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 昭和56年版 犯罪白書 第3編/第2章/第3節/1 

1 分類処遇

 受刑者の改善更生及び社会復帰を図るため,個々の受刑者の持つ人格特性及び環境的・社会的諸問題に対応して処遇を行う必要がある。そのための科学的調査を分類調査と言い,それに基づいて処遇計画を立て,その計画を効果的に実施するための集団を形成して,各集団に応じた有効な処遇を行うことが分類処遇である。
(1) 分類調査
 新たに刑が確定し,刑務所に入所した受刑者に対しては,入所時教育と並行して,分類調査が行われる。この分類調査は,個々の受刑者について,最もふさわしい処遇を行うために必要な事項を明らかにして,適切な処遇計画を立てようとするもので,施設機能の有効な発揮と受刑者の改善及び社会復帰の促進に欠くことのできないものである。
 分類調査は,[1]医学,心理学,教育学,社会学等の専門的知識及び技術に基づき,[2]入所時調査(刑確定による入所後,おおむね2か月以内に行われる調査)及び再調査(入所時調査後,執行刑期8月未満の者についてはおおむね2月ごと,その他の者についてはおおむね6月ごとに定期的に行う調査,又は必要の都度臨時に行う調査)として行われ,[3]必要と認めるときは,心情相談,心理療法,オリエンテーションその他の適当な措置も併せ行われている。調査の結果は総合されて,分類級(収容分類級及び処遇分類級)の決定,作業・教育・保安等の処遇指針の決定,移送の実施,累進の審査,仮釈放申請の審査,釈放に伴う必要な措置等,収容及び処遇の実施に役立てられている。

III-3図 受刑者分類級(昭和56年6月1日現在)

 分類調査及び分類処遇体制を充実する施策の一環として,全国各矯正管区ごとに分類センターの機能を営む施設(中野,名古屋,広島,福岡,宮城,札幌,高松の各刑務所及び大阪拘置所)が指定されている。分類センターでは,新たに刑が確定した受刑者のうち,一定基準(執行刑期が1年以上で,かつ,施設において刑の執行を受けたことのない26歳未満の男子)に該当する者すべてを集めて,約2か月間収容し,精密な入所時調査を行い,入所時調査を終了した者をその者の収容分類級に該当する処遇施設へ移送するほか,他の処遇施設で処遇中,精神状況又は行動の異常性が著しいため再調査を必要と認めた受刑者を収容し,精密調査及び治療的処遇を実施している。更に,他の施設に対して,受刑者の分類に関する助言・指導,研修及び研究の援助・協力等を行っている。

III-45表 受刑者の収容・処遇分類級別構成比(昭和53年〜55年各12月31日現在)

(2) 分類処遇
 受刑者は,分類調査の結果に基づいて,収容分類級(収容する施設又は施設内の区画を区別する基準となる分類級)及び処遇分類級(処遇の重点方針を区別する分類級)に判定される。収容分類級は,10種で,その分類基準は,性別,国籍,刑名,年齢,刑期,犯罪傾向の進度,心身の障害の有無などに置かれている。また,処遇分類級は,7種で,その分類基準は,重点とする処遇内容に置かれている。III-3図は,分類級別符号及び内容を示したものである。
 これらの分類級については,それぞれの級別に対応した処遇を推進するため,処遇基準が定められ,受刑者の処遇は,分類級別ごとの処遇重点事項に基づいて行われる。
 III-45表は,最近3か年の各年末における収容分類級及び処遇分類級の構成比を示すものである。昭和55年末の収容分類級では,B級受刑者が55.0%を占めており,この比率は年々増加している。このほか,54年末に比べて,L級及びW級の構成比がわずかに増加しており,A級及びY級の構成比が減少している。また,処遇分類級の構成比は,大きな変動はなく,55年末では,G級が最も多く62.6%を占め,以下,N級,S級,V級の順になっている。
(3) 開放的処遇
 受刑者に対する分類処遇の進展に伴って,新しい処遇方法が開発されてきている。その中の一つである開放的処遇は,受刑者の拘禁を確保するための物理的・有形的な設備及び措置を緩和し,受刑者の自律心及び責任感に対する信頼を基礎とする処遇制度である。この開放的処遇の必要性及び有用性は,1955年の犯罪防止及び犯罪者の処遇に関する第1回国連会議で議決された「被拘禁者処遇最低基準規則」にも盛り込まれており,世界各国において著しい展開を見せている。
 我が国の開放的処遇は,交通事犯禁錮受刑者が急増した昭和30年代半ばから,その集禁と特別の処遇方法によって本格的に実施されるようになった。当初は,豊橋刑務支所(36年開始),習志野刑務支所(38年開始,後に市原刑務所として独立),加古川刑務所(38年開始)などの施設で行われたが,現在では,これら3施設のほか,大分刑務所,山形刑務所,函館少年刑務所,尾道刑務支所及び西条刑務支所の5施設でも行われている。このうち市原刑務所,加古川刑務所及び西条刑務支所においては,開放的処遇に適する交通事犯懲役受刑者についても集禁し,開放的処遇を実施している(集禁基準及び処遇内容については,本節8「交通犯罪受刑者の処遇」参照)。このほか,一般の懲役受刑者に対する開放的施設として,45年に喜連川刑務支所が開設され,農業及び土木の職業訓練を中心に開放的処遇が実施されている。
 これらの開放的施設では,居室,食堂,工場等には原則として施錠せず,行刑区域内では戒護者を付けず,面会もなるべく立会者なしで行わせており,他方,生活指導,職業訓練等社会復帰に必要な教育的処遇を積極的に実施している。また,開放的処遇には,B級受刑者を含めた受刑者一般を対象とする構外作業場における処遇がある。構外作業場は,半開放的処遇を行う場として重要な役割を果たしており,受刑者の自立心を育成するとともに,外部の社会的資源を活用し,職業上の免許・資格の取得に資している。