前の項目 次の項目 目次 図表目次 年版選択 | |
|
4 アメリカ 各州が独自の司法制度を有し,連邦犯罪と州犯罪とでは犯罪類型を異にするアメリカ合衆国では,犯罪の数量的比較をしたり,その累犯現象を論じたりすることは,統一的な司法制度を有し,それに基づく犯罪及び犯罪者に関する統計を有している国に比べて,すこぶる困難な事情にある。
I-66表 逮捕犯罪者の概要(1970年〜1975年の最終逮捕による) そこで,アメリカ連邦捜査局(F.B.I.)が,法執行の管理・運営等のために,犯罪統計の統一的基準を作り,それに基づいて「統一犯罪報告書(Uni-form Crime Reports)」を作成・刊行しているので,その中の犯歴に関する資料をもとに,アメリカの累犯現象の一局面を見ることとする。1970年1月以来,F.B.I.は,全国犯罪情報センター(The National Crime Information Centre)において,犯罪者に関する記録をコンピュータ方式に変換してきている。I-66表は,1970年から1975年までの間に電算化された犯歴に関する資料の中で,逮捕の登録をされた25万5,936人に関するものである。このうち,2度以上逮捕された者の数は,16万4,295人(64.2%)となっている。この2度以上逮捕された者は,1人平均5年3月の犯罪経歴(ここでは,最初の逮捕から最終の逮捕までの期間をいう。)を持ち,1人平均で4回の逮捕歴を有している。また,2度以上逮捕された16万4,295人の半数に当たる8万2,190人が,最初に逮捕された州以外の州で逮捕されている・このいわゆる「移動する犯罪者」のうち,1万6,908人は,三つの異なる州で逮捕されており,また,1万2,336人は,四つ以上の異なる州での逮捕歴を有している。 I-8図 逮捕犯罪者の罪名別初犯者・再犯者構成比アメリカ (1970年〜1975年) I-9図 1972年釈放者の罪名別再逮捕率 アメリカ 同表に掲げる罪名は,この期間の最終逮捕の罪名によっているが,I-8図は,表中の数字をもとにして,逮捕犯罪者の罪名別に,初犯者(ここでは,この期間内の逮捕歴1回の者)・再犯者(ここでは,この期間内の逮捕歴2回以上の者)の構成比を図示したものである。これによると,再犯者が最も少ないのは,横領の27.0%であり,再犯者の占める率が多い罪名は,自動車盗の78.8%,強盗の77.6%,偽造の72.1%などとなっている。I-9図は,電算化犯歴の資料中,1972年中に釈放された7万8,148人について,その後4年間にわたる追跡調査により,罪名別の再逮捕率を見たものである。再逮捕された者は,不法侵入の81%から横領の28%にまで及んでいる。また,この追跡調査によると,4年間で同一罪名による再逮捕率が最も多いのは,麻薬犯罪の31%及び賭博犯罪の23%であるとされている。武器取締法違反で1972年に釈放された3,855人中,12%の者が4年内に暴力犯罪で再逮捕されている。また,この3,855人中68人は,殺人罪によって再逮捕され,355人は武器取締法違反によって,377人は麻薬犯罪によって,それぞれ再逮捕されている。 I-10図は,前記1972年中に釈放された調査対象者について,釈放事由別の再逮捕率を見たものである。これによると,満期釈放及び恩赦による出所者の再逮捕の率が74%で最も高く,執行猶予又は保護観察に付された者の再逮捕率が最も低い(低いといっても57%という高率である。)。また,免訴・無罪又は棄却等がなされた者のこの期間内における再逮捕の率は67%となっている。 これらの数値は,前述のごとくF.B.I.が作成している「統一犯罪報告書」によるものであり,電算化された犯歴からの限定された資料によるものとは言え,アメリカ社会における累犯現象のある局面を物語っている。 更に,首都ワシントンが所在するコロンビア特別区におけるプロミス(P ROMIS,検察情報管理制度)の資料によって,1971年から約5年間にわたる同地区の累犯現象を見ると,同地区での「路上犯罪」事件の50%以上が逮捕歴のある被告人によるものであることが明らかになっており,そのほか,逮捕件数の24%がこの間の全被告人のわずか7%の者によって占められていること,強盗,不法侵入,合意による性犯罪(主として売春)及び保釈違反で逮捕された被告人のうち,その大部分が累犯者で占められていることなどが指摘されており,特定少数者への犯歴の偏在現象がうかがわれる。 1-10図 釈放事由別再逮捕率アメリカ 1975年6月,フォード大統領が,連邦議会に対する教書中で,「重要なことは,比較的少数の累犯者が,社会の多くの不安や恐怖の根源となっているということである。アメリカ国民は,累犯者の暴力から身を守る権利を有している。」と述べているのは,前記のようなアメリカ合衆国内の深刻な累犯問題がその背景となっているからであろう。 |