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 昭和55年版 犯罪白書 第4編/第4章/第2節/5 

5 スウェーデン王国

(1) 犯罪の概観
 IV-38図は,1950年以降における刑法犯発生件数の推移を見たものである。1978年の刑法犯発生件数は68万3,646件(人口10万人当たりの発生率8,261)で,これは,前年よりも3万2,721件減少しているものの,1950年の発生件数16万1,778件の4.2倍に当たり,10年前の1968年に比べても1.4倍の上昇を示している。1978年における刑法犯発生件数のうち,財産犯(強盗,窃盗,詐欺,横領,毀棄,債務に関する罪等の刑法第8章から第12章に規定する罪)は90.0%に当たる61万5,392件であり,他方,人身犯(殺人,傷害,姦淫,誘拐,名誉毀損等の刑法第3章から第7章までに規定する罪)は,全刑法犯の6.8%に当たる4万6,183件である。

IV-38図 刑法犯発生件数の推移

 次に,1950年から1978年までの間における主要罪名の増加率を見ると,強盗の発生件数は,1978年が3,461件で1950年の18倍と最も高く,次いで毀棄の6万1,305件で,1950年の12倍となっている。
 刑法犯以外の犯罪で発生件数の多いものは道路交通法違反であるが,そのうち飲酒運転は,1978年は2万2,671件で,1950年以来最高の発生件数を示し,1950年の6.6倍に達している。
 次に,刑法犯の検挙率を見ると,1977年の発生件数71万6,367件のうち,同年中に検挙した比率(検挙率)は17%であり,1978年末までの検挙率を含めると23%(うち人身犯50%,財産犯20%)である。
 スウェーデン刑法は,1965年の施行時には,制裁(PAf61jd)の種類として,罰金,拘禁刑,条件付判決,保護観察,少年拘禁刑,保安拘禁,特別保護への委託及び公務員・軍人の懲戒罰の8種があったが,そのうち,公務員の懲戒罰は1975年に,少年拘禁刑は1980年にそれぞれ廃止された。
 罰金は,通常,日数罰金で科せられ,日数は,犯罪の重さにしたがって1日以上120日以下で,1日分の金額は,被告人の経済状態を考慮し2クローナ以上500クローナ以下(1クローナは約50円)の金額で科される。
 拘禁刑(Fれngelse)は,1月以上10年以下の有期刑又は無期刑であるが,18歳未満の者には特別の事由がない限り科さないこととされている。また,刑期4月以上の有期刑に服している者は,刑期の3分の2を終えたとき(ただし,長期受刑者などの特別の場合は刑期の2分の1を終えたとき)に条件付きで釈放することができる。条件付釈放の期間は,本刑とは別に,1年以上5年以下の間で期間が定められ,その間,保護観察に付されるが,釈放時又はその後,保護観察の必要がないと認められた場合は,保護観察を行わない決定がなされる。
 条件付判決(V111kor11gdom)は,拘禁刑に当たる罪を犯し,かつ,保護観察に付する必要も認められない被告人に対して言い渡し,その後2年間の試験期間中に再犯又は遵守事項違反のない場合は,通常,それ以上の制裁は科さない。また,必要と認められる場合には,条件付判決に加え,日数罰金を科すほか,刑事損害賠償義務の履行を判決で命じることができる。
 保護観察は,拘禁刑に当たる罪を犯した者のうち,原則として18歳以上の者に言い渡され,その期間は3年とされているが,原則としてe年を経過したときは,特別の命令がなくても保護観察は終わる。また,再犯予防上必要な場合,裁判所は,1月以上2月未満の間で,期間を定めて施設内処遇を伴う保護観察を命じることもできる。なお,条件付判決又は保護観察の判決を受けた者は,上訴期間満了前に,判決を言い渡した裁判所,プロベーション局,矯正施設長又は拘置所長の前で,その判決に服する旨意思表示をすることができる。
 保安拘禁(Internering)は,刑期2年以上の拘禁刑に当たる罪を犯した者で,かつ,将来,重大な犯罪を犯すおそれのある者に言い渡す不定期間の制裁であり,裁判所は,1年以上12年以下の間で施設内処遇の短期を定めることとし,短期経過後,施設内処遇の必要がないと認められた場合は社会内処遇へ移し,その後5年を経過したときには,この制裁を終了することとしている。なお,保安拘禁制度は,現在廃止が検討されている。
 IV-39図IV-40図は,1965年以降における裁判結果人員を実数と1965年を100とした指数で図示したものである。これによると,罰金(略式裁判によるものを含む。)を受けた者は,1967年を頂点として急激な減少が見られるが,これは道路交通法違反に対して大幅に反則金制度が採用されたためであり,1976年以降の減少は,微罪に対する非犯罪化が行われたことに起因している。また,1978年における罰金の言渡しを受けた者の人員は,1965年の約半数に減少している。
 拘禁刑,少年拘禁刑及び保安拘禁を言い渡された者は,1978年には1万3,018人おり,1965年以降最高値を示しているが,これらの制裁のうち,拘禁刑は1965年の1.3倍であるのに対して,少年拘禁刑は約9分の1,保安拘禁は約5分の1とかなり減少している。

IV-39図 裁判結果別人員の推移

 保護観察の判決を受けた者は,1965年から1972年まではおおむね増加し,その後緩やかな減少傾向を示してはいるが,1975年は1965年の1.1倍で6,077人となっている。
 条件付判決は,1978年においては6,429人に対して言い渡され,1965年の約3倍に上っている。

IV-40図 裁判結果別人員の推移(指数)

