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「村の渡しの船頭さんは 今年六十のおじいさん 年は取ってもお舟をこぐときは 力いっぱいろがしなる ソレ ギッチラ ギッチラ ギッチラコ」というのは,昭和16年(1941年)に発表された,武内俊子作詞,峰田明彦補作,河村光陽作曲の童謡であり,戦後も相当の期間よく歌われたものであるから,40歳くらいから上の年齢の方の中には,この歌を御存じの方も多いだろう。
ここで注意していただきたいのは,この歌が作られたころは,60歳の男性は一般的に「おじいさん」であったらしいということである。 しかし,それから50年たった今日,60歳の男性に対して「おじいさん」などと言おうものなら,ひんしゅくを買うことは間違いない。今では,多くの人々にとって,60代は元気な「働き盛り」の年代になっているのである。このように,我が国では,当時とは比較にならないほど平均寿命が伸長し,また,死亡率と出生率が低下しており,これらの要因のために,急速に高齢化が進みつつある。そして,近い将来迎えるに違いない高度に高齢化した社会に備えて,いろいろな分野で,官民挙げて準備に取り組んでいるのが現状である。 ところが,犯罪の予防と犯罪者の処遇については,「そもそも犯罪とは,若い者が若気の至りで犯すもので,大抵の者は,年を取れば分別もつき,同時に,犯罪を犯すような気力も体力も落ちるから,次第に犯罪から『足を洗う』ものだ。」という先入観があったためか,どうもこれまで,高齢化の問題に十分な注意が払われてこなかったような気がしてならない。 しかし,刑務所における受刑者の年末在所人員中60歳以上の者の構成比一つを取って見ても,昭和41年末には1.3%にすぎなかったものが,平成2年末には5.0%まで上昇している。これを,最近におけるスウェーデン,フランス,旧西ドイツ及びイギリスの対応する構成比が1.0%から1.3%の範囲にとどまっているのと比較すれば,かなり大きな数値であることがお分かりいただけよう。このように,実は,犯罪の世界においても,高齢者を60歳以上の者としてとらえれば,高齢化は始まっているのである。 そこで,本白書では,平成2年を中心とした最近における犯罪の動向と犯罪者処遇の実情とを概観するとともに,特集として「高齢化社会と犯罪」を取り上げ,平成2年現在の犯罪者の世界においてどの程度高齢化が進行しているのか,そしてそれが犯罪者の処遇面にどのような影響を及ぼしているのか等を調査して報告し,犯罪者の高齢化に関する有効適切な対策を講じる上で役に立つ資料を提供することを試みた。これらの調査結果が,犯罪の予防と犯罪者の処遇の進展のために,何程かの寄与をなし得れば幸いである。 終わりに,本白書を作成するに当たっては,法務省各部局はもとより,最高裁判所事務総局,警察庁,外務省,厚生省その他の関係機関及び更生保護会から多大な協力と援助を受けた。ここに深く謝意を表し,あわせて,本白書に関する責任は,専ら当研究所にあることを明らかにしておきたい。 平成3年10月 敷 田 稔 法務総合研究所長 |