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 昭和57年版 犯罪白書 第1編/第3章/第2節/3 

3 精神障害者の犯罪の特色

(1) 心神喪失者・心神耗弱者の犯罪
 法務総合研究所では,法務省刑事局が精神障害のある犯罪者の実態を知るために調査収集した被疑者1,413人(昭和54年1月1日から56年6月30日までの2年6か月の間に全国の地方・区検察庁で不起訴処分に付された被疑者のうち,犯行時に心神喪失と認められた者及び55年7月1日から56年6月30日までの1年間に心神耗弱と認められて起訴猶予となった者)及び被告人314人(54年1月1日から56年6月30日までの間に第一審裁判所で心神喪失が認定され無罪となった者及び心神耗弱が認定されて刑の減軽がなされた者)の合計1,727人についての資料を分析した。
ア 罪名・精神障害名
 I-79表は,上記対象者の罪名と精神障害名との関係を見たものである。精神障害名別では,精神分裂病が55.5%で最も多く,以下,アルコール中毒の12.9%,そううつ病の6.9%,覚せい剤中毒の5.8%の順となっている。罪名別では,殺人が27.1%で最も多く,以下,放火の17.4%,傷害の12.4%の順となっている。罪名と精神障害名の関係について見ると,精神分裂病は,強盗の47.5%以外はいずれも50%以上であり,殺人で56.8%,傷害で58.6%,強姦・強制わいせつで59.6%,放火で51.2%を占めている。

I-80表 生命・身体犯罪名別被害者(昭和54年1月〜56年6月の累計)

イ 犯罪の被害者
 I-80表は,上記対象者の事件のうち,生命・身体犯の加害者と被害者の関係を見たものである。ここでは1人の加害者が二つ以上の生命・身体犯の罪名を持つ場合には,その各々について計上している。殺人について見ると,被害者の73.0%は加害者の親族であるが,無関係の者も45人(8.9%)が被害を受けており,いわゆる通り魔的な事件がかなり発生していることを示している。なお,強盗,暴行及び強姦・強制わいせつでは,無関係の者が被害を受ける比率が高く,いずれも80%を超えている。

I-81表 罪名別処分結果(昭和54年1月〜56年6月の累計)

I-82表 精神障害名別処分結果(昭和54年1月〜56年6月の累計)

ウ 処分結果
 I-81表及びI-82表は,上記対象者について,罪名別及び精神障害名別に処分結果を見たものである。総数では,不起訴処分に付された者が81.8%に当たる1,413人,裁判において,心神喪失により無罪を言い渡された者が46人(2.7%),有罪ではあるが,心神耗弱が認定された者が268人(15.5%)となっている。
 不起訴人員中,心神喪失により不起訴処分に付された者の比率を見ると,総数では75.7%であるが,罪名別では,殺人が99.5%,傷害致死が95.0%,放火が92.1%などとなっている。なお,I-81表に掲げた6罪種の合計と「その他」とを比べても,前者が90.4%であるのに対し,後者は46.4%にすぎない。
エ 本件罪名と直近前科・前歴の罪名
 I-83表は,上記対象者について,前科・前歴を有する770人中,直近前科・前歴の事件の際に精神障害が認められた184人について,本件罪名と直近前科・前歴の罪名との関係を見たものである。本件罪名と直近前科・前歴の罪名が同じ者は,殺人で23人中7人(30.4%),傷害で26人中9人(34.6%),強姦・強制わいせつで6人中2人(33.3%),放火で23人中9人(39.1%)となっている。なお,他人の生命・身体に対して危害を加えるおそれのある犯罪(殺人,傷害及び同致死)全体について,本件罪名と直近前科・前歴罪名の合致状況を見ると,51人中28人(54.9%)が合致している。

I-83表 本件罪名と直近前科・前歴罪名との関係(昭和54年1月〜56年6月の累計)

