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 昭和63年版 犯罪白書 第4編/第4章/第3節/3 

3 各種の矯正処遇

 多数回受刑者は,既に本章第1節及び第2節において見てきたように,その犯罪の態様,人格上の特性,在社会時における生活の形態等いずれにおいても,社会復帰を図る上で極めて困難な多くの負因を背負った者たちである。したがって,その処遇に当たっては,それぞれの特性と問題点に応じた様々な施策が必要となるが,本項では,多数回受刑者を含むB級受刑者に対して,それぞれの資質及び環境に応じその自覚に訴え,改善更生の意欲の喚起及び社会生活に適応する能力の育成を図るため,この者たちが抱えるそれぞれの特性と問題点に向けて,現在,B級の行刑施設において実践されている幾つかの処遇について紹介することとする。
(1) 生活指導
 生活指導は,受刑者に健全な心身を培い,自律心及び遵法精神をかん養し,健全な生活態度を身に付けさせることを目的として,各種の方法を通じ,また,施設内での日常生活の各場面において,処遇関係職員等によって実施されている。以下の生活指導は,受刑者個々の自覚に訴えて積極的に更生への意欲を喚起するとともに,施設内にとどまらず社会復帰後においても健全な共同生活ができるようにするために行っている方策である。
ア 生活目標の設定と課題学習
 生活目標の設定とは,入所時教育の段階で受刑者各人が,過去の生活における各自の抱える問題点を自ら点検することにより,それに応じた受刑生活中の努力目標を定めることであり,各受刑者は出所時に至るまで,この生活目標を自己の課題として日々努力し,その目標に対する達成度の自己評価と指導者による他者評価を対比させて, 一層の自己向上への努力を促そうとするものである。
イ 部外協力者による指導
 この指導は,入所時教育期間中,篤志面接委員等の民間の部外協力者が,受刑者各自が更生する上で,受刑中に何をなすべきかの問題点の発見とその解決を図る方法等について個別に助言指導を行い,以後,必要があれば継続して出所時まで指導に当たる方策である。これは,民間の人生経験豊かで熱意ある篤志家によって実施されるため,受刑者に感銘を与え更生への意欲を高めるなど実効ある場合が多い。
ウ 個別面接指導制度
 受刑者の心情の安定を図り,受刑中及び出所後における生活に明確な目標と積極的な心構えを形成させるよう面接指導することは,極めて重要なことである。個別面接指導とは,あらかじめ施設において指定した職員(面接指導者は,受刑者の属する工場の担当職員,その他勤務成績が優良で実務経験豊かな職員が選ばれる場合が多い。)が,受刑者各人に対して定期又は随時に面接指導を行うよう定めた方策である。この制度は,受刑者の心情の把握とその安定及び更生意欲の醸成に相当の効果を挙げている。
エ 工場就業者による努力目標の設定と反省会
 この方策は,受刑者が就業する工場を一つの単位として,月間の努力目標を設定して,これに向けて各受刑者の意識をまとめ実践させる方法である。努力目標は,職員の指導の下,受刑者の全員の討議によって決定され,翌月の反省会において,その実施結果につき反省・検討される。その内容は,日常の生活態度,規律,作業,教育,環境整備等の多岐にわたっているが,受刑者の生活の多くが工場担当職員の指導の下で工場単位に営まれていることにかんがみ,この方策によって,受刑者の節度ある中にも協調的な日常の生活態度が育成されるほか,矯正処遇上の適切な環境が形成されていくなどの成果が挙がっている。
オ 暴力団組織からの離脱指導
 暴力団関係者を更生させるためには,暴力団関係組織から離脱させることが不可欠である。施設では,入所時から出所時に至るまでの全期間を通じて,関係組織から離脱するための個別相談や指導を積極的に実施しているほか,離脱意思のある者が出所する時には,円滑に社会復帰できるよう暴力団関係者による釈放時の出迎えの規制等も関係機関と連携して活発に行われている。
カ 覚せい剤事犯者に対する指導
 この指導は,覚せい剤事犯者に対して,覚せい剤による身体的・社会的害悪を認識させ,遵法意識を喚起させる方策である。施設においては,例えば,密売事犯者と自己使用者に区分したグループを編成し,講話,集団討議,カウンセリング,視聴覚教育等の処遇技法を用い,指導効果を高めるよう工夫している。
キ アルコール嗜癖者に対する指導
 この指導は,飲酒により犯罪を繰り返している受刑者を対象に,主として自己の体験談などの事例を通じての集団討議,集団カウンセリングなどの処遇技法により,酒癖を矯正しようとする方策である。
(2) 刑務作業
 刑務作業は,受刑者の勤労意欲のかん養,職業的技能の付与等,社会復帰を図るための重要な処遇の一つである。したがって,B級施設において刑務作業を賦課する場合は,職業上の技能を有する者には,その技能を活用することによって能力の維持向上を図り,また,職業に関する公の免許又は資格を取得するための必要な適性を有する者に対しては,できるだけ職業訓練を施すよう配慮し,これらに該当しない者に対しても,作業を通じて勤労の習慣を身に付けさせる目的の下にそれぞれ実施されている。なお,仮釈放許可決定になったB級受刑者に,6週間,特別に計画された釈放前教育を行いながら,民間の木工会社への外部通役作業に従事させ,開放的処遇環境の下で良好な成績を挙げている例もある。
(3) 補習教育
 B級受刑者の中には,義務教育が未修了等で社会生活に適応するための学力を欠いた教育程度の低い者が少なくない。これらの者に対しては,国語,数学,社会等の基礎的教科の補習教育が行われている。指導者には,教員又は教職歴のある民間の篤志面接委員又は施設職員等が委嘱され,受刑者の必要性に合った補習教育が実施され相当の効果を挙げている。また,これらの受刑者は,内心では読み書き等も満足にできないことについて強い劣等感を抱いているのが通例であるので,補習教育によって劣等感を取り除くなどその心情に与える影響も大きいものがある。
(4) 保護調整
 B級受刑者には,保護関係の不良な者が多いため,その環境調整が重要である。家族がありながら家族のもとに帰住しない者には,係職員が本人を指導するほか,家族の意向を確かめたり,また,来所した家族については積極的に保護相談に応じるなど,受入準備についての指導がなされている。保護関係が不良の者に対しては,保護観察所等の職員や篤志面接委員の指導を受けさせるなどの配慮もなされている。
 以上,犯罪傾向の進んだB級受刑者に対する生活指導を中心とした矯正処遇の一端を紹介した。近年,B級施設においては,個々の受刑者の特性や問題性に着目し,受刑者各人の自覚と努力を促す効果的な矯正処遇の導入に実務上の努力が払われており,これらの処遇は,地道ではあるが,多数回受刑者らが抱える問題の核心に迫る矯正処遇上の必要な方策であり,さらに,法制の整備等により今後一層の充実発展が期待されるところである。