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3 職業と学校 経済のめざましい成長とこれに伴う産業構造の変容は,大都市およびその周辺における少年の雇用の機会を,飛躍的に増大させている。一方,最近における少年人口の減少は,所得水準の向上に伴う上級学校進学率の上昇と相まって,若年労働力に不足をきたし,産業界においては,中学あるいは高校卒業者について,金の卵という言葉がささやかれるようになった。そして,農山漁村から大都市に流入した大量の勤労少年の中には,新らしい環境に適応できない少年も少なくなく,また,雇用機会の増大と賃金の上昇は,安易な転退職の繰り返しや怠学への誘惑をもたらす場合がありうるなど,少年犯罪との関連には十分留意する必要がある。
以下本項においては,罪を犯した少年を,その属性から,有職・無職少年ならびに学生・生徒に分けて,これらと犯罪との相互の関連をとらえるとともに,その問題点を明らかにしたい。 (一) 学生・生徒と有職少年 昭和三八年以降昭和四三年までの,少年刑法犯(触法を含む。)検挙人員について,学職別にその推移をみると,I-57表のとおりである。これによると,学生・生徒は昭和三九年をピークとして,その後は次第に減少し,この五年間の減少率は二三・六%であるのに対し,有職少年は逐年増加を続け,この間の増加率は二八・九%の高率を示している。ちなみに,労働力調査の結果によれば,昭和三八年から四二年に至る間の,一五歳ないし一九歳の就業者数の増加率は一一・一%であるので,期間・対象等に差があるとしても,最近における有職少年の検挙人員の増加率は,就業者数のそれを,かなり大幅に上回っているといえよう。また,無職少年は,年によって多少の増減はみられるが,四三年にはやや減少している。
I-57表 学識別少年刑法犯(触法を含む)検挙人員(昭和38〜43年) 各年次の少年刑法犯検挙人員中に占める学職別の構成割合は,I-22図に示すように,昭和四三年には,有職少年四五・二%,学生・生徒四五・一%,無職少年九・七%となっている。この図によって明らかなように,最近では,学生・生徒の割合は減少しているのに反して,有職少年の占める割合が増加している。I-22図 刑法犯検挙人員の学識別構成比(昭和38,40,43年) (二) 有職・無職少年の犯罪 (1) 少年の就労状況 そこでまず,犯罪少年を職業の側面から考察することとするが,これに関連して,勤労少年の最近の就労状況をみておこう。
I-58表は,昭和三八年以降の就業人口およびその対人口比率を示している。これによると,少年人口(一五歳ないし一九歳)に対する就業人口の割合は,中学から高校への進学率がさほど高くなかった昭和三八年には,四一・六%を占めていたが,その後は進学率の上昇により,就業人口比率は低下している。しかし,昭和四一年以降は,ベビー・ブーム期の少年が,高校を卒業して就業するに至ったために,就業人口比率はやや増加し,四二年のそれは三七・一%である。また,かつて,中学卒業者によって占められていた若年労働力供給の中心が,最近では,高校卒業者に移行してきており,文部省の学校基本調査によれば,昭和三八年における新規学卒就労者では,中学卒(五二・八%)が高校卒(四七・二%)を上まわっていたが,四二年には,中学卒二九・一%,高校卒七〇・九%と,大きく逆転している。 I-58表 就業状況および有識少年犯罪率(昭和38年〜42年) 次に,前記,文部省の調査によって,これら新規学卒就労者の就労地の状況をみると,昭和四二年三月の中学卒就労者(四四万五千人)の三一・五%,高校卒就労者(九四万一千人)の二八・二%は,出身県以外の地域で就労しており,かつ,主な就労地は,大都市およびその周辺の工業化・都市化の伸展の著しい地域であって,東京,大阪,愛知および神奈川の四都府県に,出身県外就職者の約八割が就労している。このように,年少労働者が大都市およびその周辺地域に多数流入してきており,社会環境の激変あるいは生活環境への不適応から離職するものも少なくない。前述のように,年少労働力の不足は,雇用機会を増大させ,転職を容易にしていると考えられるが,これら転職の繰り返しが,社会生活への不適応度を高め,非行へと脱落する場合が多いと考えられる。 (2) 有職少年の犯罪 前掲I-58表によって,有職犯罪少年の推移をみると,就業人口千人あたりの有職犯罪少年の割合は,昭和三八年には一七・五であったが,その後逐年増加し,四二年には二一・八となっている。その主たる原因は,最近における業務上過失致死傷犯の増加によるものとは思われるが,有職犯罪少年が増加してきていることは,注目されてよいことであろう。
