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 昭和42年版 犯罪白書 第二編/第三章/二/2 

2 保護観察の実施状況

 保護観察対象者の各年別の保護観察新受人員の増減の状況は,II-14図のとおりで,総数についてみれば,昭和二四年以降,二七年が第一頂点,三五年が第二頂点を示したが,その後,三六年から,三八年まで減少し,三九年以降は,逆に増加してきており,四一年末現在,六四,五四二人である。また,近年における保護観察対象者の年末現在人員は,II-108表のとおりである。これを総数についてみれば,昭和三九年以降,漸増の傾向を示し,昭和四一年末現在において,一〇七,八一四人である。

II-14図 保護観察新受人員累年比較(昭和24〜41年)

II-108表 保護観察事件の受理人員・年末現在人員累年比較(昭和37〜41年)

 なお,昭和四一年の新受人員の性別,国籍別人員は,II-109表のとおりで,女子は,三,五一四人(五・四%)であり,外国人は,二,三二五人(三・六%)で,その多くは,朝鮮人である。

II-109表 新受人員の性別国籍別人員(昭和41年)

(一) 仮出獄者の保護観察

(1) 概況

 昭和四一年中に,仮出獄を許されて新たに保護観察を受けることになった者の数は,一八,九五三人で,同年末現在の同保護観察対象者は,七,八三四人であり,II-108表にみるとおり,累年,減少の傾向をたどっている。
 昭和四一年中の仮出獄者の新受人員につき,これを年令別にみれば,II-110表のとおり,二三歳未満九・三%,二三歳以上三〇歳未満四〇・〇%,三〇歳以上五〇・七%で,三〇歳未満の者と三〇歳をこえる者の数が,おおむね相半ばしている状況である。また,同表により,新受人員につき,これを罪名別にみれば,窃盗が四四・四%で最も多く,ついで,詐欺(八・八%),恐かつ(五・六%),強盗(五・三%),傷害(五・一%),強かん・わいせつ(五・一%),殺人(四・一%)の順に多い。

II-110表 仮出獄者の年令別罪名別人員(昭和41年)

 昭和四一年中に保護観察を終了した仮出獄者一九,三九六人のうち,保護観察開始当初,保護観察に付された日から,一か月以内に,保護観察所または指定の場所に出頭した者は,九六・二%にあたる一八,六六五人であり(保護統計年報資料による。),かなり良好な成績を示している。昭和四一年中に,期間満了により,保護観察を終了した仮出獄者一八,二六〇人について,その保護観察期間をみると,II-15図のとおりであるが,一か月以内三一・九%(五,八一五人),一か月をこえ三か月以内三四・八%(六,三五九人),三か月をこえ六か月以内一六・四%(三,〇〇二人),六か月をこえ一年以内一〇・四%(一,九〇四人),一年をこえ二年以内四.一%(七五〇人),二年をこえるもの二・四%(四三〇人)で,保護観察期間の短い者の割合が,かなり多い状況である。保護観察の期間があまりに短い場合には,保護観察の効果を十分にあげるに至らないこともあると思われるが,この点に関しては,あとで述べる。

II-15図 仮出獄者のうち,期間満了により終了した者の保護観察期間(昭和41年)

(2) 保護観察の成績等

 対象者の保護観察成績は,毎月,担当者から提出される保護観察成績報告書の記載内容に基づいて,保護観察所において,「良」,「やや良」,「普通」,「不良」の四段階に評定されている。この評定で,「良」とは,ほとんど問題が認められず,善良な社会人と同等程度に更生していると認められるもの,「やや良」とは,善良な社会人と同等の水準に近づいているもの,「普通」とは,更生意欲が消極的で,指導監督上相当の注意を要するもの,「不良」とは,多くの問題点を有し,指導監督上強力な措置を要すると認められるものである。
 昭和四〇年一二月末現在における仮出獄者の保護観察の成績は,II-111表のとおりで,「良」二五・七%,「やや良」一七・〇%,「普通」三二・五%,「不良」一・八%という状況である。また,昭和四一年中に保護観察を終了した仮出獄者の終了事由別状況は,II-112表のとおりで,期間満了九四・二%,取消し四・七%,停止中時効完成〇・九%等である。また,同表により,期間満了による終了者の終了時の保護観察成績別状況をみると,終了者総数に対し,「良」一九・七%,「やや良」一八・〇%,「普通」五一・二%,「不良」二・四%で,これを,他の保護観察種別対象者に比較すると,「良」および「やや良」の者の割合が多く「不良」の者の割合が少ない状況で,この点よりみれば,仮出獄者の保護観察成績は,他に比べ,概して良好であるということができる。

II-111表 仮出獄者の成績評定百分率(昭和40年12月末現在)

II-112表 仮出獄者の保護観察終了事由別人員(昭和41年)

 なお,法務省保護局の調査によれば,昭和三七年一〇月末現在の無期刑仮出獄者数は,二七三人,同四〇年末現在の同仮出獄者数は,推定五〇七人である。これらの無期刑仮出獄者は,恩赦による刑の執行免除等にあずからないかぎり,終身,保護観察を受ける者である。ちなみに,無期刑仮出獄者で,昭和三七年以降の五か年に,恩赦により,刑の執行免除を受け,保護観察を終了した者の数は,一四人である。

