2年の累計)
I-47表 罪名・精神障害名別処分結果(昭和61年〜平成2年の累計)
(1) 罪名・精神障害名
I-46表は,対象者の犯した罪名と精神障害名との関係を見たものである。総数を罪名別に見ると,殺人(総数の20.1%)が最も多く,精神障害名別に見ると,精神分裂病が最も多くなっている。また,いずれの罪名を見ても,精神分裂病の構成比が高くなっている。
(2)処分結果
I-47表は,対象者について,罪名別及び精神障害名別に,不起訴処分理由及び裁判結果を見たものである。検察庁又は裁判所で心神喪失と認められて不起訴又は無罪となった者の合計は,総数の51.3%を占めている。
I-48表 本件罪名・精神障害に係る直近前科前歴名別人員(昭和61年〜平成2年の累計)
(3) 本件罪名と直近前科前歴の罪名
対象者中1,764人が前科前歴を有するが,このうち,直近の前科前歴となった犯行(以下「直近事件」という。)の際にも精神障害が認められた者は648人(36.7%)である。I-48表は,この648人について,本件罪名と直近事件の罪名との関係を見たものである。本件罪名と直近事件の罪名が同じ者の割合は,放火,傷害,強姦・強制猥褻,殺人,強盗のいずれにおいても20%台の数値を示している。
I-49表 罪名別犯行時の治療状況(昭和61年〜平成2年の累計)
(4) 犯行時の治療状況
I-49表は,対象者中,本件犯行時において治療を受けていたかどうかが明らかな者3,692人について,犯行時までの治療状況を見たものである。約3分の2の者は,犯行時において現に治療を受けていなかった者である。しかも,そのうちの約半数の者は,犯行前5年間に治療歴がありながら,犯行時には治療を受けていなかった者である。
(5) 犯行前の入院歴・措置入院期間
対象者中,重大犯罪と認められる殺人,強盗,傷害,傷害致死,強姦・強制猥褻及び放火を犯した者の合計は2,250人であるが,このうち,措置入院歴者は179人となっている。この措置入院歴者の延べ措置入院回数は250回である。そこで,この179人の延べ250回の措置入院について,入院の期間を見ると,I-50表のとおりである。精神障害名別に見ると精神分裂病が最も多く,措置入院期間別に見ると6月以下が最も多い。
I-50表 措置入院歴者の措置入院期間(昭和61年〜平成2年の累計)
I-51表 入院歴者の直近退院時の病状及び犯行までの期間(昭和61年〜平成2年の累計)
I-52表 罪名・精神障害名別犯行後の治療状況(昭和61年〜平成の累計
(6) 退院時の病状・退院から犯行までの期間
I-51表は,対象者中,入院歴がある者のうち,本件犯行前に退院した2,049人について,直近退院時における病状及び直近退院時から本件犯行時までの期間を見たものである。
直近退院時における病状の明らかな者1,341人のうち,398人(29.7%)が,直近退院時に未治癒のまま退院している。
直近退院時から本件犯行までの期間を見ると,退院後1年以内に本件犯行に及んだ者は964人(47.0%)となっている。
(7) 犯行後の精神保健法による取扱状況
I-52表は,対象者の本件犯行後の治療状況を,罪名別及び精神障害名別に見たものである。本件犯行後全く治療を受けていない者が,殺人で20人(2.5%),傷害で23人(3.8%),放火で24人(4.6%)となっている。
I-53表 矯正施設収容中の精神障害者数(平成元年,2年各12月20日現在)