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 昭和42年版 犯罪白書 第三編/第二章/一/3 

3 少年審判

 非行のある少年について審判を行なうこと,すなわち非行少年を保護処分にするか,あるいは刑事処分にするか,また,保護処分にするとしても,どのような保護処分にするか,さらに右のいずれの処分にもしないこととするかなどを決定することおよび審判のための調査を行なうことは,現行法上,家庭裁判所の権限に属する。
 家庭裁判所で審判の対象となる少年は,二〇歳未満の犯罪少年,触法少年およびぐ犯少年である。触法少年と一四歳未満のぐ犯少年は,都道府県知事または児童相談所長から送致を受けたときに限り,家庭裁判所の審判の対象となる。年令の上限は,原則として二〇歳未満であるが,家庭裁判所で保護観察に付する旨の決定を受けた少年について,新たに少年法第三条第一項第三号に掲げるぐ犯事由があると認められる場合には,その者が二〇歳以上である場合においても,保護観察所長の通告によって審判の対象となるという例外が認められている(犯罪者予防更生法第四二条)。また,「準少年保護事件」と呼ばれる少年法第二七条の二による保護処分取消事件や,少年院法第一一条による収容継続申請事件および犯罪者予防更生法によるもどし収容申請事件においても,二〇歳以上の者が審判の対象となることがある。司法統計年報によると,昭和四〇年における準少年保護事件の既済人員は,四二九人で,その内訳は,保護処分取消申請が二六人(六・一%),収容継続申請が三一九人(七四・三%),もどし収容申請が八四人(一九・六%)となっているが,総数の八六・九%が認容されている。
 まず,最近五年間における全国家庭裁判所の少年保護事件の受理人員総数の推移を行為別にみると,III-56表のとおりである。これによると,受理総数は,昭和三六年以降増加の傾向をみせている。昭和四〇年における受理総数一,〇七八,〇一七人を,刑法犯,道交違反を除く特別法犯,および道交違反ならびに,ぐ犯に分け,その内訳をみると,総数のうち,刑法犯は一九・四%,特別法犯は二・四%,ぐ犯は〇・九%で,残りの七七・三%を道交違反が占めている。

III-56表 家庭裁判所における少年保護新受事件の受理人員(昭和36〜40年)

 つぎに,昭和四〇年における受理総数を事件受理の経路別にみると,III-57表のとおりで,これによると,一,〇七八,〇一七人のうち,司法警察員から直接送致されたものが二二・〇%,検察官から送致されたものが七二・五%,他の家庭裁判所から移送または回付されたものが五・三%で,都道府県知事または児童相談所長から送致を受けたものや,一般人または保護観察所長からの通告または家庭裁判所調査官の報告などによるものは〇・二%にすぎない。

III-57表 少年保護事件の家庭裁判所受理経路別人員(昭和40年)

(一) 少年調査

 家庭裁判所は,受理した少年について,審判を行なうため,各種の方法によって環境や資質の調査を行なうが,右の調査にあたるものとして,家庭裁判所に家庭裁判所調査官があり,また,法務省所管のものとして少年鑑別所がある。III-58表は,最近五年間に終局決定のあった道交違反事件以外の一般保護事件について,心身鑑別の有無および心身鑑別を行なった機関の内訳を示すものである。心身鑑別が行なわれた者の総数は,年によって多少の変動はあるが,終局決定総数の一八%前後にすぎない。鑑別を行なっている機関の中では,少年鑑別所が最も多く,鑑別を行なった総数の七〇%ないし八六%を占めている。

III-58表 心身鑑別の有無別人員(昭和36〜40年)

 つぎに,家庭裁判所は,少年に対し,どのような保護処分が適当であるかを決定するため必要があると認めるときは,相当の期間,少年を家庭裁判所調査官の観察に付し,場合によっては,一定の補導措置を講じながら,その反応をみて,少年の個性や環境の特性を見きわめることができるようになっている(少年法第二五条)。これが試験観察の制度である。
 このような試験観察に付される少年の数は,受理総数の一〜三%であるが,昭和四〇年の一般保護事件の終局総人員のうち試験観察を経た少年の総数は一三,三六一人である。そのうち,適当な施設,団体または個人に補導を委託したものが三〇・一%であり,遵守事項を定めてその履行を命ずるとか,条件をつけて保護者に引渡したりするなどの措置を執ったものが,六九・九%となっている。
 つぎに,これらの少年について,試験観察の期間をみると,III-59表の示すとおり,六月以内に終了したものが六七・七%となっているが,他面,一年をこえるものが八九四人に及んでいるのは,注目される。試験観察が本来保護処分決定のための中間的処置であることから,このような長期にわたる試験観察が,この制度の本来の趣旨に添うものであるかどうかは問題とされるところであろう。

III-59表 一般保護事件の終局人員のうち試験観察を経た少年の試験観察期間(昭和40年)

 昭和四〇年について,試験観察を経た少年の終局決定の区分をみると,III-60表のとおりである。これによると,保護処分に付された者は,終局決定総人員の二七・六%にすぎず,不開始,不処分が六四・五%を占めている。不開始となった者のうち,六四・一%にあたる四五二人が所在不明になっているのは,問題といえよう。

III-60表 一般保護事件の終局人員のうち試験観察をした少年の終局区分別人員(昭和40年)

