仮釈放とは,矯正施設に収容されている者を,収容期間満了以前に仮に釈放して社会復帰の機会を与える措置の総称であり,これには,懲役又は禁錮の受刑者に対する仮出獄,拘留又は労役場留置中の者に対する仮出場,少年院収容中の者に対する仮退院,婦人補導院収容中の者に対する仮退院の4種類がある。この仮釈放制度は,矯正施設に収容されている者に将来の希望を与えてその改善を促し,釈放後における社会復帰を円滑ならしめるために保護観察を実施し,その更生を図ることによって再犯を防止するという刑事政策的目的を有している。
(1) 仮釈放の審理
仮釈放の許否を決める権限は,高等裁判所所在地ごとに置かれている地方更生保護委員会(以下「地方委員会」という。)に属する。地方委員会は,矯正施設の長の申請に基づいて又は自らの職権で,審理を開始するが,この審理及び許否の決定は,3人の委員で構成される合議体で行われる。
仮釈放の許否を決定するに当たっては,本人の資質,生活歴,矯正施設内における生活状況,将来の生活計画,帰住後の環境等を総合的に考慮するとともに,仮釈放を許可するときは,本人の社会復帰に最も適当と認められる時期を考慮することとされている。このため,地方委員会の指名を受けた委員(主査委員)は,原則として本人と面接し,仮釈放の適否,仮釈放の時期,特別遵守事項,保護観察実施上の留意点等について検討するほか,必要に応じて,本人の社会復帰を円滑にするための相談に応じ,助言を行っている。また,仮釈放の審理を行う場合において,資質その他の面で著しい問題がある者については,地方委員会は,他に適当な委員を指名して面接を行わせ,いわゆる複数委員による面接によって,適正な審理を期している。
地方委員会においては,矯正施設の長から仮釈放申請を受理すると,原則として,保護観察官が主査委員の面接に先立って本人と面接し,仮釈放の審理の準備のため必要な調査を行っている。また,矯正処遇と更生保護との有機的関連性を一層深め,仮釈放のより迅速かつ適正な運用を期するため,仮釈放申請を受理する前に,保護観察官が施設に赴いて行ういわゆる仮釈放準備調査が広く実施されている。これは,具体的には,[1]保護観察官が施設職員と被収容者の更生に必要な措置について協議し,[2]本人との面接等によって,本人の資質及び釈放後の生活計画に照らした帰住先の環境の改善,適切な仮釈放の実施のための情報の収集,本人の社会復帰を円滑にするための相談・助言等を行い,[3]この調査結果を保護観察所に連絡する等の業務から成っている。
仮釈放準備調査の実施対象の施設は,逐年拡大され,昭和60年には,行刑施設では前年より10施設増えて53施設,少年院では7施設増えてすべての施設で実施され,60年における実施対象人員は,受刑者では前年より2,938人(52.7%)多い8,508人,少年院在院者では前年より1,457人(25.2%)多い7,248人となり,年々その対象人員も増加している。
仮釈放準備調査をより有効に行い,受刑者の早期かつ円滑な社会復帰を図る目的で,昭和56年10月から,地方委員会の保護観察官が矯正施設に常駐することとなり,60年11月現在,広島,福岡,宮城,府中及び大阪の各刑務所において,これが実施されている。この施設駐在官は,仮釈放準備調査に当たるほか,被収容者の新入時又は釈放時の教育に対する協力,施設内の処遇に関する会議への参列,被収容者に対する相談・助言,家族など関係人との面接等に従事しており,今後もこの施策の拡充が望まれている。
(2) 仮釈放の申請及び許否状況
II-42表は,最近5年間における仮釈放の申請受理及び許否状況を見たものである。仮出獄申請受理人員は,昭和57年以降増加していたが,60年は前年より71人(0.3%)少ない2万314人となっている。少年院仮退院申請受理人員も,60年は前年より125人(2.1%)減少して5,698人となっている。
II-42表 仮釈放の申請受理及び許否の状況
仮釈放の許否の状況について見ると,仮出獄の棄却率は,昭和54年以降低下する傾向が続いていたが,60年は前年より0.7ポイントとごくわずか上昇しているものの,低い率を示している。また,少年院仮退院の棄却数は例年極めて少なく,60年には1件だけである。なお,最近5年間において,仮出場を許された者はなく,また,婦人補導院被収容者で仮退院を許された者は,57年に1人あったにすぎない。
仮釈放を許された者は,仮出場の場合を除いて,保護観察に付される。また,仮釈放期間中に遵守事項に違反し,又は再犯等があったときは,仮釈放を取り消されて矯正施設に再収容されることがある。