第4節 国際的視野から見た累犯問題 各国の統計資料を取り扱うに当たって,最も困難な問題は,刑事司法制度,刑事実体法・手続法の内容,刑事手続の実際の運用などが国ごとに非常に異なっているという点である。殺人,強盗等の主要犯罪の国際比較においてすら,各国によって犯罪構成要件が異なり,また,統計上の分類方法が区々であるため,正確な比較は困難で,大体の傾向しかは握できないが,累犯に関する統計においては,統計資料自体が乏しいうえ,信頼し得る公的統計がある場合でも,各国の制度運用上の特質が統計上のデータに直接的な影響を及ぼすため,累犯現象について国際比較を行うことは極めて困難である。特に,累犯性の中心的な基準である前科の意義及び統計上の取扱いが問題であり,例えば,日本では,前科とは統計上,罰金以上の刑に処せられたことをいうが,道路交通法違反による罰金前科は,通常,前科から除外されており,また,少年時の保護処分は前科とされることはない。しかし,西ドイツでは道路交通法違反の軽罪による罰金は前科とされ,また,少年時の懲戒・教育処分歴も統計上,前科とされている。したがって,有罪人員中の前科者率という場合,前科者の範囲を規定する基準が両国で違っている。また,有罪人員の範囲についても同様である。西ドイツは,14歳以上21歳未満の少年及び青年に対して厳しい訴追主義を維持しているが,我が国では,14歳以上20歳未満の少年に対しては家裁処分主義により,例えば,昭和53年において業過を除く一般保護事件の88.6%は不開始・不処分となり,刑事処分相当として検察官に送致される者は0.4%にすぎないなどの事情から,少年の有罪人員は極めてわずかである。また,原則として起訴法定主義をとる西ドイツに対して,我が国では起訴便宜主義により,特に初犯者に対しては起訴猶予に付される場合が多い。欧米諸国の中で最も刑事司法制度が類似する西ドイツと対比しても,累犯統計上,このような違いがあるので,制度上の相違が一層大きな英米法系の諸国の累犯統計を見る場合には,更に慎重な配慮を必要とする。 以上のような問題点が存在することを前提としたうえで,各国における統計的に見た累犯の実態を要約して,我が国の累犯現象と対比して見ると,次の諸点を指摘することができる。
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