(3) 停止,取消し,救護等の措置の状況

 仮出獄者のうち,不定期刑のみの言渡しを受けた者が,保護観察の成績が良好で,健全な社会の一員として更生したと思われるとき,保護観察所長は,地方更生保護委員会に対し,不定期刑終了の申請を行ない,その決定があった場合に,その保護観察を終了する措置を執っているが,昭和四一年中に,この申請の行なわれた者は九人で,その全部が同終了の決定を受けている(保護統計年報資料による。)。
 その他の仮出獄者は,その保護観察の成績が良好であっても,それを理由にして保護観察を終結させる措置はなく,原則として,仮出獄の期間が満了するまで,保護観察が行なわれる。
 仮出獄者が所在不明のため,保護観察を行なうことができなくなった場合,保護観察所長は,担当者の意見を聞き,地方更生保護委員会に対し,保護観察の停止の申請を行なっている。停止の決定があれば,その対象者は,停止の状態の続く限り,仮出獄中の刑期が進行しない。また,その対象者の所在を発見した場合は,地方更生保護委員会に報告して,停止解除の決定を求める措置を執り,再び保護観察を継続することになっている。昭和四一年中に保護観察停止の申請の行なわれた者は,九一二人で,そのうち,同決定のあった者は八九七人である。また,同年中に停止の解除の申請の行なわれた者は,八〇六人,そのうち,同決定のあった者は,七九五人である。また,同年末現在,この保護観察の停止中の者は,一,六一五人(仮出獄者七,八三四人の二〇・六%)である(保護統計年報資料による。)。右に述べたとおり,保護観察の停止決定により,仮出獄中の残刑期が進行しないこととなり,時効が完成しないかぎり,保護観察が終了しないため,保護観察所に係属する,いわゆる所在不明対象者が累積する結果となっており,これら所在不明者の所在発見のために払われる努力は,少なくないものがある。
 仮出獄中の対象者が,罪を犯し,罰金以上の刑に処せられたとき,保護観察所長は,地方更生保護委員会に対し,仮出獄取消しの申報を行なっている。また,同対象者が遵守事項を遵守せず,仮出獄取消しが相当であると思われるとき,保護観察所長は,担当者の意見を聞き,地方更生保護委員会に対し,仮出獄取消しの申請を行なっている。昭和四一年中に,仮出獄取消しの申報の措置の執られた対象者は,四三一人,同申請の措置の執られた対象者は,五五〇人で,それらに基づき,仮出獄の取消しを受けた対象者は,九二二人である(保護統計年報資料による。)。
 仮出獄者が,補導援護を必要とする場合,保護観察所においては,自庁において,帰住旅費の給与,医療保護,食事の給与等を行なうほか,更生保護事業を営む団体(更生保護会)または個人に委託して,食事付宿泊の供与,宿泊所の供与等の救護の措置を執っている。昭和四一年中に,この救護の措置を執った状況は,II-113表のとおりである。とくに,更生保護会や個人に委託して実施した対象者の数は,四,一〇九人であるが,これは,同年中の仮出獄者の新受人員の二一%強にあたる。このことは,仮出獄に際し,その五分の一以上の者が,他に帰住先がないか,または生計が困窮しているなどのため,更生保護会等への委託保護にあずかっているということで,この救護の措置が,仮出獄者の保護観察のうえに果たしている役割は,とくに大きいものがあると判断される。

II-113表 仮出獄者に対する救護の実施状況(昭和41年)

(二) 保護観察付執行猶予者の保護観察

(1) 概況

 昭和四一年中に,新たに保護観察付執行猶予の言渡しを受けた者の数は,八,五一三人で,同年末現在の同保護観察対象者は,二三,九六八人である。近年におけるこれらの数は,II-108表にみるとおり,おおむね,横ばいの傾向を示している。
 昭和四〇年中の新受人員(八,三五〇人)のうち,初度目の執行猶予の言渡しにあたり,保護観察に付された者は,六,三三二人(七五・八%),再度目の執行猶予で保護観察に付された者は,二,〇一八人(二四・二%)で,この二種の対象者の近年における新受状況は,II-114表のとおりである。

II-114表 保護観察付執行猶予者の初度目・再度目別人員累年比較(昭和36〜40年)

 昭和四一年中の保護観察付執行猶予者の新受人員につき,これを年令別にみればII-115表のとおり,二三歳未満三六・一%,二三歳以上三〇歳末満三四・六%,三〇歳以上二九・三%で,比較的若年の成人が大部分を占めている。また,同表により,新受人員につき,これを罪名別にみれば,窃盗(三九・二%),傷害(九・一%),恐かつ(九・〇%),詐欺(六・六%),強かん,わいせつ(六・〇%)等が,そのおもなものである。

II-115表 保護観察付執行猶予者の年令別・罪名別人員(昭和41年)

