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犯罪を犯し刑を科せられた者は,いわゆる前科者として,いろいろな面で不利益な取扱いをうけることがある。社会的には,前科者という烙印をおされ白眼視されることもあろうし,法律的には,前科者のうち懲役に処せられた者が,その執行をおわった後五年内にさらに罪を犯し,ふたたび懲役を科せられる場合には,累犯として,法定刑が二倍となるし,また,資格に関する法律(たとえば,弁護士法,弁理士法,医師法など,その数は少なくたい)で,一定の資格を制限され,公共的な職業につけないとされているのが少なくない。
前科者は,かように,社会的ないし法律的に不利益な取扱いをうけるが,すでに罪の償いをして更生し,または更生しようとしている者に対しては,いつまでもこのような不利益をあたえておくべきでない。こうして,前科抹消の制度が設けられた。前科の抹消とは,禁錮以上の刑の執行をおわってから罰金以上の刑に処せられず一〇年を無事に経過したとき,また,罰金以下の刑の執行をおわってから罰金以上の刑に処せられずに五年を無事に経過したときは,いずれも,さきの刑の言渡が効力を失うという制度である。刑の言渡の効力がなくなるのだから,前科の烙印も当然に抹消されるわけである。 では,前科抹消の対象となる前科者は,わが国にどのくらいあるのであろうか。残念ながら,この数を正確に示す資料は見あたらない。そこで,ここでは,禁錮以上の刑をうけた者で,まだ前科の抹消されていない者の数を,資料により,大ざっぱではあるが,推定してみよう。 禁錮以上の刑をうけた者については,実刑をうけた者と刑の執行猶予をうけた者とに分けて考えなければならない。まず,実刑をうけた者であるが,この資料としては,法務省矯正局指紋部の保管する指紋原紙がある。昭和三三年末における指紋原紙の数(死亡者は除外されている)は,九二六,三八九枚で,この数字は,かつて懲役または禁錮の刑に処せられ刑務所に服役した者および現に服役中の者の数を示している。そこで,刑務所から釈放されたのち一〇年以内にふたたび実刑を科されなかった者は,いちおう前科が抹消されたものとみなして(もっとも,実刑を科せられなくても,罰金刑に処せられたり,または刑の執行猶予を言い渡されたりすると,前科の抹消は行なわれないことになるが,この数は,さしあたり除外する),この数五一五,五九一人をさしひくと,四一〇,七九八人となる(なお,昭和三三年末現在で在監中である六五,四七三人がこれに含まれる)。 このほか,現に刑の執行猶予中の者がある。昭和三三年末における執行猶予中の者の数は,II-62表にみるように,ほぼ一五万人といえよう。これと,現に服役中の者を含むさきの実刑者の数四一万人とを合計すると,五六万人で,この数が,だいたいの推定ではあるが,禁錮以上の刑をうけた前科者といえるであろう。昭和三三年一〇月一日現在で,全国民中二〇才から七〇才までの者の総数は,五,一六二万人だから,その一・〇八パーセントにあたるわけである。 II-62表 刑の執行猶予人員 罰金の前科者については,そのうちどの程度のものが再犯して罰金以上の刑に処せられているかを示す資料がないので,その概数をつかむのはむずかしいが,ともあれ,年間九〇万人にのぼる科刑が行なわれているので,ぼう大な数であると推定される。 |