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1 受刑者処遇の基本制度等 (1) 分類処遇制度
受刑者の改善更生及び社会復帰を図るためには,個々の受刑者のもつ人格特性及び環境的・社会的諸問題に対応した処遇を行う必要がある。個々の受刑者のもつ問題点を明らかにするための科学的調査を分類調査といい,その結果に基づいて処遇計画を立て,その計画を効果的に実施するための集団を編成して,各集団に応じた有効な処遇を行うことが分類処遇である。 ア 分類調査 新たに刑が確定し刑務所に入所した受刑者に対しては,入所時教育と並行して分類調査が行われる。この分類調査は,個々の受刑者について,最もふさわしい処遇を行うために必要な事項を明らかにして,適切な処遇計画を立てようとするもので,施設機能の有効な発揮と受刑者の改善及び社会復帰の促進に欠くことのできないものである。 分類調査は,各行刑施設において実施され,[1]医学,心理学,教育学,社会学等の専門的知識及び技術に基づき,[2]入所時調査(刑確定による入所後,おおむね2月以内に行う調査)及び再調査(入所時調査の後,執行刑期が8月未満の者についてはおおむね2月ごとに,その他の者についてはおおむね6月ごとに定期的に行う調査,又は必要の都度臨時に行う調査)として行われる。なお,この分類調査を効果的に行うため必要と認めるときは,心情相談,心理治療,その他の適当な措置も併せ行われている。調査の結果は総合されて,分類級(収容分類級及び処遇分類級)の決定,居室配置の決定,保安・作業・教育等の処遇指針の決定,移送の実施,累進の審査,仮釈放申請の審査,釈放に伴う必要な措置等,適切な収容及び処遇の実施に役立てられている。 分類調査及び分類処遇体制を充実する施策の一環として,全国各矯正管区ごとに分類センターとしての機能を営む施設(名古屋,広島,福岡,宮城,札幌,高松の各刑務所,川越少年刑務所及び大阪拘置所)が指定されており,ここでは,[1]新たに刑が確定した受刑者のうち,一定基準(執行刑期が1年以上で,かつ,施設において刑の執行を受けたことのない26歳未満の男子)に該当する者を集めて,精密な入所時調査を行い,入所時調査が終了した者を,その者の収容分類級に該当する処遇施設へ移送する,[2]他の処遇施設において処遇中の受刑者で,精神状況又は行動の異常性が著しいため,特に専門的な精密調査を必要とする者を収容し,精密な再調査及び治療的処遇を実施する,[3]他の施設に対して,受刑者の分類に関する助言・指導,研修及び研究の援助・協力をするなどの業務を行っている。 イ 分類処遇 受刑者は,分類調査の結果に基づいて,それぞれ収容分類級(収容する施設又は施設内の区画を区別する基準となる分類級)及び処遇分類級(処遇の重点方針を区別する基準となる分類級)が判定される。 II-4図は,分類級別符号及び内容を示したものである。収容分類級は10種で,その分類基準は,男女別,国籍,刑名,年齢,刑期,犯罪傾向の進度,心身の障害の有無などにおかれている。また,処遇分類級は7種で,その分類基準は,重点とする処遇内容におかれている。これらの分類級については,それぞれの級別に対応した処遇を推進するため,処遇基準が定められ,受刑者の処遇は,分類級別の処遇重点事項に基づいて行われる。 II-4図 受刑者分類級(平成元年5月1日現在) II-31表は,最近3か年の各年末における収容分類級及び処遇分類級の構成比を示したものである。昭和63年末の収容分類級では,B級受刑者の構成比は,62年末に比べて0.3ポイント下降して,54.8%を占めている。このほか,62年末に比べて,A級,F級,II級,L級の構成比が上昇し,Y級,P級の構成比が低下している。また,処遇分類級では,各年共に,生活態度及び更生意欲に問題があるため,特に徹底した生活指導を必要とするG級受刑者が最も多く,63年末では64.1%を占めている。I-31表 受刑者の収容・処遇分類級別構成比(昭和61年〜63年各12月31日現在) (2) 累進処遇制度累進処遇制度は,受刑者の自発的な改善への努力を促すために設けられたもので,刑の執行の過程に4個の階級を設け,入所当初の最下級から,その行刑成績に応じて順次上級に進級させ,それにつれて漸進的に優遇の付与及び自由制限の緩和を行って社会生活に近づけるとともに,共同生活における責任を加重することにより,社会適応化を図ろうとする処遇方法である。この制度は,我が国では,昭和9年以降実施されているが,戦後における人権思想や,個別処遇の理論等の進歩に伴って,制度の内容には数次にわたる改正が行われ,級別の処遇差が縮小されるなどの変化が生じている。 (3) 開放的処遇 開放的処遇は,施設の物的設備と人的措置における拘禁度を緩和し,受刑者の自立心及び責任感に対する信頼を基礎とした処遇形態である。受刑者分類制度の発展に伴い,処遇の個別化の考え方に立脚して開発され発展してきた開放的処遇は,1955年の犯罪防止及び犯罪者の処遇に関する第1回国連会議で議決された「被拘禁者処遇最低基準規則」にも,その必要性及び有用性が盛り込まれており,世界各国において著しい展開を見せている。 我が国の開放的処遇は,交通事犯禁錮受刑者が急増した昭和30年代半ばから,同受刑者に対する特別な処遇方法として,本格的に実施されるようになった。交通事犯受刑者に対する開放的処遇は,豊橋刑務支所(36年開始),習志野刑務支所(38年開始,後に市原刑務所として独立),加古川刑務所(38年開始)などの施設で行われたが,現在では,これらの3施設のほか,大分刑務所,山形刑務所,函館少年刑務所,尾道刑務支所及び西条刑務支所の5施設でも行われている。これらのうち市原刑務所,加古川刑務所及び西条刑務支所においては,開放的処遇に適する交通事犯懲役受刑者も収容し,開放的処遇を実施している(収容基準及び処遇内容については,本節9参照)。 以上の交通事犯受刑者に対する開放的処遇のほか,一般の受刑者に対する開放的処遇を行う施設として,昭和45年に喜連川刑務支所が開設され,農業土木の職業訓練を中心に開放的処遇が実施されている。さらに,他の施設においても,構外作業の形態などにより開放的処遇が逐次展開されており,その種のものとして,各務原作業場(岐阜刑務所),最上農場(山形刑務所),鱒川農場(函館少年刑務所),大井造船作業場(松山刑務所)等がある。 これらの開放的処遇を行う施設では,居室,食堂,工場等は原則として施錠せず,行刑区域内では戒護者を付けず,面会もなるべく立会者なしで行わせており,他方,生活指導,職業訓練等,社会復帰に必要な教育的処遇を積極的に実施している。また,構外作業場は,受刑者の自律心を育成するとともに社会的資源を活用し,職業に関する資格・免許の取得にも役立っている。 |