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 昭和43年版 犯罪白書 第二編/第四章/二/2 

2 収賄

 収賄は,公務員犯罪の中で重要なものの一つである。II-121表にみるように,その数において,公務員犯罪中最も高い比率を占めているうえに,この種の犯罪は,公務員の職務の公正と,官公庁による施策の適正な運営を阻害する可能性の大きいものであり,また,官公庁に対する国民の不信を招来するのみならず,ひいては,国民一般の遵法意識をも低下させるなど,多くの弊害をもたらすものであって,公務員の個人的な不品行とは同視できない重要な意味を持つものである。いうまでもなく,この犯罪に対する世論の批判は,すこぶるきびしいものがあるが,それにもかかわらず,今日なお,依然としてその跡を絶つきざしのみえないことは,寒心に堪えないところである。もとより,この種の事犯は,収賄者,贈賄者の双方が罰せられ,特定の被害者というようなものが存在しないということもあって,その潜在性が強く,取締りもきわめて困難であるので,統計面に現われた数字は,いわば氷山の一角にすぎないものといっても過言ではなく,表面化した事犯を捕えて,その動向を断ずることは早計であろうが,表面に表われた犯罪の傾向をみることは,いちおう,その背後に隠れたものの傾向を知る一つの手がかりになるものと思われる。
 警察庁の統計によれば,昭和三二年から四一年までの一〇年間に,賄賂罪で検挙された公務員は,合計五,二五八人(うち四四〇人が,いわゆる「みなす公務員」である。)に及んでいる。そこで,この一〇年間の前半,すなわち,昭和三二年から三六年の五年間と,三七年から四一年までの,後半の五年間とを比較してみると,前半五年間の検挙人員合計は,二,二六三人であるのに対して,後半五年間は,二,九九五人となって,三二・二%の増加を示している。II-123表は,右の統計に基づいて,検挙人員の多かった職種を,前半と後半につき,それぞれ上位五番目までを掲げてみたものであるが,最近五年間の検挙人員累計が一番多かった「土木建築関係の地方公務員」についてみると,実に八八・〇%の増加率を示しており,これに次ぐ「地方公共団体の議会の議員」も,順位は前半五年間の一位から,二位に落ちながら,実数では,二四・二%の増加となっているのである。これに反して,国家公務員関係は,減少の傾向にあり,前半五年間は,五つの職種のうち二つを占めていたものが,後半五年間には,「国税庁関係」を一つ残すのみとなって,地方公務員関係の増加傾向との間に,鋭い対照を示している。このような傾向は,検察庁の統計にも顕著に見受けられるところであって,II-124表は,昭和四〇年から四二年までの最近三年間に,収賄で新規に受理された人員を,国家公務員と地方公務員とに分けて比較したものであるが,総数に占める地方公務員の比率は,昭和四〇年の五七・二%から,四一年の六六・五%,四二年の七七・六%と,毎年一〇%前後ずつ増加する勢いを示して,警察庁の統計にみる傾向を裏づけている。このような現象は,交流の範囲が限られるなど,地方公共団体の人事管理に起こりやすい欠陥が,日本経済の発展,成長に伴う,地方の急激な工業都市化ないしは観光開発に関連して露呈したものともみる余地があり,示唆するところが少なくないように思われる。

II-123表 収賄事件検挙人員比較(昭和32〜36,37〜41年)

II-124表 収賄事件新規受理人員比較(昭和40〜42年)

 おわりに,公訴を提起された収賄事件が,裁判所でどのような刑に処せられているかを,最近五年間についてみたのが,II-125表である。昭和三七年から三八年にかけて,有罪人員の総数が急増し,量刑もやや重くなっているが,その後,昭和四一年までの四年間は,総数にも,量刑の一般的傾向にも,ほとんど差異がなく,刑期については,約六割が一年未満で,九割近くに執行猶予が付せられるという傾向が続いており,昭和四一年に例をとると,収賄罪で実刑の言渡しを受けた者は,わずかに三七人に過ぎない。

II-125表 収賄事件通常第一審科刑別人員(昭和37〜41年)

 いうまでもなく,贈収賄多発の原因は,複雑であり,ひとり刑罰のみをもって,この種事犯の一掃を図ることは不可能であるとしても,厳正な取締りを遂げ,犯人の責任にふさわしい刑罰を科することは,この種の犯罪を防止するため,最も必要なことであろう。