 また,保護統計年報資料によれば,昭和四一年中に保護観察を終了した保護観察付執行猶予者八,〇九八人中保護観察開始当初,保護観察に付された日から一か月以内に,保護観察所または指定の場所に出頭した者は,七八・六%にあたる六,三六一人で,仮出獄者に比べ,かなり低率である。保護観察の開始にあたって,対象者の保護観察所等への出頭を確保することは,保護観察の効果を上げるうえにきわめて必要であり,とくに,プロベーションの対象者については,保護観察への円滑な導入を図るという点で,重要であるが,保護観察付執行猶予者の場合,現状は右のとおりで,出頭確保のためのなんらかの措置が望まれるわけである。
 現在,この点については,裁判所で,保護観察に付する旨の言渡しがあっても,それが確定して保護観察に付されるまでには,検察官と被告人の双方から上訴権の放棄がないかぎり,法律上,裁判の確定までに一四日間の時日の経過を要することとなっており,また,本対象者の場合,仮出獄者らと違って,住居については,本人がすみやかにこれを定めて保護観察所長に届け出れば足りることになっており,その届出を怠る者については,保護観察開始のとき,その出頭を確保しにくい状況にある。

(2) 保護観察の成績等

 昭和四〇年一二月末現在における保護観察付執行猶予者の保護観察の成績は,II-116表のとおり,「良」二二・八%,「やや良」一九・一%,「普通」三四・四%,「不良」五・二%という状況である。また,昭和四一年中に保護観察を終了した者について,その終了事由別状況をみれば,II-117表のとおりで,終了全員八,〇九八人のうち,仮解除のまま終了した者四・七%,期間満了による者六六・一%,取消しによる者二七・三%,その他一・九%である。なお,期間満了により終了した者の終了時の成績別状況は,終了者総数に対し,「良」二一・四%,「やや良」一〇・八%,「普通」一八・一%,「不良」二・三%(このほかに,所在不明により評定除外の者一一・六%,その他がある。)である。これらの状況を仮出獄者と比較すると,「普通」の率が著しく低率であり,とくに,「取消し」の率が著しく高率である点が注目される。

II-116表 保護観察付執行猶予者の成績評定百分率(昭和40年12月末現在)

II-117表 保護観察付執行猶予者の保護観察終了事由別人員(昭和41年)

 また,期間満了により保護観察を終了する保護観察付執行猶予者の中には,所在不明のまま終了する者が一〇%をこえているが,さきにも述べたとおり,この対象者については,他の保護観察種別対象者と異なり,住居の移転,または長期の旅行の場合,あらかじめ,保護観察所長に届け出れば足りることになっていて,とくに許可を必要としないため,移動に際し,そのは握に困難が伴う場合の多いことなども関連していると思われる。

(3) 仮解除,援護等の措置の状況

 保護観察付執行猶予者のうち,保護観察中の成績がとくに良好である者に対して,保護観察所長は,地方更生保護委員会に対し,保護観察仮解除の申請を行ない,その決定があった場合に,保護観察を仮に解除する措置を執っている。昭和四一年中に仮解除の申請の行なわれた者は,四七六人で,そのうち,決定のあった者は,四五八人である。また,この決定のあった者について,保護観察開始のときから,仮解除されたときまでの経過期間をみると,同期間の執行猶予期間に対する割合が,五〇%以内の者五・九%(二七人),五〇%以上七〇%以内の者三四・九%(一六〇人),七〇%以上の者五九・二%(二七一人)で,その大部分の者が,執行猶予期間の二分の一を経過したのちに仮解除にあずかっている状況である(保護統計年報資料による。)。
 また,保護観察付執行猶予者のうち,保護観察を仮解除されている者で,その行為等に問題があって,再び,保護観察を行なうことを必要とする場合,保護観察所長は,地方更生保護委員会に対し,仮解除取消申報の措置を執っている。昭和四一年中にこの措置の執られた対象者は一〇人である(保護統計年報資料による。)。
 保護観察付執行猶予者に対して,保護観察所長は,本人が遵守事項を遵守せず,その情状が重く,猶予の言渡しを取り消すべきものと思われたとき,検察官に対し,その申出を行なっている。昭和四一年中に,その申出の行なわれた対象者は三一人である(保護統計年報資料による。)。
 昭和四一年中に保護観察付執行猶予者に対して,新たに行なわれた援護の措置の状況は,II-118表に示すとおり,自庁によるもの九三四人,委託によるもの二三四人で,その新受対象者数(八,五一三人)に比べ,被保護者数が少ない状況である。これは,仮出獄者らと異なりプロベーションの対象者であるため,いちおう,住居等の固定している者が多く,援護の必要のある者が比較的に少ないことによると思われる。

II-118表 保護観察付執行猶予者に対する援護の実施状況(昭和41年)

(三) 婦人補導院仮退院者の保護観察

 婦人補導院仮退院者は,II-119表に示すとおり,年間受理人員がきわめて少なく,昭和四一年末現在の同保護観察対象者は,一人である。また,近年において,保護観察期間中,再犯等により,処分の取消しを受けた者もない。

II-119表 婦人補導院仮退院者(昭和33〜41年)