法務総合研究所は,昭和55年中に全国の少年院を退院又は仮退院により出院した4,413人全員について,出院後3年以内に少年院へ再入院又は罰金・懲役・禁錮の有罪裁判確定を再犯として,全国少年院等の協力により,特別調査を実施した。なお,4,413人のうち,413人については,再犯の有無が不明のため,本調査の集計から除き,4,000人についての成行きを分析する。
(1) 処遇区分別
前記調査対象とした4,000人の少年院出院者について,出院後3年以内の再犯率及び再犯処分状況を,昭和55年の少年院出院時の処遇区分別に見たものがIV-27表である。
まず,少年院出院者の再犯率について見ると,男子は38.1%,女子は28.3%となっている。これを処遇区分別に,再犯率の高いものから順に見ていくと,男子の長期処遇43.6%,女子の長期処遇32.2%,男子の一般短期処遇30.4%,女子の一般短期処遇18.7%,男子の交通短期処遇16.8%となっており,男女とも,長期が短期よりも再犯率が高く,同じ短期でも,一般が交通よりも高くなっている。
IV-27表 昭和55年少年院出院者の処遇区分別再犯率及び再犯処分状況
また,同表により,再犯処分状況について見ると,男女とも,再入院率は12.4%であるが,再犯により刑事処分を受けた者の比率は,男子の方が女子よりも高い。特に,男子の長期処遇では,刑事処分が30.4%で,その内訳は,単純執行猶予10.2%,刑務所入所8.4%,罰金7.7%,保護観察付執行猶予4.1%となっている。これに対し,男子の一般短期処遇では,いずれも長期処遇より低い。女子の長期処遇では,男子の長期処遇よりも再犯率は低いが,保護観察付執行猶予に付された者だけは,男子よりも若干高率となっている。また,女子の一般短期処遇では,刑務所入所はなく,罰金1.3%,単純執行猶予2.7%と極めて低い。
IV-28表 昭和55年少年院出院者の処遇課程等別再犯率及び再犯期間
IV-28表は,少年院出院時の処遇課程等別に,出院後3年以内の再犯率及び再犯期間を見たものである。長期処遇と短期処遇の再犯率については,前述したので,ここでは長期処遇を細分した処遇課程別に検討してみる。まず,男子について見ると,職業訓練課程(46.7%),生活指導課程(45.9%),特殊教育課程(44.6%)が高く,教科教育課程(29.9%),医療措置課程(25.5%)が前者に比べて低い。次に,女子について見ると,特殊教育課程(41.7%),生活指導課程(33.3%),医療措置課程(25.0%),教科教育課程(23.8%)と,男子に比べ各課程とも低くなっている。
同表により,長期処遇の男女別の再犯期間を見ると,男子は出院後6月以内の再犯率は極めて高く,1年以内では28.6%にもなっているのに対し,女子は出院後1年以内の再犯率が15.4%と比較的低く,むしろ1年を過ぎてからの再犯が多くなっている。
(2) 少年院の種別別
IV-29表は,少年院の種別別に,出院後3年以内の再犯状況を見たものである。まず,男子の再犯率を見ると,特別少年院が64.8%と最も高く,以下,中等少年院36.7%,初等少年院32.1%,医療少年院30.1%の順となっている。次に,女子について見ると,特別少年院50.0%,中等少年院28.8%,医療少年院28.6%,初等少年院20.8%の順となっており,各種別とも,女子は男子より再犯率は低い。
IV-29表 昭和55年少年院出院者の種別別再犯率及び再犯期間
同表により,再犯期間について見ると,ここでも男子は,いずれも出院後6月以内の再犯率が極めて高いのに対し,女子は,6月以内の再犯率が比較的低く,むしろ1年を超えてからの再犯が多くなっており,再犯速度の遅い傾向が見受けられる。
(3) 非行名別
IV-30表は,非行名別に,出院後3年以内の再犯状況を見たものである。なお,非行名によっては,調査対象者数が少ないものもあるので,数字によって傾向を指摘できるのは,特定のものに限られる。
まず,男子の再犯率を見ると,住居侵入52.2%,覚せい剤取締法違反49.5%,詐欺47.6%,窃盗43.6%,毒物及び劇物取締法違反38.3%などとなっており,財産犯や薬物犯罪が,成人の場合と同様に,再犯傾向の強い罪種となっている。次いで再犯率の高いのは,恐喝37.7%,暴行35.3%,傷害34.1%などの粗暴犯である。逆に,再犯率の低いのは,強制猥褻等の5.6%,殺人の17.4%などである。
次に,女子の非行名別再犯率を見ると,毒物及び劇物取締法違反33.3%,窃盗32.7%,傷害30.8%,虞犯30.1%,恐喝25.0%,覚せい剤取締法違反22.4%,強盗14.3%となっている。女子は男子に比べて再犯率は低いが,男子と同様に,財産犯,薬物犯罪及び粗暴犯で高く,凶悪犯で低くなっている。
同表により,非行名別の再犯期間を見ると,男子では出院後6月以内が最高となっているのは,窃盗(19.5%),詐欺(19.0%),住居侵入(17.4%)などで,出院後比較的早期に再犯する危険性を示している。
IV-31表は,上記再犯者について,非行名別に再犯罪名を見たものである。同一罪名再犯について見ると,男子では窃盗54.7%,覚せい剤取締法違反39.1%が高く,女子では覚せい剤取締法違反76.5%,窃盗58.8%が高い。ここでも成人と同様に,財産犯と薬物犯罪は,同一罪名再犯の傾向があることを示している。
IV-30表 昭和55年少年院出院者の非行名別再犯率及び再犯期間
IV-31表 昭和55年少年院出院者の非行名・再犯罪名別構成比
(4) 再入状況の推移
法務総合研究所では,昭和49年の少年院出院者について今回の特別調査と同じ出院後3年以内の成行き調査を実施しているので,この両者を比較し,その推移を見たのがIV-32表である。戦後,世相の混乱が続き少年院も著しい過剰収容の状態が続いたが,42年からは減少傾向となり,ここで取り上げた49年は1日平均収容人員が2,515人となり,最低を示した時期である。50年からは再び増加傾向となり,55年の1日平均収容人員は,3,509人と増加した。また,52年6月以降少年院の運営改善の施策が正式に実施され,55年はそれが軌道にのってきた時期でもある。
IV-32表 少年院出院者の成行き
まず,総数で見ると,昭和49年の出院者では2,179人中384人が再入し,再入率は17.6%となっている。55年の出院者では,4,000人中733人が再入し,再入率は18.3%で,49年に比べて0.7ポイント増となっている。しかし,55年の仮退院者の再入率について見ると,49年に比べて0.9ポイントの減となっている。
(5) まとめ
以上のとおり,少年院出院者においては,前述した成人の仮釈放者及び満期釈放者よりも,再犯率は低く,少年であるがために改善更生の可能性が大きいことを示している。しかしながら,在院少年には資質や環境面で大きな負因な持つ者が少なくないところから,矯正と更生保護の両機関が密接な連携を保って,一貫性ある処遇を行うとともに,広く市民の協力と援助を得て,再犯防止のための諸施策を,積極的に推進する必要がある。