(二) 処分の状況

 家庭裁判所は,少年事件について調査を行なった結果,所在不明その他の理由によって審判に付することができないとか,非行がきわめて軽微であることなどによって審判に付するのが相当でないと認められる場合には,審判を開始しない旨の決定をする(少年法第一九条第一項)。
 調査の結果,審判を開始するのが相当と認められる場合には,家庭裁判所は,その旨の決定をして(同法第二一条),直接審理する。その結果,少年法第一八条にあたる場合であると認めるときは,都道府県知事または児童相談所長に,第二〇条にあたる場合であると認めるときは,検察官に,それぞれ送致する旨の決定をする(同法第二三条第一項)。また,保護処分に付するのが相当と認めるときは,(1)保護観察所の保護観察に付すること,(2)教護院または養護施設に送致すること,(3)少年院に送致することのいずれかの保護処分を決定し(同法第二四条),保護処分に付することができないとか,その必要がないと認められる場合には,不処分の決定を行なう(同法第二三条第二項)。なお,調査または審判の結果,すでに二〇歳以上であることが判明した場合には,決定で,検察官に事件を送致しなければならない(同法第一九条第二項,第二三条第三項)。
 これらの処分の状況を,最近五年間の統計によってみると,III-61表のとおりである。処分のうち,最も多いのは審判不開始であるが,終局決定総数中に占める割合は,昭和三六年の七一・二%から逐年低下し,四〇年には五九・〇%となっている。つぎに多いのは不処分で,総数の一〇・七%ないし二二・三%であるが,総数の中で占める割合は,逆に,逐年上昇の傾向を示している。検察官送致は,終局決定総数の一二・一%ないし一五・五%を占めている。つぎに,保護処分の中で最も多いのは,保護観察で,終局決定総数の二%から三%の間にあるが,昭和三八年から漸増の傾向を示しているのが注目される。そのつぎは,少年院送致で,総数の一%前後であるが,総数に対する割合および実数において,ほぼ横ばい状態にあるといえよう。教護院または養護施設への送致は,〇・一%程度でその数も少なく,とくに顕著な動きはみられない。

III-61表 家庭裁判所終局決定人員(昭和36〜40年)

 つぎに,昭和四〇年および同四一年の終局決定人員につき,道交違反事件とその他の事件(以下,この項において一般事件という。)とに分けてみると,III-62表のとおりである。

III-62表 少年一般事件,道交違反事件別の家庭裁判所終局決定人員(昭和40,41年)

 昭和四一年の一般事件において,不開始,不処分は,終局決定の七四・五%を占めている。保護処分に付された者は,一五・〇%で,道交違反事件に比べてその比率が高いが,これは,事件の性質の差異からして当然であろう。保護処分のうちでは,保護観察が最も多く,一一・一%で,ついで少年院送致が三・八%となっている。検察官送致は一〇・二%で,道交違反事件に比し,かなり低率である。
 つぎに同年の道交違反事件についてみると,不開始,不処分は八二・九%で,一般事件と比べて高率である。検察官送致は一六・二%で,検察官送致の総数の八五・四%を占めているが,保護処分は〇・九%にとどまっている。
 つぎに,刑法犯の主要罪名について,終局決定の内訳をみると,III-63表のとおりである。

III-63表 刑法犯主要罪名別終局決定人員(昭和40年)

 この表は,昭和四〇年に終局決定のあった事件のうち,窃盗,恐かつ,傷害,暴行,殺人,強盗,放火,強かん,業務上過失致死傷について,処分別の人員と百分比を示したものである。
 この表によると,まず,窃盗,恐かつ,傷害,暴行においては,不開始・不処分の割合が高く,窃盗は八二・五%,恐かつは六九・三%,傷害は七八・一%,暴行は八九・三%である。少年院送致の割合の多いのは,強盗(二六・五%),放火(二四・〇%),殺人(一八・一%),強かん(一七・五%),恐かつ(七・四%)で,その他の犯罪は,いずれも五%以下であるが,実数をみると,窃盗の三,七一六人が最も多く,これは,昭和四〇年中における刑法犯少年院送致決定総数(六,七八二人)の過半数を占めている。保護観察の割合の多いのは,強かん(四〇・二%),強盗(三二・四%),殺人(二三・七%),放火(二一・五%),恐かつ(二〇・七%)で,傷害(一四・四%),窃盗(一一・〇%)がこれについでいるが,実数をみると,少年院送致の場合と同様,窃盗が最も多い。検察官送致の割合の多いものは,殺人(四四・四%),業務上過失致死傷(三九・三%)で,強盗(一三・三%),放火(九・一%),強かん(八・一%)がこれについでいるが,その他の犯罪は,いずれも五%以下で,きわめて低率である。
 このように,家庭裁判所の処分状況は,一般的にみて,不開始・不処分の割合がきわめて多いのに対し,保護処分および検察官送致の割合がともにきわめて少ないことが目だっている。そこで昭和四一年中に家庭裁判所で終局決定がなされた少年事件につき,これに対する検察官の処遇意見と,家庭裁判所の終局決定とを対比させ,その合致率をみると,III-64表のとおりである。この表によると,検察官が付した処遇意見と,家庭裁判所の終局決定との合致率は,刑事処分相当の意見を付した事件においてその四一・九%,少年院送致相当の意見を付した事件においてその三〇・二%,保護観察相当の意見を付した事件においてその一九・〇%にすぎない。

III-64表 検察官の処遇意見と家庭裁判所の終局決定との合致率(昭和41年)

 また,検察官が刑事処分ないし保護処分相当の意見を付した事件のうち,不開始・不処分決定のなされたものの割合は,刑事処分相当意見総数の五一・二%,少年院送致相当意見総数の三一・一%,保護観察相当意見総数の六九・七%をそれぞれ占めており,検察官の処遇意見と家庭裁判所の終局決定とが,著しく食い違っていることが注目される。