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 平成 3年版 犯罪白書 第1編/第2章/第1節/2 

2 覚せい剤事犯

(1) 覚せい剤事犯の動向
 I-19表及びI-10図[1]から明らかなように,覚せい剤事犯は,昭和60年以降減少傾向にはあるものの依然として高い数値を示している。
 I-20表は,最近5年間における覚せい剤事犯の態様別検挙人員を見たものである。平成2年では,検挙人員総数に占める各態様別検挙人員の比率は,使用事犯が49.0%,所持事犯が30.2%,譲渡・譲受事犯が19.9%などとなっている。
 覚せい剤の押収量を最近5年間について見ると,昭和61年は約350.4kg,62年は約702.7kg,63年は約320.6kg,平成元年は約219.0kg,2年は前年より約60.1kg増の約279.1kgとなっている(厚生省薬務局及び警察庁保安部の資料による。)。
 覚せい剤は,中枢神経を興奮させ,眠気や疲労感の消失,自信増大等の作用を有する薬物であるが,副作用も著しい上,精神的依存性が極めて強く,耐性も形成されやすい。しかも,覚せい剤の連用により慢性中毒になると,被害妄想,幻覚など精神分裂病と同様の症状を起こし,錯乱状態になると発作的に他人に危害を加えることがあるほか,使用を中止した後においても後遺症の一つとされる再現症状(フラッシュ・バック)によって異常行動に出ることがあるなど,非常に危険な薬物である。また,覚せい剤の密売等は,暴力団の有力な資金源となっているほか,使用者が覚せい剤を入手するのに多額の資金を必要とするため,経済的に窮迫し,ついには家庭の崩壊を招き,犯罪にはしるなど,様々な社会的害悪を生み出している。

I-20表 覚せい剤事犯の態様別検挙人員(昭和61年〜平成2年)

 I-21表は,平成2年における覚せい剤に関連する各種犯罪の検挙人員について見たものである。検挙人員総数154人のうち,薬理作用によるものは108人(70.1%)を占めており,その内訳は,凶悪・危険と認められる犯罪として,殺人が4人,強盗が1人,放火が4人,強姦が2人のほか,傷害が10人,銃砲刀剣類所持等取締法違反が18人などとなっている。

I-21表 覚せい剤に関連する各種犯罪検挙人員(平成2年)

(2) 覚せい剤濫用者の特質
 平成2年における覚せい剤事犯検挙人員1万5,267人を職業別に見ると,無職者(主婦及び学生・生徒を含む。)が7,942人(52.0%)を占め,有職者についてその内訳を見ると,土木建築業関係者の2,086人,交通運輸関係者の730人,飲食業関係者の602人,風俗営業等関係者の507人,工員の495人,日雇い労働者の431人などが多く,その他広範な職業にわたっている。なお,無職者のうち,家庭の主婦の検挙人員は,昭和53年には271人であったが,54年以降急速に増加し,60年にはこれまで最高の598人となった。平成2年には前年に比べて34人(9.6%)減少して319人となっている(厚生省薬務局及び警察庁保安部の資料による。)。覚せい剤事犯検挙人員の男女別構成は,2年において,男子1万2,553人,女子2,714人となっており,女子比は17.8%である。女子比は,昭和60年に18.1%に達したが,その後は16%ないし17%台にある。
 I-11図は,平成2年における覚せい剤事犯検挙人員の年齢層別構成比を見たものである。20代の者が最も多く,以下,40代,30代,50歳以上,少年の順となっている。一方,年齢層別構成比の推移を見ると,40代と50歳以上の者で占める比率が年々上昇する傾向を示している。また,少年の検挙人員は,昭和48年に156人で全体の1.8%にすぎなかったものが,その後,実数,構成比共に増加を続け,55年には構成比で10%を超え,57年には2,769人,11.7%と最高を記録した。しかし,その後,実数,構成比共に逐年減少し,平成2年では775人,5.1%となっている。
 I-22表は,最近5年間における覚せい剤事犯で検挙された者について,覚せい剤事犯前科前歴状況を見たものである。覚せい剤事犯の同種前科前歴を有する者の占める比率は,昭和56年に41.4%であったものが逐年上昇し,平成2年には57.0%に達している。なお,女子について見ても,同年には38.3%と,昭和59年以降連続して30%を超えている。

I-11図 覚せい剤事犯検挙人員の年齢層別構成比(平成2年)

I-22表 覚せい剤事犯検挙者の同種前科前歴状況(昭和61年〜平成2年)

I-23表 暴力団員の覚せい剤事犯検挙状況(昭和56年〜平成2年)

(3) 暴力団の関与
 I-23表は,昭和56年以降における覚せい剤事犯の検挙人員に占める暴力団員の人員及び比率を見たものである。暴力団員の検挙人員は,55年に1万人を超え,59年には最高の1万1,352人を記録したが,以後漸減し,平成2年では6,581人となっている。覚せい剤事犯者中に占める暴力団員の比率は,元年以降やや低下して2年では43.8%となっている。
 なお,平成2年の刑法犯(交通関係業過を除く。)及び特別法犯(道交違反等交通関係法令違反を除く。)を合わせた暴力団員の検挙人員は,3万4,599人である。これらの全事犯を罪名別に見ると,覚せい剤事犯の占める比率は,19.0%で,昭和55年以降,傷害を上回って第1位となっている(警察庁の統計による。)。
 I-24表は,最近5年間における暴力団員からの覚せい剤の押収状況を見たものである(ただし,警察官署以外の機関による押収を含まない。)。

I-24表 暴力団員からの覚せい剤押収状況(昭和61年〜平成2年)

I-25表 覚せい剤密輸入の供給地別押収量(昭和61年〜平成2年)

(4) 覚せい剤の密輸入
 I-25表は,最近5年間における覚せい剤密輸入の供給地別押収量を見たものである。平成2年に密輸事犯で一度に1kg以上を押収した事例は20件であるが,供給地別では,台湾ルート(11件)以外は不明となっている。