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 昭和54年版 犯罪白書 第1編/第3章/第3節/2 

2 再犯率等の年次別推移

  (1)初犯者の再犯率
 I-75表は,前記50万人の電算化犯歴対象者中,昭和31年以降20年間の各年次に初犯として有罪確定裁判を受けた者(ただし,当該年次に実刑裁判を受けた者を除き,これに代えて,初犯で実刑裁判を受けて服役し,当該年次に刑務所から出所した者とする。)について,裁判後又は出所後3年以内に再犯を犯した者の比率を,初犯時確定裁判の刑種・刑期・執行猶予の有無・保護観察の有無別に示したものである。31年の者については,全体の再犯率は24.1%であるが,拘留・科料に処せられた者の再犯率が14.4%と最も低く,罰金を科された者(18.5%)がこれに次ぎ,以下,刑期5年を超える実刑(以下,本節で「長期刑」という。)で服役後出所した者(21.1%),単純執行猶予に付された者(29.0%),刑期が1年を超え5年以下の実刑(以下,本節で「中期刑」という。)で服役後出所した者(38.4%),刑期1年以下の実刑(以下,本節で「短期刑」という。)で服役後出所した者(40.7%),保護観察付執行猶予に付された者(46.7%)の順となっている。
 その後の各再犯率の推移を見ると,いずれも全般的には低下してきており,昭和50年における再犯率を見ると,全体では12.5%と,31年当時の24.1%のほぼ半分である。再犯率の低い方から順次述べると,拘留・科料の場合の5.4%,罰金の場合の10.4%,単純執行猶予の場合の17.2%,長期刑の場合の18.3%,中期刑の場合の21.1%,短期刑の場合の26.5%,保護観察付執行猶予の場合の31.6%となっている。この順位は,長期刑と単純執行猶予とが入れ代わったほかは,31年当時と同様である。

I-75表 初犯者の刑種・刑期等別再犯率の推移(昭和31年〜50年)

 近時における年次別有罪裁判確定者の再犯率が往時に比べて大幅に低下したことについては,昭和53年版犯罪白書において指摘したところであるが,今回,刑種・刑期等別に分けて分析したところ,長期的には,ほぼすべての面においてやはり同様の結果が見られた。事態は好転していると言えよう。ただ,保護観察付執行猶予者の再犯率を見ると,50年においてもなお31.6%である。31年当時の46.7%からすれば好転したとはいえ,依然として短期刑受刑者をも上回って再犯率第1位の高率を示しているのであって,単純執行猶予の場合の再犯率(50年で17.2%)が低率であるのと比べた場合に,保護観察付執行猶予の制度が,制度本来の機能を発揮しているか否かにつき多面的な検討を要するものがあるように考えられる。

I-76表 昭和43年初犯者の刑種・刑期等別累積再犯率

 次に,I-75表の調査対象者のうち昭和43年の対象者1万8,675人に限って,その後10年以内の累積再犯率を再犯期間別,刑種・刑期等別に見ると,I-76表のとおりである。最終的再犯率は,罰金を科された者が最も低く(20.1%),短期刑受刑者が最も高く(59.4%),その間は,拘留・科料に処せられた者,単純執行猶予者,長期刑受刑者,中期刑受刑者,保護観察付執行猶予者の順で高くなっているが,再犯期間を追って見ると,その順位は不変のものではなく,短期刑受刑者及び保護観察付執行猶予者以外の者は,10年間に何回か互いに順位を入れ替えている。再犯の累積度を見ると,短期刑受刑者では,2年以内に再犯率が34.9%となっているが,同様に再犯率が三分の一の線を超えるのは,保護観察付執行猶予者で4年以内,中期刑受刑者で5年以内,長期刑受刑者で8年以内であり,単純執行猶予,罰金及び拘留・科料の場合は10年を経過してもその線に達しない。短期刑受刑者については,再犯率の高さとともに,再犯期間の短いことも問題である。
  (2)刑務所出所者の累積再犯・再入率
 I-77表は,前記50万人の電算化犯歴対象者中,昭和23年以降48年までの26年間の各年次に刑務所から出所した自由刑受刑者について,その後5年以内に再犯を犯した者の累積比率,及びそのうち再び自由刑の執行を受けるため入所した者の累積比率を期間別に示したものである。出所後1年以内の再犯率は,23年の26.3%から48年の18.9%まで低下しているが,3年以内の再犯率は50.3%から46.9%まで低下したにすぎず,5年以内の再犯率では,逆に56.6%から58.2%へとやや上昇している。これは,再犯期間が次第に伸長してきていることを示すものであろう。一方,再入率は,5年以内をとっても,23年の50.0%から48年の45.1%まで低下しており,再入期間についても,伸長は見られるものの,その度合いは,再犯期間ほど大きくない。再犯率と再入率との差は,5年以内の場合,23年の6.6%から48年の13.1%までほぼ一貫して増大してきており,実刑前科を有する再犯者のうち,罰金等の軽い刑に処せられる者の比率が次第に上昇していることを示している。
  (3)窃盗等初犯者の同一罪名再犯率

