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 昭和59年版 犯罪白書 第1編/第2章/第1節/4 

4 殺人事犯暴力団関係受刑者の特質

 法務総合研究所では,暴力犯罪のうち,殺人,強盗及び強姦について特別調査を実施し,昭和58年版犯罪白書において,その概要を紹介した(同書第2編第2章最近の暴力犯罪及び犯罪者の特質第1節ないし第4節参照)。これらの調査対象者のうち,殺人罪で57年中に判決が確定し,58年10月末日現在受刑中の者157人について,引き続き調査を実施したが,I-25表は,この調査結果のうち,特に,暴力団関係者(本調査では,交際のあった者も含む。以下「関係者」という。),の特質を,暴力団関係のない者(以下「一般の者」という。)との比較において,示したものである。
 共犯者の有無について見ると,共犯事件が,一般の者では6.9%にすぎないのに対し,関係者では52.9%と過半数を占め,組織的な犯行の多いことを示唆している。
 初発非行・犯罪年齢については,一般の者の78.2%が本件初発又は成人になってからの犯罪であるのに対し,関係者の62.9%は少年時からの早発性犯罪者である。しかも,本調査結果によれば,関係者では,初発非行・犯罪も凶悪・粗暴犯から始まっている者が47.8%と最も多い上,54.3%の者が保護観察又は少年院送致の保護処分歴を有している (一般の者では13.8%)。入所度数についても,一般の者の79.3%が初人者であるのに対し,関係者については65.7%が再入者であるなど,犯罪性の進んだ者が目立っている。

I-24表 暴力団関係者の罪名別起訴率及び起訴猶予率(昭和58年)

I-25表 殺人事犯受刑者の意識等の状況

 職業の有無については,一般の者では72.4%が有職者であるのに対し,関係者では無職者が58.6%と過半数を占めている。また,犯行前2,3年間の就業状態も,関係者では不安定な者が多い。それにもかかわらず,経済状態について見ると,関係者の75.7%の者が普通以上であり,暴力団の非合法な収入源によって生活していた者が多いことを窺わせる。
 事件当時の悩み事の有無について見ると,悩みがあったとする者は,一般の者では77.0%であるのに対し,関係者では52,9%と少ない。しかも,それらの悩みと事件との関連について,「結び付きがあったと思う」とする者は,一般の者では悩みがあったとする者のうちの74.6%であるのに対し,関係者では45.9%と少ない。これらのことは,関係者の場合,一般の犯罪者に比べて,犯罪に至った原因と悩み事とが関連する者が少ないことを示すとともに,特に,安易に事犯を引き起こす暴力団関係者の悪質な生活態度の一端を窺わせる。
 犯行に対する意識について見ると,犯行の直後「後悔した」と答えている者は,一般の者では82.8%であるのに対し,関係者では55.7%と約半数にとどまり,15.7%の者は「後悔しない」としている。また,事件を起こしたことについて「どうしであんなことをしたか分からない」としている者は,一般の者では66.7%であるのに対し,関係者では28.6%と低い比率になっている。
 犯行の認否については,裁判で犯行を「すすんで認めた」とする者は,一般の者では86.2%に上るのに対し,関係者では67.1%にとどまり,また,「認めなかった」とする者は,一般の者の4.6%に対し,関係者では15.7%となっており,暴力団関係者のしたたかさと組織防衛の背景を窺わせる。
 刑務所内での生活状況について見ると,所内規律の遵守については,一般の者の94.2%が普通又は良好であるのに対し,関係者の42.9%が不良であり,また,関係者の52.9%が刑務所内において更に傷害,暴行の事犯を累行している。
 出所後の就職について見ると,「心配ない」とする者は,一般の者では46.0%であるのに対し,関係者では65.7%の多数に上り,暴力団の組織に帰属している限り出所後の職業を心配する必要がないと考えている者が多いことを窺わせる。
 以上の結果は,いずれも組織的な職業的犯罪者集団としての暴力団の悪質な一面を如実に物語っているものと言えよう。