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 平成 元年版 犯罪白書 第1編/第2章/第2節/1 

第2節 暴力団犯罪

1 概  説

 暴力団による対立抗争事件の発生回数自体は,昭和60年を頂点として減少の傾向にあるが,一般市民を巻き添えにした凶悪な銃器発砲事件は多発する傾向を示し,暴力団は,依然として市民生活に大きな不安を与え続けており,我が国全体の犯罪情勢を悪化させる要因となっている。
 昭和63年末現在における暴力団の状況は,警察庁刑事局の調査によると,団体数で3,197団体,構成員数で8万6,552人とされており,そのうち,いわゆる広域暴力団(2以上の都道府県にわたって組織を有する暴力団をいう。)に所属する暴力団は,団体数が2,840団体,構成員数が6万9,381人である。また,広域暴力団のうち,構成員数の多い上位3組織である特に大規模な広域暴力団に所属する者は,団体数が1,397団体,構成員数が3万4,492人となっている。特に大規模な広域暴力団及びこれを除く広域暴力団の全体に占める各割合は,団体数で,それぞれ43.7%(前年40.4%),45.1%(同49.3%),構成員数で,それぞれ39,9%(同36,1%),40.3%(同46.3%)であり,前年に比べると,特に大規模な広域暴力団を除いた広域暴力団の団体数及び構成員の各割合は低下しているのに対して,特に大規模な広域暴力団の各割合は上昇しており,現在の暴力団は,特に大規模な広域暴力団による寡占化の状況が一層顕著になる傾向にある。

I-26表 暴力団対立抗争事件の発生状況(昭和59年〜63年)

 I-26表は,最近5年間における暴力団相互の対立抗争事件を見たものである。昭和63年に発生した対立抗争事件は,32件128回で,前年に比べ事件数で5件増加し,発生回数で59回減少しているが,発生回数が減少したのは長期にわたる大規模抗争事件が少なかったことによるものである。また,対立抗争事件のうち,銃器を使用した回数は112回(前年164回),死者は3人(同18人),負傷者は12人(同35人)で,いずれも減少している。
 最近5年間の暴力団関係者から押収したけん銃の種類別押収数は,I-27表のとおりである。昭和63年のけん銃の押収数は1,255丁で,前年に比べて285丁(18.5%)減少しているが,押収けん銃のうち真正けん銃の占やる割合は87.1%に及んでいる。63年の暴力団関係者による銃器使用回数(対立抗争による分を含む。)は249回で,前年に比べ37回減少しており,また,これによる死者は28人(前年39人),負傷者60人(同73人)で,いずれも前年より減少しているが,依然として高い数値を示している。特に,一般市民を巻き添えにした発砲事件は12件(前年11件)で,59年以降増加傾向にあり,暴力団による銃器発砲事件は悪質化の様相が見られる。

I-27表 暴力団関係者からのけん銃押収数(昭和59年〜63年)

 暴力団の資金源としては,風俗営業等,興行,金融業など一応合法的事業と言い得るものもあるが,主要なものは,依然として,覚せい剤の密売,恐喝,賭博,のみ行為等の非合法なものと言ってよい。特に,覚せい剤については,ばくだいな利益が得られるため,組織ぐるみで密輸入や密売に当たっている暴力団が少なくない。なお,最近においては,暴力団組織の威嚇力を背景にした金銭消費貸借,家屋賃貸借,交通事故の示談等の金銭の取立てなどに絡む民事介入暴力事犯が増加の傾向にある。