I-77表 刑務所出所者の累積再犯率及び累積再入率の推移(昭和23年〜48年)

 前記50万人の電算化犯歴対象者中,昭和33年以降の各年次に,初犯として窃盗,詐欺,傷害,売春防止法違反若しくは覚せい剤取締法違反により有罪確定裁判を受けた者又はこれら罪名の初犯実刑裁判で服役後出所した者について,裁判後又は出所後5年以内に同一罪名の再犯を犯した者の比率及びなんらかの再犯を犯した者の比率を見ると,I-78表のとおりである。これらは,同一罪名による再犯が多いとされている犯罪であるが,33年において同一罪名再犯率が最も高い売春防止法違反(56.9%)は,その後次第に低下して41年以降は30%を割っている。窃盗,詐欺,傷害についても,同一罪名再犯率は,33年から48年までの推移を長期的に見ると,いずれも減少している。窃盗は,40年以降20%を上下しているが,詐欺及び傷害は,41年以降ほとんど10%を超えることがない。この間にあって例外的存在は,覚せい剤取締法違反である。同一罪名再犯率が40年代前半にO%にまで低下しておりながら,44年突如として30%以上の再犯率を示し,その後も高い再犯率を示している。
 次に,同一罪名に限らない総再犯率を見ると,昭和44年までは,37年,38年の例外を除き,売春防止法違反又は窃盗が首位にあり,45年以降は,覚せい剤取締法違反がこれに代わっている。なお,同法違反は,前記37年,38年の際も総再犯率で首位を占めている。総再犯率に対する同一罪名再犯率の割合は,売春防止法違反で最も大きく,再犯者の約8割ないし9割は,常に同法違反によるものである。窃盗の再犯者について見ても,その5割以上は,常に窃盗によるものであり,48年においては,覚せい剤取締法違反の再犯者も,その過半数が同法違反によるものである。
  (4)窃盗・傷害初犯者の累積再犯率
 I-11図及びI-12図は,前記50万人の電算化犯歴対象者中,昭和39年以降5年間に,初犯として窃盗若しくは傷害により有罪確定裁判を受けた者又はこれらの罪名の初犯実刑裁判で服役後出所した者について,裁判後又は出所後10年以内になんらかの再犯を犯した者の累積比率を,初犯時確定裁判の刑種・刑期等別に見たものである。なお,窃盗及び傷害は,再犯性も高く,また,発生件数も多い罪種とされているので,特に選択してその再犯率を見ることとしたものである。

I-78表 初犯者の罪名別同一罪名再犯率等の推移(昭和33年〜48年)

I-11図 窃盗初犯者の刑種等別累積再犯率(昭和39年〜43年の累計)

I-12図 傷害初犯者の刑程等別累積再犯率(昭和39年〜43年の累計)

 窃盗の初犯者総数は9,676人であり,その69.8%は単純執行猶予,13.9%は保護観察付執行猶予に付され,16.2%は実刑となっている。刑期が5年を超える者は1人おり,2年以内に再犯に陥っているが,図では省略した。10年後の再犯率を見ると,最も高いのは中期刑受刑者で59.5%に達しており,短期刑受刑者(58.4%)及び保護観察付執行猶予者(55.6%)が,これと匹敵する高率を示し,単純執行猶予者(36.2%)が最も低率となっている。
 次に,傷害の初犯者総数は2万207人であり,その92.0%は罰金以下の刑を科され,4.7%は懲役刑の単純執行猶予,1.6%は懲役刑の保護観察付執行猶予に付され,同じく1.6%は実刑に処せられている。刑期が5年を超える者は2人,科料に処せられた者は1人いるが,いずれも10年以内に再犯は見られず,図では省略した。10年後の再犯率を見ると,短期刑受刑者が62.9%と最も高く,保護観察付執行猶予者(58.7%)及び中期刑受刑者(51.3%)も50%を超えているのに対し,単純執行猶予者は85.2%にとどまり,罰金を科された者は27.3%と最も低くなっている。ただし,窃盗では単純執行猶予者が,傷害では罰金を科された者がそれぞれ大多数を占めているので,全体の再犯率は,それぞれ単純執行猶予者又は罰金を科された者の再犯率より若干高い値を示すにすぎず,10年後の全体の再犯率を見ると,窃盗で42.6%,傷害で28.6%にとどまっている。また,ここで初犯者とは,過去に有罪確定裁判の記録がない者を指すにすぎず,逮捕歴,起訴猶予歴,少年時の保護処分歴等を有する者も含んでいることに注意する必要があろう。