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 昭和44年版 犯罪白書 第二編/第一章/二/3 

3 刑の執行猶予

 刑の執行を猶予することができることとする制度は,わが国においては,明治三八年公布の「刑ノ執行猶予ニ関スル法律」において初めて採り入れられ,その後,数次の改正を経て,順次その適用範囲が拡大され,現在では,前に禁錮以上の刑に処せられたことのない者等に対して,三年以下の懲役もしくは禁錮または五万円以下の罰金を言い渡すときに,一年以上五年以下の期間内,その執行を猶予することができるほか,刑の執行猶予中の者に対しても,特定の場合には,再度の執行猶予を言い渡すことが認められている。
 刑の執行猶予の制度は,裁判所が刑の宣告と同時に,一定期間刑の執行を猶予することを言い渡すことにより,短期自由刑の弊害を回避するとともに,再び犯罪を行なった場合には,執行猶予を取り消して実刑を執行するとの心理強制を担保として再犯を防止しつつ,本人の改善を期することを目的とするものである。なお,この目的のために,保護観察との結合をはかり,昭和二八年,同二九年の各刑法一部改正によって,再度の執行猶予を言い渡された者は必要的に,初度目の執行猶予を言い渡された者は裁量により保護観察に付せられることとされている。

(一) 統計からみた執行猶予率

 一般に,戦後の量刑の特色として,執行猶予を言い渡される率の増加していることが,指摘されているが,有期の懲役刑または禁錮刑に処せられた者について,その実情をみたのが,II-35表である。これによって,大正七年,昭和三年,同一三年と一〇年ごとにその推移をみると,戦前,二〇%未満であった執行猶予率は,昭和二三年には,三八・七%,昭和三三年には四六・九%となり,その後もおおむね増加の傾向を示して,昭和三五年には五割をこえ,昭和四二年には,五五・七%に達した。

II-35表 第一審懲役・禁錮言渡中の執行猶予人員と百分比(大正7,昭和3,13,23,33〜42年)

 執行猶予は,三年以下の懲役・禁錮のほか,五万円以下の罰金にも付けることができるが,II-36表は,昭和四二年と昭和四三年につき,懲役・禁錮・罰金の各確定判決のうち,執行猶予の付けられたものの比率をみたものである。これによると,懲役は五四・六%または五五・〇%,禁錮は七四・一%,罰金は〇・〇一%に,それぞれ執行猶予が付けられていることがわかる。懲役は,三年以下の刑を言い渡す場合に限って執行猶予を付けることができるから,刑期が三年以下の懲役の総数のうち,執行猶予の率がどのくらいかをみると,昭和四二年には五七・二%,昭和四三年には五七・五%となっている。次のII-37表は,同じ年次について,執行猶予の言い渡しを受けた者を該当法条別に示したうえ,保護観察に付されたものの割合を,みたものである。これによると,執行猶予者の約九七%が,刑法第二五条第一項の規定により,いわゆる初度目の執行猶予の言い渡しを受けた者であり,これらの者に対し,裁量的に保護観察の付せられた割合は,約一五ないし一六%となっている。

II-36表 懲役・禁錮・罰金の確定判決人員と執行猶予人員および百分比(昭和42,43年)

II-37表 執行猶予確定人員中該当法条別人員および該当法条別保護観察言渡人員(昭和42,43年)

 次に,刑法犯の主要罪名と,特別法犯のうちで,事例の多い公職選挙法と売春防止法の各違反について,通常第一審で,懲役刑または禁錮刑の言い渡しを受けた者のうち,執行猶予に付せられた者の人員と比率を示すと,II-38表のとおりである。これによると,執行猶予率の最も高いのは,公職選挙法違反の九七・二%で,ついで刑法犯の贈賄九六・一%,収賄九五・六%が続いている。低いものでは,強盗の二五・二%,殺人の二七・二%,傷害致死の三四・〇%の順となっている。なお,執行猶予者中,保護観察に付せられたものの割合は,刑法犯(準刑法犯を含む。)全体では,一九・九%であるが,罪名別にみると,強盗の四四・〇%が最も高く,強姦の四〇・四%,強姦致死傷の三五・三%,恐喝の三三・四%がこれに次いでいる。また,売春防止法違反で保護観察または補導処分の付けられたものの割合は,三一・五%となっている。保護観察に付される割合の最も低いのは,収賄の皆無,公職選挙法違反の〇・四%,贈賄の一・二%である。

II-38表 通常第一審被告人の主要罪名別執行猶予率(昭和42年)

(二) 執行猶予の期間と刑期

 昭和四三年に執行猶予の言い渡しを受けた人員について,その猶予期間をみると,II-39表のとおりである。これによると,猶予期間は,三年以上が最も多く,総数の六〇・四%を占め,これに次ぐものが四年以上の一七・三%,二年以上の一四・六%であり,最も少ないのは,一年以上の一・六%である。

II-39表 執行猶予の猶予期間別人員と百分比(昭和43年)

 次に,懲役および禁錮に処せられ,執行猶予を言い渡された場合の刑期と罰金を言い渡された場合の罰金の金額を示すと,II-40表[1]・[2]のとおりである。これによると,執行猶予が付せられた場合の懲役または禁錮の刑期は,六月をこえ,一年以下のものが最も多く,総数の五七・六%を占めており,これに,六月以下の二二・五%を加えると,八〇・二%弱までが,一年以下の刑期の懲役または禁錮に,執行猶予が付けられていることがわかる。また,執行猶予が付けられた場合の罰金の金額をみると,三千円以下が二五・二%,三千円をこえ五千円以下が二八・〇%であるから,総数の五三・一%強は,五千円以下の罰金である。

