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1 エレベーター利用犯罪 我が国における産業,経済の発展は,都市への人口,生産,消費等の集中を泥したが,我が国の国土が狭小であるため,必然的に都市部における土地の効率的利用,すなわち,建物の高層化をはじめ,最大限の空間利用が要請されるに至った。その結果,周囲の視線が届きにくい密室型の空間を無数に生み出し,犯罪を誘発する機会を作り出すことになる。これに加えて,犯人検挙の上で障害となる近隣への不干渉や他人への無関心などの風潮が,これらの密室型犯罪の発生を助長しているようにうかがえる。この密室型犯罪の典型的な例が最近多発しているエレベーターの密室状態を利用した暴力犯罪である。
II-28表 エレベーター利用犯罪の認知・検挙件数及び検挙率(昭和56年,57年) II-28表は,昭和56年及び57年におけるエレベーター利用犯罪の認知件数,検挙件数及び検挙率等を示したものである。罪名を強盗,強姦及び強制わいせつに限り,57年の認知件数を前年と比較すると,総数では26件(36.6%)も増加している。57年の認知件数について発生地域を見ると,主として東京,福岡,兵庫,神奈川,千葉など,各都県の都市部に集中しており,いわゆる都市型犯罪の特徴を示している。昭和57年の検挙率は,強制わいせつを除き前年より上昇し,強盗が43.8%,強姦が50.0%,強制わいせつが30.1%となっている。ところで,57年における各罪名の全体の検挙率は,強盗74.8%,強姦89.4%,強制わいせつ77.8%,傷害93.9%,恐喝85.3%となっており,エレベーター利用犯罪の検挙率は,いずれもこれを著しく下回っている。これは,この種事犯が被害者とほとんど無関係な犯人による犯行(107件中,犯人と被害者の間に面識があったのは1件のみ。)である上,目撃者も少なく,また,他人に対する無関心の風潮も手伝い,犯人の特定が難しく,検挙率が低くなったものと思われる。 発生の時間帯を見ると,II-29表のとおりであり,午後2時から同6時までの小中学生の下校時間帯に27.1%,午前0時から同4時までの飲食店従事者の帰宅時間帯に28.0%と多発している。 II-29表 エレベーター利用犯罪の時間帯別発生件数 II-30表 エレベーター利用犯罪犯人の属性別構成比(昭和57年) 凶器の使用状況を見ると,107件中凶器が使用された事犯は35件(32.7%)で,使用凶器は,果物ナイフ,カッターナイフ等のナイフ類が27件と著しく多い。ちなみに,昭和57年における全検挙件数に占める凶器使用の比率を罪名別に見ると,強盗55.5%,強姦13.5%,傷害24.2%,恐喝4.8%となっており,また,4罪名を総合した凶器使用比率では19.9%である。これから見て,エレベーター利用犯罪において凶器が使用される比率は比較的高い。昭和57年にエレベーター利用犯罪で検挙された犯人28人は,全員男子であるが,その属性を見ると,II-30表のとおりである。年齢層別では,若年層が多く,25歳未満が50.0%を占めている。職業の有無では,有職が57.1%,無職が17.9%,学生・生徒が25.0%である。前科・前歴の有無では,28人中8人(28.6%)に前科・前歴がある。 昭和57年における被害者の属性を見ると,107人中103人(96.3%)が女子である。被害者の82.2%がエレベーターの設置されている建物の居住者である。被害者を職業別に見ると,小学生以下が41人(38.3%)と最も多く,次いで,飲食店従事者が29人(27.1%)となっている。 II-31表 保険金目的の殺人事件の検挙件数等(昭和48年〜57年) |