オ 精神衛生法による取扱い状況
 精神衛生法第25条は,「検察官は,精神障害者又はその疑いのある被疑者又は被告人について,不起訴処分をしたとき,裁判(懲役,禁錮又は拘留の刑を言い渡し執行猶予の言渡しをしない裁判を除く。)が確定したとき,その他特に必要があると認めたときは,すみやかに,その旨を都道府県知事に通報しなければならない。」と規定している。

I-84表 犯行後の治療状況(罪名別)(昭和54年1月〜56年6月の累計)

I-85表 犯行後の治療状況(精神障害名別)(昭和54年1月〜56年6月の累計)

 I-84表及びI-85表は,上記対象者のその後の治療状況を罪名別及び精神障害名別に見たものである。罪名別に見ると,措置入院となった者は,殺人で60.3%,強盗で53.8%,傷害で54.4%,放火で51.5%であり,残りの約40%ないし50%の者は,措置入院となっていない。また,犯行後,全く治療を受けていない者が,殺人で26人(5.6%),放火で25人(8.3%),傷害で19人(8.8%),強盗で8人(10.0%)いる。次に,精神障害名別に見ると,措置入院となった者は,精神分裂病で60.2%,そううつ病で41.7%,てんかんで43.8%,アルコール中毒で35.6%,覚せい剤中毒で28.0%などとなっている。
カ 犯行時の治療状況
 I-86表は,上記対象者について,犯行時における治療状況を罪名別に見たものである。総数では,治療状況の不明な者211人を除く1,516人中,犯行時に治療中であった者は27.6%(418人),通退院後治療を受けていない者が28.1%(426人),無断離院して治療を受けていない者が2.8%(42人)となっている。このように,犯罪を行った上記対象者1,516人中,58.4%(886人)が治療歴を有しており,そのうち,犯行時において現に精神障害が認められながら治療を受けていない者(「通退院後治療なし」及び「無断離院後治療なし」)が468人(52.8%)に上っている。これを殺人について見ると,不明を除く429人中,治療歴のある者は57.6%(247人)で,そのうち,犯行時において治療を受けていない者が93人(37.7%),放火について見ると,不明を除く272人中,治療歴のある者が52.9%(144人)で,そのうち,犯行時において治療を受けていない者が78人(54.2%)となっている。

I-86表 犯行時の治療状況(罪名別)(昭和54年1月〜56年6月の累計)

I-87表 犯行時の治療状況(精神障害名別)(昭和54年1月〜56年6月の累計)

 次に,重大犯罪(殺人,強盗,傷害,傷害致死,強姦・強制わいせつ及び放火)を犯した1,155人について,犯行時の治療状況を精神障害名別に見ると,I-87表のとおりである。総数では,犯行時の治療状況の不明の者120人を除く1,035人中,犯行時に治療中であった者は29.5%(305人),通退院後治療を受けていない者が24.3%(251人),無断離院して治療を受けていない者が2.1%(22人)となっている。精神障害名別に見ると,精神分裂病では,不明を除く575人中,治療歴のある者が67.7%(389人)で,そのうち,犯行時において治療を受けていない者が45.0%(175人),アルコール中毒では,不明を除く123人中,治療歴のある者が44.7%(55人)で,そのうち,犯行時において治療を受けていない者が72.7%(40人)となっている。

I-88表 精神障害名別入院歴(昭和54年1月〜56年6月の累計)

キ 入院歴・措置入院期間・出院時の病状・出院から犯行までの期間
 I-88表は,上記対象者中,重大犯罪を犯した1,155人について,精神障害名別に入院歴の有無を見たものである。総数で見ると,入院歴のある者が579人(50.1%),入院歴のない者が558人(48.3%),入院歴の有無が不明の者18人(1.6%)となっている。入院歴のある者について,精神障害名別に入院歴の比率を見ると,精神分裂病が62.2%,そううつ病が34.8%,てんかんが40.0%,アルコール中毒が46.5%などとなっている。また,入院歴のある者のうち,措置入院歴のある者は総数で82人であるが,そのうちの78.0%(64人)は精神分裂病である。措置入院の回数について見ると,82人中,1回の者が57人,2回の者が17人,3回以上の者が8人となっており,延べ回数は115回となっている。

