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 昭和60年版 犯罪白書 第4編/第5章 

第5章 むすび

 以上のように,本編第2章においては,犯罪者処遇の各段階における処遇の効能を,再犯という視点から考察し,第3章においては,昨今の犯罪情勢から見て注目すべき犯罪類型等に対する再犯防止のための処遇の実態について述べ,さらに第4章においては,犯罪者処遇等への市民の参加の実情について説明した。
 各処遇段階ごとの再犯率については,処遇段階が最も軽い起訴猶予から最も重い満期釈放へと向かうにつれて,次第に高くなっていくことが顕著に認められる。このことは,各処遇段階の選択が,犯罪者の反社会性の軽重,犯罪累行性の強弱などをも十分に考慮してなされている以上,当然の結果ともいうべきであって,重い処遇段階の者ほど,再犯傾向の強い者が多く含まれていることを十分に裏付けるものであろう。
 ここで注目したいのは,再犯速度(再犯期間)について,成人,少年を問わず,また一般にいずれの段階の処遇を受けた者でも,処遇後2年以内の再犯率が高く,この時期を経過すると再犯率は急速に低下する傾向が見受けられることである。このことは,処遇後2年間が多くの犯罪者にとって再犯の危険期間であることを意味するものといえよう。
 さらに,同一の処遇段階の者であっても,犯罪の種類や犯罪者の類型によって,その再犯率にもかなりの差異が見受けられる。中でも,再犯防止上特に留意すべき窃盗の実刑者等常習犯罪者及び覚せい剤事犯者について見ると,再犯速度は他の一般事件の犯罪者とほぼ同一の傾向を示しているものの,再犯率では,いずれも極めて高く,特に覚せい剤事犯者は他の一般事件の犯罪者と異なり,いずれの段階の処遇を受けた者も,その再犯率の高さは一様に際立っている。
 刑事司法各段階の処分決定機関や処遇執行機関においては,犯罪者の処分や処遇につき,前述のように常に犯罪者の反社会性の軽重,犯罪累行性の強弱などを十分考慮して処分や処遇の選択等を行ってきているが,更に以上述べた犯罪者の再犯状況,とりわけ再犯の危険期間を念頭において,処分の選択や量刑へのより合理的な配慮,処遇内容等の一層の充実強化に努めることが必要であると思われる。
 また,犯罪者の改善更生は,究極的には地域社会の理解と支持を得て,初めて達成されるものであるから,刑事司法の全分野において,特に矯正,保護の領域を中心として,多くの市民の参加・協力を求めているところである。しかしながら,市民相互の連帯感や協同意識の希薄化等が指摘される昨今の社会情勢下においては,犯罪前歴者の社会復帰の過程にもより多くの困難が予想されるところから,更に潜在している民間活力を掘り起こし,これを犯罪者処遇の面にも有効に結びつけていくことが望まれる。
 すなわち,特に若い世代を含むより広範な市民層へ積極的に働きかけて,地域社会における犯罪防止や犯罪者の更生を促進するための諸活動への参加,個々の犯罪前歴者に対する身柄の引受け,職場の提供等,各市民からそれぞれの立場に応じたより幅広い支援,協力が得られるよう配慮されなければならない。
 また,重い処遇を経た犯罪者に対しても,保護司など多くの市民が民間人としての特性と長所を生かして活動し,刑事司法行政の推進に大きく貢献している。こうした犯罪者の処遇に直接関与する民間篤志家については,今後とも適任者に積極的な協力を求めるとともに,これら篤志家の活動と公的業務との緊密な提携等に十分配意することにより,更に一層効果的な処遇の成果が期待されるであろう。