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 昭和56年版 犯罪白書 第4編/第3章/第2節/2 

2 少年司法制度

 アメリカの少年司法制度は,50の州丸びコロンビア特別区(首都ワシントン市)ごとに区々であるが,少年裁判所(又は家庭裁判所)を中心とする少年司法に共通する特色は,[1]犯罪に対する応報ではなく,少年の再社会化を重視する理念,[2]少年裁判所は,犯罪少年(delinquent)だけでなく,虞犯少年(status offender,怠学,不良交友,親の監督に服さないなど,成人であれば犯罪を構成しない問題行動を行う少年)及び放任少年(dependent andneglected youth,親から虐待される少年,保護・監督能力のない家庭の少年など)に対しても管轄権をもつ(いわゆる「国親思想」による。)こと,[3]少年に対して「処罰」よりも「処遇」を重視する理念に基づき,少年審判手続では,刑事裁判におけるような手続上の厳格性(対審構造,証拠法則など)はあまり顧慮されず,むしろ非公式かつ柔軟な審判が少年に適するものとされ,他方,処遇(処分)については,少年の資質・環境に関する科学的鑑別に基づき,個別的かつ多様な処遇方法がとられること,という3点に要約されよう。
 司法省の資料(全国少年司法評価センター報告書,1980年)によると,少年裁判所の犯罪少年に対する管轄権は,51州(コロンビア特別区も州として数える。)のうち,犯時18歳未満が39州,17歳未満が8州,16歳未満が4州である。なお,下限は7歳(コモンロー上の刑事責任年齢)とする州が47州,10歳とする州が4州である。このような年齢層の犯罪少年について,多くの州では,少年裁判所が専属管轄権をもっているが(41州。他の10州では,殺人,強姦など一定の重大犯罪を犯した少年については,通常の刑事裁判所が少年裁判所とともに共同管轄権(concurrent jurisdiction)をもっている。共同管轄権の場合は,通常,検察官の決定により刑事裁判所へ訴追される。),その場合でも一定の重罪を犯した少年等については,少年裁判所が管轄権を放棄して刑事裁判所へ移送し(waiver,transfer),成人と同様に刑事訴追を行う手続が定められている(なお,この手続をもつ48州のうち38州は移送手続に年齢上の制限を設けており,移送できる少年を16歳以上とするのが15州,15歳以上とするのが9州,14歳以上とするのが12州,13歳以上とするのが2州である。)。
 警察による逮捕後の送致,被害者の告発などによって少年裁判所に係属した事件は,一般に,少年裁判所に所属する保護観察官(probation officer)で構成される「受理部」(intake unit)によって,観護措置(detention,一種の勾留)に関する決定がなされ,調査・鑑別の上,公式の審判手続(犯罪の審理と処分)に移行する事件と非公式の処分(いわゆるダイバージョン(diversion)としての福祉機関への引渡しなど)に委ねられる事件に選別される。公式の審判手続は,一般に,受理部の「審判申立」(filing a petition,一種の起訴)によって行われるが,コロンビア特別区のように,検察官が審判申立を行うところもある。審判手続は,一般に,事実認定手続と処分手続に分かれ,犯罪(非行)事実が「認定」(adjudication)されると,「処分」(disposition)がなされる。処分は,少年院(training school)への収容,農場・森林キャンプ等の開放的作業施設への収容,精神病院への収容,保護観察(probation)等多様な種類があり,また,カリフォルニア州のように,青少年局(Youth Authority,一種の行政委員会)への処遇委託を行う州もある。