I-89表 措置入院歴者の措置入院期間(昭和54年1月〜56年6月の累計)

I-90表 入院歴者の直近退院時における病状(罪名別)(昭和54年1月〜56年6月の累計)

I-91表 入院歴者の直近退院時から犯行時までの期間(昭和54年1月〜56年6月の累計)

 I-89表は,措置入院歴を有する82人,延べ回数115回について,措置入院の期間を精神障害名別に見たものである。総数で見ると,6月以下が46.1%(53回)で最も多く,次いで,1年を超え3年以下が27.0%(31回)などとなっており,約半数が入院後6月以内に入院措置を解除されており,1年以内に入院措置を解除された者が6割を超えている。精神障害名別に見ると,入院後1年以内に入院措置が解除された者は,精神分裂病で59.8%,アルコール中毒で90.0%などとなっている。
 I-90表及びI-91表は,入院歴のある者のうち,本件犯行前に退院した802人について,直近退院時における病状及び直近退院時から本件犯行までの期間を,罪名別に措置入院とその他の入院とに分けて見たものである。直近退院時の病状について,総数で見ると,措置入院では,不明を除く79人中,17人(21.5%)が,その他の入院では,不明を除く474人中,125人(26.4%)が未治癒で出院している。同様の方法で罪名別に未治癒で出院した者の比率を見ると,殺人の措置入院では18.8%,その他の入院では25.6%,強盗の措置入院では66.7%,その他の入院では30.4%,強姦・強制わいせつの措置入院では66.7%,その他の入院では47.1%,放火の措置入院では22.2%,その他の入院では21.8%などとなっている。次に,直近出院から本件犯行までの期間を見ると,措置入院の総数では,6月以下が45.6%,6月を超え1年以下が14.6%,その他の入院では,6月以下が34.3%,6月を超え1年以下が15.9%であり,措置入院では,約6割が,その他の入院では約5割が出院後1年以内に精神障害に起因する犯罪を犯している。罪名別に出院後1年以内に本件犯行を犯している者の比率を見ると,殺人の措置入院では60.0%,その他の入院では46.7%,放火の措置入院では60.0%,その他の入院では50.4%などとなっている。
 このように,未治癒で出院している者が2割を超えていることに加え,出院後1年以内に犯行に及んでいる者が5割を超えていることは,犯罪防止の面から見ると,出院の当否あるいは出院後の医療・保護などに問題があるように思われ,これらについて,効果的な方策を講ずる必要性が痛感させられる。

I-92表 矯正施設収容中の精神障害者(昭和55年,56年各12月20日現在)

(2) 矯正施設における精神障害者
 I-92表は,昭和55年及び56年の各12月20日現在の刑務所及び少年院における精神に障害のある収容者数を見たものである。56年における精神障害者数は,刑務所で3,638人,少年院で232人であり,いずれも前年より増加している。収容人員に対する比率は,前者が8.9%,後者が5.8%となっており,刑務所における比率が前年よりやや増加し,少年院ではやや減少している。
 I-93表は,昭和56年における新受刑者のうち,精神診断結果の不詳な315人を除く3万21人について,精神診断名と罪名の関係を見たものである。精神障害のない者は2万8,654人(95.4%)で,精神障害のある者は1,367人(4.6%)である。精神障害名別に見ると,精神薄弱が761人,精神病質293人,神経症81人,その他の精神障害232人となっている。各罪名について精神障害のある者の比率を見ると,放火で12.6%と最も高く,以下,窃盗(7.6%),詐欺(7.3%),強盗(7.1%),強姦・強制わいせつ(6.5%),殺人(6.3%)の順となっている。

I-93表 新受刑者の罪名別精神診断(昭和56年)