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この白書は,昭和53年を中心とした最近の犯罪の動向と犯罪者処遇の実情を概説するとともに,昨年の犯罪白書で取り上げた累犯問題の調査を更に継続し,我が国における累犯現象の実態等を国際的視野から見直し検討するなどの試みをしている。
我が国の犯罪情勢は,最近数年間の動向を見ると,窃盗を主とする刑法犯の増加,覚せい剤事犯の激増,暴力団犯罪の悪質化など警戒を要する一面がないではないが,全体的・長期的に見ればほぼ平穏に推移しており,欧米諸国と対比してみても,犯罪の発生率も低くておおむね良好な状態にあるように見受けられる。また,我が国の累犯現象について見てみても,一般に再犯率は低下傾向にあり,全体として好ましい経過をたどっているように考えられる。このように,犯罪情勢をめぐる全般的事情が良好と見受けられる中にあって,一部に,重大犯罪を繰り返す社会的に危険な犯罪者やひん回累犯者などが存在しており,これらの者に焦点をあてた累犯対策の確立が当面の急務であるように思われる。 本白書では,前年に引き続いて累犯問題の解明を試みることとしたのであるが,スカンジナビア諸国を含めた欧米諸国やアジア諸国における累犯の実態を統計的に明らかにして,国際的視野から我が国の累犯問題を見直すとともに,コンピューダによっては握されている前科者に関する犯歴データの中から50万人分を抽出して,昨年の犯罪白書において将来の課題とした点を中心とする詳細な分析を実施し,また,薬物犯罪や精神障害者の犯罪など最近における注目すべき若干の犯罪について,累犯問題解明の視点を加えて問題点の所在等を明らかにすることに努めた。 累犯問題を国際的視野から見た場合,各国はそれぞれ法律制度や統計方法を異にしていて共通の尺度ともいうべきものがないため,各国の累犯現象について単純な数量的比較をすることは困難で,大体の傾向を比較することができるだけであるが,各国それぞれについて累犯の実態や問題点を探り,ある程度これが明らかとなったことは,我が国の累犯問題を考えるうえで意義のあることであり,また,今回の調査によって,重大犯罪が再犯者によって犯される場合が多く,犯罪を繰り返す特定少数のひん回累犯者による犯罪の量の全体に占める割合が高いなどの現象は,ひとり我が国だけの現象ではないことも判明した。次に,昨年の犯罪白書において,有罪裁判確定者の再犯率を年次別に比較し,近時におけるそれは往時に比べて大幅に低下していることを明らかにしたが,今回その有罪裁判の刑種・刑期・執行猶予の有無等の別に再犯率の年次別の変遷を調査したところ,近時においては,再犯率はほぼすべての面で低下していることが判明した。ただ,保護観察付刑の執行猶予の裁判を受けた者の再犯率は高く,また,最近におけるその執行猶予取消率は,単純執行猶予の裁判を受けた者の場合のほぼ3倍であり,これと関連して,最近覚せい剤取締法違反で刑の執行猶予の裁判を受けた者の執行猶予取消率が,一般の場合の取消率のほぼ2倍であるなどの注目すべき事実が明らかとなった。 以上は,累犯問題に関する本書の記述中二,三の特徴的事項を摘記したものであり,詳細は本文によって承知されたいが,本書が刑事政策の進展につき何程かの寄与をなし得ることを期待したい。 終わりに,この白書を作成するに当たり,法務省各部局はもとより,最高裁判所事務総局,警察庁,在日各国大使館等から協力と援助を受けたことに改めて謝意を表するとともに,この白書に関する責任は,専ら当研究所にあることを明らかにしておきたい。 昭和54年10月 吉 良 慎 平 法務総合研究所長 |