II-40表

(三) 執行猶予の言い渡しを受けた者の成行

 執行猶予制度は,わが国において,きわめて活発に運用されていることは,これまでにみてきたところであるが,その効果を測る方法の一つとして,最近の三年間について,刑法犯および特別法犯の執行猶予の言い渡しを受けた人員,執行猶予の取り消しを受けた人員,取消率および取消事由をみたのが,II-41表である(ここで,取消率というのは,ある年次において執行猶予に付された者の総数で,その年次における執行猶予を取り消された者の数を除した値であるから,正確な意味での取消率とはいえないが,大体の傾向を知ることはできよう。)。これによると,刑法犯と特別法犯とを合わせたものでは,執行猶予人員の九・二ないし一〇・九%にあたる者が取り消しを受けている。また,その取り消しの事由をみると,その九六%以上が,刑法第二六条第一号による必要的取り消し,すなわち,猶予の期間内にさらに罪を犯し,禁錮以上の刑に処せられ,その刑に執行猶予の言い渡しのないときである。これに反して,取り消しが裁判所の裁量にゆだねられている同法第二六条の二に基づく場合は,著しく少ない。

II-41表 刑法犯・特別法犯の執行猶予の言渡し・取消・取消事由別人員(昭和41〜43年)

 次に,執行猶予を取り消された者のうち,猶予期間内に再犯を犯した者について,その再犯が執行猶予の言い渡しの日から,どのくらいの期間を経て行なわれたかをみたものが,II-42表である。これによると,昭和四三年においては,再犯を犯して執行猶予を取り消された者三,六六六人のうち,一七・〇%が三月以内に,一五・八%が三月をこえ六月以内に,二五・四%が六月をこえ一年以内に,それぞれ再犯を犯している。これを累積的にみると,六月以内には三二・八%,一年以内には五八・二%が再犯を犯したことになる。すなわち,執行猶予の言い渡しを受け,再犯を犯した者のうち,約六割は,言渡時から一年もたたないうちに再犯に及んでいるわけである。

II-42表 執行猶予を取り消された者の執行猶予の言渡時から再犯時までの期間別人員の百分比(昭和41〜43年)

 次に,執行猶予取消者のうちで,執行猶予期間内に再犯を犯した者につき,保護観察の付いた者と付かない者とに分け,それぞれの再犯期間をみると,II-43表のとおりであるが,これによると,いずれの場合においても,一年以内に再犯を犯した者の累積比率が,年を逐って漸減するという,好ましい傾向を示している。

II-43表 執行猶予を取り消された者の再犯までの期間別人員と百分比(昭和41〜43年)

 しかしながら,執行猶予の取り消しは,必ずしも執行猶予の言い渡しを受けた者の再犯状況をそのままあらわすものではなく,公訴を提起された再犯事件に対する裁判が迅速に行なわれ,執行猶予期間内に確定するか否かなどの事情によっても左右されるところが多いので,執行猶予者の再犯状況を確実には握するためには,ほかの方法によることが必要となろう。
 法務総合研究所は,東京ほか一六の地方裁判所本庁および本庁所在地の簡易裁判所において,昭和三九年中に道交違反を除く事件について,執行猶予を言い渡された者の中から,無作為に三,八五五人を選んで,警察庁保管の指紋原票により,昭和四三年二月現在の時点で,再犯の有無を調査した。これによると,II-44表に示すとおり,右三,八五五人のうち,再犯者は一,二五四人で,その再犯率は三二・五%である。これを男女別にみると,男子の再犯率は三一・九%,女子は三七・二%となっている。

II-44表 男女別再犯人員と再犯率

 次に,判決言渡時年齢と再犯率との関係をみると,II-45表のとおり,少年時に執行猶予の言い渡しを受けた者の半数近くが再犯に及んでおり,二〇歳以上二三歳未満の場合も,約四五%という高い再犯率をみせて,二三歳以上の者との間に,差異のあることを示している。

II-45表 判決言渡時年齢別人員と再犯率

 執行猶予言渡時の罪名別に再犯率をみると,II-46表のとおりで,男子の再犯率の高い罪名は,恐喝四四・八%,傷害四一・三%,窃盗四〇・三%の順となっているが,女子では,売春防止法違反五二・六%,窃盗四四・六%となっている。これに対し,公職選挙法違反,業務上過失致死傷,賍物関係の再犯率は,男女を問わずきわめて低い。

II-46表 罪名別人員と再犯率

 次に,執行猶予の言い渡しに,保護観察または補導処分が付されているものと,しからざるものとの間に,再犯率の差があるかどうかをみたのが,II-47表である。男女の合計について,保護観察も補導処分も付されていないものの再犯率が,二六・四%であるのに対し,必要的に保護観察の付されたものの再犯率が四八・七%,裁量的に保護観察に付されたもののそれが四八・六%,補導処分に付されたもののそれが六五・七%となっていて,保護観察または補導処分付のものの方が,高い再犯率を示すという結果となっている。

II-47表 保護観察等の有無別人員と再犯率

 調査対象者中,前科・前歴のある者の再犯率は,ない者のそれを大きく上回っているが,その中でも著しい差異を示したのは,II-48表にみるとおり,少年院入院歴の有無によるものである。これによると,男女の合計数について,少年院入院歴のない者の再犯率が二九・五%であるのに対し,入院歴のある者の再犯率は,七一・四%にも達している。

II-48表 少年院入院歴の有無別人員と再犯率

 次に,再犯者の再犯までの期間を,男女別にみたものが,II-49表である。これによると,再犯期間は,男子と女子との間に大きな差が認められず,男女とも,その半数以上が,執行猶予判決言い渡しから,わずか一年以内に再犯に及んでいることが注目されるところであろう。

II-49表 再犯者の再犯までの期間別・男女別人員と再犯率