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 昭和44年版 犯罪白書 第二編/第一章/二/1 

二 裁判

1 確定裁判の概況

(一) 概況

 昭和四三年に確定裁判を受けた者の総数は,三,〇九七,一一一人である。この裁判結果別内訳を,昭和三九年以降,同四三年までの五年間について対比し,昭和三九年を一〇〇とする指数によって,その増減の状況を示すと,II-17表のとおりであり,昭和四三年を円グラフにしたのが,II-4図である。この内訳をみると,総数の九七・二%が罰金刑で,懲役二・〇%,公訴棄却〇・三%,禁錮〇・三%,科料〇・一%,無罪〇・〇一六%となっている。確定裁判のほとんど全部が罰金刑によって占められている傾向は,最近数年間変わっていない。したがって,確定裁判総数は,おおむね,罰金刑に処せられた者の総数と一致した推移を示しており,ともに,昭和四二年から同四三年にかけて,かなりの減少となっているが,これは,いわゆる「交通反則通告制度」の施行によって,罰金刑に処せられることの多かった道交違反の受理が,大幅に減少したことによるものである。

II-17表 裁判結果別確定裁判を受けた人員(昭和39〜43年)

II-4図 裁判結果別確定裁判を受けた人員と百分比(昭和43年)

 懲役刑は,昭和四二年以降漸減の傾向にあって,昭和三九年を一〇〇とすると,同四三年は九二に減少している。これに対し,禁錮は,年を逐って増加し,昭和三九年を一〇〇とする指数で,同四三年は一七九となっている。これは,自動車の交通に起因する業務上過失致死傷事件が急増し,しかも,その科刑が漸次重くなり,禁錮刑を科せられる者が多くなってきており,他方懲役刑を科せられることの多い財産犯罪等が減少の傾向にあることの結果によるものであろう。
 実数のきわめて少ない死刑と拘留,免訴・その他はしばらくおいて,科料の減少も著しい。これは,科料の上限が千円未満であるために,他に選択刑のある場合には,ほとんど科料が適用されなくなったことなどによるものと思われる。公訴棄却の増減は,主として道交違反事件の略式命令不送達の増減によるものであろう。無罪はきわめて少なく,昭和四三年についてみると,前述したとおり,〇・〇一六%で,約六,三〇〇人に一人の割合である。
 次に,懲役と禁錮とを刑期別に区分して,昭和三九年,同四一年および同四三年を対比すると,II-18表[1]・[2]のとおりである。

II-18表 自由刑の刑期等別人員(昭和39,41,43年)

 まず,懲役についてみると,無期は,各年とも,総数の〇・一%で,その実数も,四二人ないし七〇人にすぎない。有期懲役の中で,実刑を言い渡されたものをみると,一年以下が約五割を占め,三年以下を加えると,約九割を占めていることとなり,わが国の懲役の刑期は,比較的短期に集中していることが明らかである。
 また,執行猶予も,昭和三九年が五一・九%,同四一年が五三・〇%,同四三年が五五・〇%と例年五割以上を占め,しかもその比率は上昇の傾向にある。
 つぎに,禁錮についてみると,執行猶予の率が,昭和三九年で七七・一%,同四一年で七三・三%,同四三年は七四・一%と高率であるのが目につく。また実刑のうちの約九割が一年以下の刑期となっており,このように,懲役,禁錮を通じて,刑が短期に集中し,執行猶予の率の高いことが,戦後の科刑の大きな特色となっている。

(二) 公判の審理期間

 憲法第三七条は,被告人に対し迅速な裁判を受ける権利を保障し,刑事訴訟法第一条は,これをうけて,適正迅速な裁判の実現を,刑事手続の理念の一つとして掲げており,裁判の促進を求める声が高いが,公判手続による裁判の審理期間がどうなっているかをみよう。
 まず,昭和三七年から同四二年までの六年間について,起訴から通常第一審の終局までの期間を百分率にして,地方裁判所と簡易裁判所とに分けてみると,II-19表[1]・[2]のとおりである。

II-19表 通常第一審事件の既済の審理期間(昭和37〜42年)