有職犯罪少年には,比較的年長少年が多いことから,学生等のそれに比べ,その犯罪性も進んでいるものが多いと考えられる。法務省特別調査によって,職業の有無別に罪種をみると,I-59表のとおりであって,有職少年では,強盗,詐欺,傷害,暴行,強姦および殺人などの罪種の占める割合が高くなっている。なお,法務省特別調査では,有職少年に多い業務上過失致死傷が除外されていることも注意しておく必要がある。 I-59表 職業の有無別罪名(昭和43年) さらに,職業と犯罪少年に関連して,注意を要することは,少年の離職または転職ということである。前述のように,新規学卒就労者においても,転職者は少なくないが,法務省特別調査によって,犯罪少年の転職の有無をみると,五六・九%が転職経験をもち,そのうちの五〇・二%は,二回ないし三回転職し,一五%は四回以上転職している。転職経験の有無と罪名との関連をみると,I-60表に示すように,転職経験者には,強盗,詐欺,横領,恐喝および殺人などの犯罪を犯したものの割合が高い。 I-60表 転職の有無別罪名(昭和43年) (3) 職業と非行歴 非行歴の有無を,職業の有無別に比較してみると,I-61表に示すとおり,全体の三〇・八%に非行歴があるが,学生・生徒のうち非行歴のあるものは一六・六%であるのに対し,有職少年のそれは三五・六%とかなり高い。なお,無職少年では,非行歴のあるものが五〇・八%と,著しく高いが,犯罪少年のうちの無職少年は,その大多数が,かつては有職少年であったが,犯行当時に離職していたか,あるいはその以前に,非行を重ねていくうちに離職した少年とみられる。
I-61表 職業の有無別非行歴(昭和43年) (三) 学生・生徒の犯罪 次に,学生・生徒の犯罪についてみよう。前掲I-57表でみると,昭和四三年の少年刑法犯検挙人員中,学生・生徒は,約九万九千人で,総数の四五・一%を占めている。有職少年の割合が増加してきたとはいえ,学生・生徒による犯罪も,依然として少年刑法犯の半数近くを占めていることは注意されなければならない。
国民の生活水準の上昇にともない,一般の教育水準も高まってきていることは,進学率の著しい上昇にもあらわれており,昭和三〇年には,中学から高校への進学率は五一・五%であったが,昭和四二年には,それが七四・五%にまで高まり,また,高校から大学(短大を含む。)への進学率も,一八・四%から二三・七%へと高まってきている。こうした進学率の上昇を背景に,学生・生徒の非行の特色をいくつか探ってみよう。 (1) 教育程度 家庭裁判所が取り扱った一般保護少年について,その教育程度をみると,I-62表に示すように,昭和四二年では中学卒業者が最も多く,四三・三%を占め,高校卒業者は九・五%であり,また,高校在学中が二〇・八%,中学在学中が一四・八%となっている。これを,昭和三八年と比較してみると,中学卒業者については増減は少ないが,中学在学中のものの割合が減少しているのに対し,高校卒業者および在学中のものの割合が増加していることが目立つ。また,大学在学中のものもかなり増加しており,実人員でみると,昭和四二年では三八年の約三倍となっている。
I-62表 一般保護少年の教育程度(昭和38,42年) 次に,一般保護少年のうち,中学および高校在学生について,各生徒数一,〇〇〇人に対する割合およびその推移を示すと,I-63表のとおりである。中学生では,昭和三八年の生徒比は七・三であったが,四一年には七・〇,四二年には五・九と漸減している。これに対し,高校生は漸増の傾向を示し,その生徒比は,昭和三八年には七・六,四〇年には八・五,四一年および四二年には九・一と上昇しており,中学生に比べ高率である。また,実人員においても高校生は,中学生の約一・四倍となっている。I-63表 教育程度別在学生に対する一般保護少年の割合(昭和38〜42年) なお,参考までに,一般保護少年のうち,在学生について,学校内の問題行動の有無をみると,I-64表のとおりで,中学生では三八・三%,高校生では一五・九%のものが,学校内ですでに,長欠,怠学などの問題行動をもっていた。I-64表 一般保護少年の在学生学校内の問題行動(昭和42年) (2) 学生・生徒の罪種 一般保護少年のうち,在学生について,教育程度別に刑法犯の主要罪名を比較してみると,I-65表のとおりである。まず,中学生では窃盗が最も多く八〇・〇%を占め,次いで傷害の四・六%,恐喝三・六%,暴行三・三%などがおもなものである。
I-65表 一般保護少年(刑法犯)の教育程度別在学生の罪名(昭和42年) つぎに,高校生になると,中学生と同様に窃盗が最も多いが,その割合は四五・九%とかなり低くなっており,次いで,業務上過失致死傷が多く,二九・六%で,傷害七・一%,恐喝五・一%,暴行三・九%がこれに次いでいる。また,高校生による強姦,強盗も多い。大学生では,業務上過失致死傷が最も多く六四・六%を占め,次いで窃盗の一九・〇%である。 |