行刑施設の安全と秩序を維持する作用は,受刑者の処遇が円滑に行われるための基礎となるものである。近年,行刑施設における暴力団関係受刑者(暴力組織に加入している受刑者をいう。)の増加には,顕著なものがある。I-37表は,昭和50年及び最近3か年の各年末における受刑者中に占める暴力団関係受刑者の収容状況を示したものである。全受刑者に占める暴力団関係受刑者の割合は,前年の28.6%から60年末には29.9%と増加し,特に,B級受刑者を収容している施設においては42.9%で,受刑者5人に2人は暴力団関係受刑者となっている。
II-37表 暴力団関係受刑者数
暴力団関係受刑者は,暴力組織への帰属意識が強く,ややもすると,施設内で結束して派閥の勢力を拡大しようと企てたり,社会における派閥間の対立・抗争を施設内に持ち込み,他の派閥と反目対立して重大な事故を引き起こす危険性も高い。また,更生意欲も乏しく,生活態度においても問題のある者が多く,職員に反抗し,他の受刑者を威圧したりして,施設の規律を乱すおそれも多い。暴力団関係受刑者の処遇に当たっては,まず,施設の安全と秩序の維持に格段の注意を払い,受刑者間の人間関係に注意し,必要に応じて分散収容を行うなど,保安及び警備を厳重にして厳正な態度をもって対処している。また,労働の意欲及び習慣を助長する処遇の実施にも配慮しているが,特に暴力団関係受刑者を更生させるためには,暴力団関係組織から離脱させることが不可欠である。このため行刑施設は,入所から出所に至るまでの全期間を通じて,暴力団関係組織からの離脱を積極的に働きかけ,少しでも離脱意思のある者には,個別相談や指導を行い,離脱意思の強い者には,離脱誓約書を書かせて,関係者に送付させたりして,離脱意思を確固たるものにするための徹底的な指導などを行っている。
また,最近の覚せい剤事犯受刑者の著しい増加に対応して,それらの者の再犯防止策の充実は,処遇の重点事項とされているが,覚せい剤事犯受刑者には,暴力団と関係のある者が多く,処遇に当たって保安上の問題が少なくない。
保安の状況を最も端的に把握するために,行刑施設における逃走等の主要事故の発生状況を見ると,II-38表のとおりである。昭和60年の事故発生件数は16件で,前年より3件減少した。収容人員が増加傾向にあり,とりわけ暴力団関係者,覚せい剤事犯者等の処遇困難者が逐年増加しているにもかかわらず,事故発生件数は近年,総体的に低い数値で推移しており,保安状況はおおむね平穏であるといえる。
II-38表 行刑施設事故発生状況