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 昭和58年版 犯罪白書 第2編/第4章/第3節/1 

第3節 ドイツ連邦共和国

1 概  観

 ドイツ連邦共和国では,警察統計上,殺人(Mordund Totschlag),強姦(Vergewaltigung),強盗(Raub),危険・重傷害(gefahrliche und schwere Korperverletzung)及び人質罪(Geiselnahme)を暴力犯罪としているが,ここでは,上記から人質罪を除き,単純傷害を加えたものを暴力犯罪として見ることとする。
 第二次世界大戦後のこれらの暴力犯罪の認知件数の推移を見ると,罪名別では若干の起伏が認められるものの,暴力犯罪全体ではほぼ一貫して増加順向にある。
 II-73表は,最近5年間における暴力犯罪の認知件数を見たものである。1977年の認知件数を100とする指数で見ると,1981年には,全犯罪(交通犯罪及び国家保護犯罪を除く。以下同じ。)が124であるのに比べ,暴力犯罪全体では136と増加している。罪名別では,殺人113,強姦103,強盗130及び傷害139であり,傷害及び強盗の増加が顕著である。人口10万人当たりの認知件数の比率,いわゆる犯罪発生率の推移で見ると,暴力犯罪全体及び各罪名とも上昇傾向にあり,1981年には,暴力犯罪全体で361.2と1977年の1.35倍に達しており,この面からも暴力犯罪の実質的な増加がうかがえる。また,暴力犯罪の全犯罪に占める比率もおおむね上昇傾向にあり,1981年には5.5%に達している。
 次に,ドイツ連邦共和国では,銃器の所持及び使用は,銃器法(Waffengesetz)に基づいて警察による所持許可証及び銃器登録証の交付が必要とされているが,暴力犯罪における銃器の使用件数は,近年,暴力犯罪の認知件数の増加に伴って増加している。

II-73表 暴力犯罪の認知件数ドイツ連邦共和国(1977年〜81年)

 II-74表は,1981年の暴力犯罪における銃器使用状況を示したものである。暴力犯罪全体では3.1%に当たる事件において銃器が使用されており,罪名別では,殺人で13.9%,強盗で11.4%と比較的高い比率で使用されている。特に,近年多発傾向にある銀行及び郵便局を対象とした金融機関強盗における銃器使用の比率は極めて高く,1981年では72.3%に達している。
 また,最近における暴力犯罪の発生地域については,わずかながら中小都市での増加が見られるものの,全体的には大きな変化は見受けられない。
 1981年において,暴力犯罪の3割強は人口50万人以上の大都市で発生している。
 以上から,暴力犯罪全体でも,また,各罪名においても量的な増加傾向が認められる上,依然,銃器使用事犯などの凶悪事犯が跡を絶たないなど,ドイツ連邦共和国における暴力犯罪の動向には,なお楽観を許さぬものがあるように見受けられる。

II-74表 銃器の使用状況ドイツ連邦共和国(1981年)

 ドイツ連邦共和国では,最近,我が国の暴力団に類似した組織犯罪者集団による犯罪の増加現象が見られるに至り,連邦政府は,これらの新しい組織犯罪を重大犯罪として位置づけ,その取締りや立法上の対策などについて検討をはじめている。