 これによると,昭和四二年における地方裁判所の通常第一審事件の終局総人員五三,五一一人のうち,六か月以内に終局したものは,総数の八一・八%で,この比率は,例年ほとんど大差はないが,全体としては審理期間がやや短かくなる傾向を示している。簡易裁判所では,昭和四二年の終局総人員三五,七三〇人のうち,六か月以内に終局したものは,八七・七%となっている。地方裁判所と簡易裁判所は,ともに終局総人員が減少しているが,簡易裁判所にあっては,地方裁判所とは逆に,審理期間がやや長くなる傾向をみせていることが注目される。
 次に,昭和四一年,同四二年の平均審理期間および平均開廷回数を,通常第一審事件全体と主要罪名別とについてみると,II-20表のとおりである。これによると,贈収賄事件と公職選挙法違反事件が,他の事件に比べて平均審理期間の長くなっていることが目につく。ところで,裁判の長期化には,事案が複雑で,審理に長時日を要する場合のほかに,被告人の逃亡等も,その大きな原因となっている。II-21表は,試みに,昭和四二年末現在で,高裁,地裁,簡裁において,それぞれ係属二年をこえる者を,長期係属人員として,そのうち,被告人の逃亡等によって長期化している事件をみたものであるが,長期係属総人員六,五五三人中,被告人逃亡,所在不明等を理由とするものが,三九・一%にあたる二,五六四人にのぼり,その半数近くが,保釈中逃亡して所在不明となったものであることは,保釈の運用の上でも,注目を要するところであろう。

II-20表 通常第一審における主要罪名別平均審理期間および平均開廷回数(昭和41,42年)

II-21表 逃亡・所在不明・疾病・心神喪失を理由とする長期係属人員(昭和42年)

 次に,起訴から上訴審の終局までの期間を,年次ごとに百分率にして,控訴審についてみたのが,II-22表,上告審についてみたのが,II-23表である。

II-22表 控訴事件の既済の起訴から控訴審終局までの審理期間(昭和37〜42年)

II-23表 上告事件の既済の起訴から上告審終局までの審理期間(昭和37〜42年)

 これによると,昭和四二年に控訴審で終局した一一,二〇四人のうち,総数の一九・七%が六月以内に,四一・八%が六月をこえ一年以内に,二七・〇%が一年をこえ三年以内に終局しているが,三年をこえるものが,一一・五%となっている。
 次に,これを上告審についてみると,昭和四二年に,上告審で終局した四,〇九三人のうち,起訴から上告審の終局までの審理期間が一年以内のものは,総数の一七・六%,一年をこえ二年以内のものは四六・六%,二年をこえ三年以内が一一・九%で,三年をこえるものが,二三・九%となっている。

(三) 上訴

 昭和四二年とその前年,それに五年前の昭和三七年の上訴率の推移は,II-24表のとおりである。これによると,控訴率は,約一三%ないし一五%で,各年とも,地裁事件の控訴率が,簡裁事件のそれより著しく高いことがわかる。上告率は,控訴率に比べて,きわめて高く,四〇%前後に達している。

II-24表 上訴率の推移(昭和37,41,42年)

 控訴または上告には,検察官のする場合と,被告人側のする場合と,その双方からする場合との三とおりがあるが,その大部分は被告人側の申立によって占められており,たとえば,昭和四二年中に高裁が受理した控訴事件の九二・二%は被告人側の申立にかかるものであって,検察官申立は六・〇%,双方申立は一・八%にすぎない。上告になると,この比率の差は,さらに著しく,そのほとんど全部が,被告人側の申立にかかるものである。ところで,II-25表は,控訴申立人別に,控訴事件終局人員中,原判決が破棄されたものの比率を比較したものであるが,昭和四二年に例をとると,検察官控訴事件の破棄率が六五・五%であるのに対し,被告人側申立の事件については,破棄率が低く,二五・〇%となっている。

II-25表 控訴事件終局人員の控訴申立人別破棄率および棄却率(昭和38〜42年)

 次に,上訴の結果を,昭和三七年,同四一年および四二年についてみると,控訴審についてはII-26表,上告審についてはII-27表のとおりである。これによると,控訴棄却率は六〇%前後で,これに控訴取下の率を加えると,七割以上が控訴の目的を達しなかったといえる。また,上告審で,原判決が破棄される割合は,一%前後にすぎない。

II-26表 控訴事件の終局区分別人員と率(昭和37,41,42年)

II-27表 上告事件の終局区分別人員と率(昭和37,41,42年)