 刑法第34条第1項第1号の規定は,1965年施行の現行法に新たに採用された制度である。この規定には,拘禁刑,条件付判決,保護観察,少年拘禁刑又は保安拘禁を宣告された者が,その判決に先立って余罪が明らかになった場合,又は判決後制裁が全部執行される以前に別の罪を犯した場合は,裁判所は,状況によって,先に科した制裁をそのまま余罪又は新たな犯罪にも適用することができることを定めている。すなわち,この規定が適用された者には,制裁の加重が行われないことになる。1978年には,4,710人がこの規定の適用を受けているが,その人員は1965年の4.3倍に上っている。
(2) 犯罪者の処遇
 司法省の下にある矯正保護庁(KriminalvArdsstyrelsen)は,犯罪者の施設内処遇と社会内処遇の全般にわたって統括する官庁であり,その組織はIV-41図のとおりである。

IV-41図矯正保護の組織

 矯正保護庁は,中央刑務所(Riksanstalt)と地方矯正保護管区を指揮監督し,全土に13箇所設けられている地方矯正保護管区は,管内の矯正保護行政の指揮監督,各地方刑務所への受刑者の分類収容事務及び矯正保護処遇対象者の各保護観察官事務所への移管事務を主に行う官庁である。1978年における職員数は,矯正保護庁に約350人,拘置所・刑務所に約4,200人,保護観察官事務所に約800人である。
 また,施設内処遇又は社会内処遇を実施する際の審査,決定を行う機関には,保安拘禁委員会,地方監督委員会及び矯正保護委員会がある。保安拘禁委員会は,保安拘禁の言渡しを受けた者の社会内処遇への移管又は再収容に関し,地方監督委員会は,刑期1年未満の拘禁刑受刑者の条件付釈放の許可・取消しに関し,また矯正保護委員会は,刑期1年以上の拘禁刑受刑者の条件付釈放の許可・取消し及び地方監督委員会の決定についての不服申立てに関し,それぞれ決定を行う。1979年1月1日現在,地方監督委員会は,保護観察官事務所1庁又は2庁に対応して置かれ,全部で48となっている。
 刑事施設数は,1979年1月1日現在,中央刑務所20(収容定員1,921人),拘置所21(収容定員1,087人),地方刑務所51(収容定員1,975人)である。
 中央刑務所では,閉鎖処遇を受ける者(収容定員1,348人)が多い。その主な対象者は,刑期1年以上の拘禁刑受刑者と保安拘禁の収容者であるが,そのほかに,本来,地方刑務所に分類収容すべき対象者のうち,中央刑務所以外の刑務所では受けられない特別な教育や医療を必要とする者,又は保安上地方刑務所の処遇に不適当な者をも収容している。
 地方刑務所の多くは,20人ないし60人程度の収容定員をもつ小施設であり,主に開放処遇を実施している。収容の主な対象者は,刑期1年未満の拘禁刑受刑者及び施設収容を伴う保護観察の言渡しを受けた者である。しかし,刑期1年以上の者や保安拘禁に付された者のうち,釈放前処遇を目的として,条件付釈放の資格を得る日を経過した者も帰住地に近い地方刑務所へ移送している。
 1965年から1978年までの刑事施設への入所人員は,IV-106表のとおりである。特徴的な点は,受刑者全体の中で拘禁刑を言い渡された者の比率が逐年上昇している点で,1978年は1965年に比べて12.9%増加しており,拘禁刑以外の施設内処遇対象者はいずれも減少している。
 拘禁刑の刑期別人員は,IV-107表のとおり,1978年では,刑期3月未満の者が新受刑者の61.0%(うち2月未満は44.7%)と過半数を占め,1年以上の者は11.3%にすぎない。なお,新受刑者の罪名別では,飲酒運転(33.7%),窃盗(17.7%),傷害(6.4%)の順である。
 施設内処遇のうち,帰休実施状況はIV-108表のとおり,1978年は4万1,974件であり,1965年より5倍も多くなっている。帰休中の遵守事項違反件数は,1978年は3,771件で,そのうち2,601件は施設への帰所日時に遅刻したものであり,他は,酩酊,薬物濫用,犯罪などの違反行為のあったものである。

IV-106表 収容者の入所事由別人員及び構成比

 保護観察官事務所は,1979年1月1日現在63あり,判決前調査を行う調査官,保護観察官,事務官等が配置されており,1人当たりの事件負担量は,1978年1月現在,平均33件である。また,社会内処遇において,直接,対象者の補導・援護に当たるのは,通常,民間人の保護司であるが,1979年1月1日現在,9,540人おり,一方,社会内処遇の対象者は約1万6,400人である。

IV-107表 新受刑者の刑期別人員及び構成比

IV-108表 刑務所の帰休件数及び帰休遵守事項違反件数

IV-109表 施設内処遇と社会内処遇対象者の1日平均人員

 保護観察官事務所の担当する主な業務内容は,判決前調査,保護観察及び施設内処遇を受けている者に対する保護調整であり,未決拘禁者も,本人の申出によって保護調整を受けることができる。また,保護観察の言渡しを受けた者には,監督担当者が指名されるが,その選定については,対象者に意見を述べる機会が与えられている。
 現在,スウェーデンの矯正保護政策の基本的態度は,犯罪者の社会復帰上,できるだけ自由の剥奪を伴う制裁を回避し,社会内処遇を大幅に推進することとされており,1965年以降の施設内処遇と社会内処遇の対象者の1日平均の人員は,IV-109表のとおり,未決拘禁者を除くと,80%以上の者が社会内処遇を受けていることが分かる。